文化祭①
「お帰り。今日は楽しかったか?」
「おかえりっ、お兄ちゃんがいなくて寂しかったんだから!」
次々に入ってきた客に店員が声をかける。
今日から始まった文化祭はどうやら繁盛しているみたいだ。私たちの出し物の「きょうだい喫茶」もかなりの客が入ってきている。
裏方からコソッと店を覗くとテーブルは満席だ。これなら列を作って待っている客もいることだろう。
「オレンジジュースはいりまーす」
裏方に注文を取った店員が入ってくる。店員は愛莉姫だった。
可愛くお洒落した愛莉姫は一番輝いている。なのでよく客に話しかけられている。そんだけ愛莉姫は美人さんなのだ。
始まってそうそうに疲れだした愛莉姫にお茶のペットボトルを渡す。お礼を言ってゴクゴクと飲み始めた。
「生き返るー!」
「お疲れ。愛莉ちゃんのおかげで繁盛だよ」
「そうでもないよ。海砂ちゃんのお兄ちゃんがいるからだよ」
お兄ちゃんもモテる。客寄せにそこら辺を回ってきたら何十人のも女性を連れてきた。
だが、愛莉姫も店である教室の前に立っただけで何十人のも男性が連れた。
蓮見くんも持ち前の人懐っこさでお姉様方が凄く蓮見くんにいってた。それで少しだけ琴葉ちゃんがむくれていたのだ。それが可愛かったと思う。
「海砂ちゃんはまだ表に出る時間じゃないの?」
私は裏方の仕事をしながら表に出る形になっている。まだ表に出る時間じゃないので裏方の仕事をしているんだ。
だから裏方から時々コソッと表を覗いて状況を確かめている。
「まだだよ。でも、時間になったらそこら辺回ってこいって言われた」
「そうなんだー、頑張ってね」
愛莉姫の応援も受け、私はがぜんやる気が出た。
時間になり、店の看板を持ち、外回りにいく。服装は妹ぽく可愛らしい服だ。
ぷらぷらと動きながらいろんなところを見てくる。文化祭も楽しそうなところがいっぱいある。後でいろいろ見て回りたいと思うが、賭けの件がある。
賭けは負けられない。絶対に勝つ。
そう思うが、私に何が出来るのだろうか。今のところ、裏方の仕事しかしないぞ。
「あの~?」
「はい?」
ぷらぷらしていたら数人の他校の男子に話しかけられたみたいだ。これはチャンスだ。私にも客寄せが出来るみたいだ。
「きょうだい喫茶をやってます。私のお兄ちゃんになってもらいませんか?」
出来る限り可愛い印象を与えるために上目遣いを頑張ってみた。
数人の男子は楽しそうに笑い「いいね、行こうか」と言ってくれた。それが嬉しくて微笑む。
「可愛いね。お兄ちゃんってもう一度言ってみて」
「お兄ちゃん?」
「よし、行こうか」
「ありがとうございます。お兄ちゃん素敵!」
しばらく店まで歩く時間が私には苦痛だった。客寄せって意外に大変なのだと。きょうだい喫茶っていうのは大変なのだと。
みんなをお兄ちゃんと思わなくていけないみたいだ。
店に数人の男子を案内し、また客寄せのためにそこら辺を歩く。校舎内だけでもなく外まで歩いていく。
綺麗な庭園にも文化祭に来た人たちはいっぱいいる。その人たちに見えるように看板を上げて持って行く。私と同じように客寄せをしている人もちらほら見えた。
「あっ、あの子じゃない?」
「そうだね。あの子だよ」
数人の女子の声が聞こえ、私は振り返る。女子はおか高の制服を着ていた。私より学年は上だと思う。
私の方へ歩いてきて、目の前に立ち止まる。彼女たちは嫌な笑みを浮かべた。
「ねぇ、あんたさ東堂くんの何なの?いとことからしいけど」
これは終壱くんがこと好きな人のパターンみたいだ。今にも私が憎いという目をしている。
「正真正銘のいとこです。兄は愁斗です」
「まじで?似てない」
すみませんね。平凡な顔で、お兄ちゃんや終壱くんみたいに整った顔じゃなくて。だけど、自分ではこの顔好きなんですよ。
「でも、いとこだからって調子乗るんじゃないわよ?」
調子は乗ってないと思います。どっちかというと立場を分かっています。
だけど、仕方ないんだ。これは私だけが言われるだけでいいんだ。愛莉姫には絶対に何も言わせない。私が目立てば愛莉姫が終壱くんに接触しても何も言わずにすむ。
キッと彼女たちを睨み付けた。そうすると彼女たちはすぐに睨み返してくる。
「私と終壱くんはいとこです。ですので、あなたたちに何かを言われる筋合いはないと思います」
「むかつく!」
彼女たちの一人が私に向かって手を振りかざしてきた。叩かれる。そう思ったが恐怖はなかった。あるのはただ叩かれたら裏方の仕事しか出来ないなと思う気持ちだけだ。
目を瞑り、衝撃を待ったが私が感じとったのは小さな彼女たちの悲鳴。
意味が分からずに目を開けると、私を叩こうとした彼女の手を掴んでいる玖珂先輩がいた。
「…玖珂先輩?」
「アンタは世話が焼けるな」
彼女の手を離し、最後に睨みをきかせる。そうすれば彼女たちは走って逃げてしまった。
玖珂先輩が私を助けてくれた。これで何度目だろう。玖珂先輩に助けてもらうのは。
呆れたような玖珂先輩の視線を感じ、私はそっと微笑んだ。
「ありがとうございます。凄く嬉しいです!」
「なんで嬉しいんだよ」
「秘密です!」
嬉しいんだ。玖珂先輩が私を助けてくれたことが。だってそれは玖珂先輩が私のことを気にしていると一緒のことだと思うから。
未だに笑い続ける私の額にツンッと玖珂先輩は指で突っついた。
「アンタを守ってやるって言っただろ?」
「…っ」
フッと笑みを浮かべる玖珂先輩は優しくて、胸が苦しかった。
私が気持ちを自覚した時に思ったこと、玖珂先輩にもドキドキしてほしい。それを実行したい。
額を突っついた手を取り、自分の手で包み込んだ。私は玖珂先輩からそれをされるとドキドキすると思ったのでそうしてみたんだ。
「どうでしょうか?」
「…何が?」
「ドキドキしますか?」
「……はっ?」
アンタ何言ってんだと言いたげな目で私を見てくる。どうやら、これは失敗に終わったみたいだ。
だが、今度こそは!と意気込みを入れた。
「玖珂先輩、みててくださいよ。今にでも玖珂先輩をドキドキさせてみせます!そして賭けも勝ってみせます!」
玖珂先輩は私の言葉に楽しそうに笑い「楽しみにしている」と呟いた。




