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好きです

「まさか、愛莉チャンにお兄チャンがいたなんてね~」


 文化祭が終わり、いつもの日常へと戻ってきた。

 玖珂先輩と愛莉姫と蓮見先輩との帰り道。そんなことを言う蓮見先輩はさっき、愛莉姫から全部を聞いた。


 もうすぐ、愛莉姫と蓮見先輩との別れ道だ。愛莉姫は私の手を握って「海砂ちゃんも頑張って」と囁く。

 愛莉姫と琴葉ちゃんには言ったんだ。玖珂先輩が好きと。

 それに愛莉姫も蓮見先輩に告白するみたいだし、琴葉ちゃんも頑張ると言っていた。だから、私も頑張ろうと決めたんだ。

 愛莉姫の手を握り返し「愛莉ちゃんも頑張って」と囁きかけた。それに嬉しそうに愛莉姫は笑う。


「バイバイ、また明日!」


 愛莉姫と蓮見先輩と別れた後、私は勇気を振り絞って玖珂先輩の名前を呼んだ。数歩前を歩く玖珂先輩はゆっくりと振り返って私を見る。

 私はいつか玖珂先輩をドキドキさせてやると誓ったんだ。そう、やるなら今だ。怒られてもいい。軽蔑されてもいい。


「賭けに勝ったので私の言うこと一つ叶えてください!」

「あぁ」

「じゃあ、目を瞑ってくださいませ!私がいいって言うまで開けないでくださいね」


 「目を?」と意味が分からないと言った感じだったが、言われた通りに目を瞑った。

 目を瞑っている玖珂先輩のすぐ目の前に来る。心臓がバクバクと鳴り響いている。

 今から私がしようとしていることは最低なことだ。玖珂先輩の気持ちを聞かずにするのだから、無理やりするのと一緒だ。


「えい!」


 背伸びをして、玖珂先輩の唇に自分の唇を押し当てた。すぐに離し、玖珂先輩から離れようとしたがそれは叶うことはなかった。

 なにせ、玖珂先輩は私を捕まえたというように私を抱き締めたのだから。


「ちょっ、玖珂先輩!」

「アンタはバカだな…」

「確かに馬鹿なことしましたけど」

「本当にバカだ。キスぐらいオレがいくらでもしてやる」

「えっ?」


 チュッとリップ音付きで私の唇に何度もキスをしてくる玖珂先輩。一体何が起こったのか全く理解出来ない。

 まず状況を落ち着かせようと玖珂先輩の腕から抜け出そうとするが、力を強める玖珂先輩には勝てなかった。


「アンタから貰えるもので欲しいものがあるって言っただろ?」

「はい、言ってましたけど?」


 今、この状態で言うことなのか。

 玖珂先輩は楽しそうに笑っているので言うことなのだろうと思うことにした。

 もう一度、玖珂先輩はキスをする。確かに最初は私からしたがこう何度もされると無性に恥ずかしい。一回でも恥ずかしいというのに。


「アンタが欲しい」

「へっ?」

「アンタが欲しいんだ」

「えぇぇ!」


 きっと今は真っ赤な顔で口をパクパクさせている。

 玖珂先輩が言ったことはまるで告白みたいではないか。あの時に終壱くんと話していたことはやっぱりそういうことだったのか。


「あのっ、玖珂先輩は私のこと…」

「好きだ。いつの間にか、アンタのこと好きになってたみたいだ」


 視界が涙でぼやける。悲しくて泣いているわけじゃない。嬉しくて泣いているんだ。

 こんなことあってもいいのか。あってもいいのだろう。

 私は自分から玖珂先輩の腰に腕を回す。


「私も、私も好きです!」


 そう言うと玖珂先輩は嬉しそうに微笑んだ。

 こんな幸せでいいのか。こんな温かくていいのか。

 最初は怖い人だと思った。それも変わり、不器用な人だと思った。不器用で優しい人だ。


「こんな幸せって、ありなんですか?」

「ありだろ。アンタが信じられないのなら…」


 私の言葉に玖珂先輩はフッと意地悪な笑みを浮かべた。何か悪いことを思い付いたようだ。

 私の頬を優しく撫で、玖珂先輩は顔を近付ける。そして、ひどく優しいキスをした。


「アンタが信じられるぐらいキスをしてやる」

「ふぇ?」

「それに…アンタは碓氷にファーストキス許したみたいだな」

「なっ、忘れてたのに!」


 なぜ知っているんだ。なぜ!

 私の思いが通じたのか玖珂先輩は「碓氷に聞いた」と言った。あの会長め!あとでシメる!と心の中で誓う。

 それにあれは事故だ。ファーストキスとは認めない。あれは事故なんだ。


「あれは事故なんです!」

「まぁ、事故でも何でもいいが…今のアンタとキス出来るのはオレだけだからな」


 誰にも譲らない。そう私の耳元で呟き、玖珂先輩は更に抱き締める力を強めた。それに答えるように私も力を強めたのだった。


 きっと、愛莉姫も琴葉ちゃんも想いを伝えたのだと思う。そして、思い思いに過ごしているのだろう。


 あぁ、幸せだなと思うと笑みが零れる。こんな幸せは本当にあるんだなって、凄く嬉しい。


「玖珂先輩、好きです!」

「アンタはいつでも直球だな。だからバカって言われるんだ」


 呆れたような瞳で私を見る玖珂先輩だが、それはひどく優しいものだった。


「まっ、バカな子ほど可愛いって言うしな」

「それ、ひどいです!」


 フッと意地悪そうな笑みを浮かべ、玖珂先輩はがしがしと私の髪を乱す勢いで頭を撫でるのだった。


これで完結とさせていただきます。

これからは不定期に番外編を更新する予定です。あまり本編になかった琴葉と陽輝、愛莉と晃樹の番外編も書きたいと思っています。

ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます!

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