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宣戦布告

 何度目かの文化祭出し物についての話し合いの結果、妹&兄喫茶という名前が「きょうだい喫茶」という名前になった。

 文化祭に来る客をより多く集めるためである。妹と兄だと客が偏ってしまうので、そこに姉と弟と付ける。そうすれば売上もよくなるということだ。

 なぜ、こんなにも燃えているのかは愛莉姫が燃えているからで、みんながそれに感染されているからだ。


「絶対に売上一位を目指したいんです!」


 愛莉姫の言葉に「おぉー」とみんなは声を出し合う。

 お兄ちゃんは楽しそうに笑いながら愛莉姫に「なら、終壱さんクラスを倒さないとねぇ~」と言い放った。

 それが愛莉姫の目的だ。終壱くんより上にいき、自分を認めさせる。そう愛莉姫は考えたんだ。


「だから、私は宣戦布告をしようと思います!」


 愛莉姫の言葉にまたしてもみんなが「おぉー!」と盛り上がる。

 宣戦布告をしに終壱くんのクラスに乗り込むのだ。みんなもそのつもりのようだ。


 愛莉姫とお兄ちゃんがなぜか先頭に立って、みんなを誘導している。そして、ついに終壱くん達が使っている教室までたどり着いた。


「失礼しまーす」


 お兄ちゃんがドアを開けながら気の抜けた声を発する。

 私がいるところから教室の中は見えないが、お兄ちゃんは中を覗きながら笑顔を浮かべた。


「海砂ちゃん、いこ?」


 いつの間にか、琴葉ちゃんが私の手を握り、愛莉姫がいる方を指差す。一緒に愛莉姫と戦おうとしているのだ。

 勿論のことだが、琴葉ちゃんの隣には蓮見くんが立っていた。

 二人はなぜ愛莉姫が宣戦布告をしにいく知らないのに、愛莉姫を支えようとしている。私と愛莉姫は本当にいい友達に恵まれた。


「うん、行こうか!」


 ギュッと琴葉ちゃんの手を握り締めたら、蓮見くんが羨ましそうに私を見ていたが知らないふりをした。

 私たち、三人が愛莉姫の側に来ると愛莉姫は嬉しそうに笑った。


「終壱さん、はっけーん!」


 お兄ちゃんが教室の中にいる終壱くんを指差しながら、そう叫んだ。終壱くんは嫌そうに眉をひそめ、ため息を吐いた。


「うるさいぞ、愁斗」

「だってねぇ、おれたちは宣戦布告しにきたのですよぉー」

「宣戦布告?」


 意味が分からないといった感じで終壱くんは首を傾げる。そんな終壱くんを見ながらお兄ちゃんはにやにやと笑っていた。

 私はお兄ちゃんの隣に来て、私の隣に愛莉姫が来る。その隣に琴葉ちゃんと蓮見くんがやってきた。

 蓮見先輩が小さく「愛莉チャン?」と呟いたのが耳に入ってきた。それに玖珂先輩が呆れたようにため息を吐いたのが見えた。多分、玖珂先輩は「変なことをするのか」とか思ってそうだ。


「私達が文化祭で売上一位を貰います!」


 ピシッと終壱くんを指差しながら、愛莉姫は高々と宣言する。

 何を言っているんだ。そんな目を終壱くんはしたが、そんな終壱くんの肩に腕を乗っける大友先輩が「楽しそうだね」と笑った。

 終壱くんのところのクラスの女子は愛莉姫に聞こえるような声で「なに、あの子」とか悪口を言っているのが聞こえた。愛莉姫に少しでも攻撃的な声が無くなるようにするために私がいる。

 なにせ、彼女たちは終壱くんのことが好きなのだ。愛莉姫が終壱くんにつっかかったら、愛莉姫が攻撃される。だから、私がいる。


「終壱くん、私は負けません!絶対に愛莉ちゃんを勝利させてみせます!」

「海砂…」


 私に視線を向け、終壱くんは私にだけにしか分からないように悲しく目を伏せた。ズキッと胸が痛むが、これは二人が兄妹ということをちゃんと自覚してほしいと思ったから我慢出来る。

 心を落ち着かせるために私は無意識に玖珂先輩の方を見た。玖珂先輩は愛莉姫のことも何も知らないのに、私を安心させるように微笑んだ。その笑みは意地悪な笑みなんかじゃない。私を安心させる笑みだ。


「いいねぇ、終壱のいとこさんは元気があって」


 終壱くんの代わりに大友先輩が楽しそうに笑っていた。その笑みは玖珂先輩の笑みと違い、不快しか生まれない。

 私を見て、愛莉姫を見て、最後に玖珂先輩を見た終壱くんは何かを考える素振りをして口を開く。


「分かった。なら、俺も本当を出そう」


 終壱くんの言葉に大友先輩は「じゃあ、僕も終壱のアシスタントを頑張ろうかな」と未だに笑いながら言い、終壱くんはそれに微笑むだけで答えた。

 蓮見先輩は心配そうに愛莉姫を見ていたが決意が決まったのか、愛莉姫に向かってそっと微笑んだ。

 彼はどうなのだろうと玖珂先輩の方を見ると、玖珂先輩は呆れたような目をしていたが私の視線に気付き、口パクで「バカ」と呟いた。馬鹿じゃないと睨み付けると玖珂先輩はフッと笑みを零した。

 これが、愛莉姫と終壱くんの兄妹喧嘩の開始だった。


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