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登下校の真実に高鳴る心

 おか高の大友先輩に出会ってから、もやもやする。はっきり人に嫌な気持ちになったのはこれが初めてで、大友先輩とは絶対に気が合わないと思った。

 それに玖珂先輩が不機嫌だ。大友先輩に会ってから本当に不機嫌だ。多分、私が見た中で一番不機嫌だと思う。


「愛莉チャン、大丈夫かな?」


 ぼそりとそんなことを呟くのは蓮見先輩だ。

 蓮見先輩が言うように愛莉姫の体調のことが気になる。いつも元気な愛莉姫は今日はお休みだ。風邪らしいので、たくさん寝て元気になってほしい。あとでメールでもしようと考える。


「あとでメールでもしてみましょうね」

「そうだね、メール見るぐらい元気になってくれていたらいいんだけど…それに今は陸翔も不機嫌だし」


 チラッと玖珂先輩の機嫌を確認するように見て、蓮見先輩はため息を吐いた。

 蓮見先輩は愛莉姫のことが心配でたまらないのに玖珂先輩のことも気にしている。本当に優しい先輩だ。愛莉姫が惚れるのも分かる。


「そういえば、東堂チャンは知ってた?」

「何をですか?」


 玖珂先輩の様子を見ながら、蓮見先輩はいかにも今思い出したように言葉を紡いだ。


「陸翔が東堂チャンと一緒に登下校する理由!」


 それは常々不思議に思っていたことだ。是非とも聞きたい。

 目を輝かせて蓮見先輩を見れば、彼はにっこりと笑う。笑いながら、少し前を歩いていた玖珂先輩の肩を叩く。


「じゃあ、それは陸翔クンに聞いて」


 フフッと笑みを零し、蓮見先輩は走ってどこかに行ってしまった。きっと家に帰ったのだろう。

 私は言われた通りに一緒に帰る理由を聞くために玖珂先輩の顔をジッと見つめた。


「玖珂先輩…」

「…………はぁ」


 諦めたように玖珂先輩がため息を吐き出す。そしてぼそりと何かを呟いたが聞こえなかった。

 もう一度、と催促すると嫌そうに口を開く。


「…アンタが心配だからだ」

「へ?」

「アンタが心配だから一緒にいるんだろ」


 それ以外に何があるんだよ、と瞳が語っている。その瞳にその予想外の言葉にドクンと胸が高鳴った。

 そんな私の様子に気付いていないのか、玖珂先輩は更に言葉を付け加えた。


「合同文化祭がおか高と聞いて、前にアンタがおか高の生徒に絡まれていたのを思い出した」


 確かにそんなことがあった。殴られそうになった時に玖珂先輩が助けてくれた。

 だが、その時はまだ玖珂先輩が私のことを会長の女だと誤解している時だ。なので、玖珂先輩はおか高の生徒にわざと私が自分の女だと思わせ、狙われやすくしたんだ。会長に嫌がらせをしたいがために。


「アンタがオレの女だと思っているなら、オレのことが気に食わないヤツにアンタが狙われると思った」

「そうなんですか…」

「だから、アンタが心配なんだよ」


 文句あるのか。そんなことを付け加えながら言う。

 本来なら「危険なことになるかもしれないのに!」と怒るところなのかもしれない。なのに私は単純に玖珂先輩が私のことを心配していることが嬉しかった。


「私、嬉しいです!」

「はっ?」

「玖珂先輩が私のこと心配してくれるのって嬉しいと思ってしまったんです」


 玖珂先輩は呆けた表情をしたが、すぐに声を出して笑い出した。


「アンタは本当にバカだな、バカ」

「馬鹿じゃないですよー」

「いや、バカだ。ここまでバカなヤツに初めて会ったな」


 何だか凄く馬鹿にされたが、段々と怒るより笑いがこみ上げてくる。

 あぁ、幸せだなぁ。心の中で呟いた言葉の意味を深くは考えなかった。

 楽しそうに笑う玖珂先輩は不機嫌さもなくなっていて、嬉しい。でも、なんで玖珂先輩は不機嫌だったのだろう。きっと今なら教えてくれると思う。


「あの、玖珂先輩…今まで不機嫌だった理由って何ですか?」

「不機嫌か…別に対したことじゃねぇよ」

「でも…気になります」


 どうしてこんなに気になるのか、自分で自分が不思議だ。でも気になる。気になるんだ。

 私の必死な思いが伝わったのか、ふぅと息を吐く。


「あの時…大友だったか。アイツが言ってたヤツ…しゅういち、って」

「え、あっ、終壱くん?」

「誰?」

「私のいとこですけど‥?」

「いとこ、か…ふーん」


 いかにも興味なさそうに言う玖珂先輩。なぜ、そんなことを聞いたのか。不機嫌な理由に関係があるのか。

 もしかして終壱くんに何か嫌なことをされたのだろうか。終壱くんは優しいが、性格は穏やかというわけではない。今は穏やかな性格にしようとしているらしいが、本来は気性の激しい人だ。とにかく短気なのだ。


「何か終壱くんにされたんですか?」

「いや、何もされてないな。ただ、気に入らないだけだ」


 気に入らないといっても玖珂先輩は終壱くんと文化祭で出し物を一緒にやらなければならないのではないか。大友先輩が終壱くんのことをクラスメイトと言っていたので、きっとそうだ。


「何が気に入らないんですか?」

「全部だ」

「全部って……私にとっては兄みたいな人なんですけど…」


 私の言葉に玖珂先輩は目を少しだけ見開いて、若干だけ嬉しそうに「兄、か」と呟いていた。驚かせることなんか言ってないし、嬉しくなるような言葉も言ってない。

 もしかして終壱くんが兄みたいな人というのに驚いたのか。だが本当に終壱くんは兄みたいな人だ。それは変わらない。昔は「終壱お兄ちゃん」と呼んでいたし。

 でも終壱くんが悲しそうにしている姿を見るのは嫌い。自分に甘えてほしいと思う。それは母親のような姉のような父親のような感情だ。

 玖珂先輩に感じる感情と全く違う。


「あれ?」


 私はどうして玖珂先輩のことを考えたのか。今は終壱くんのことを考えていたというのに。

 でも、確かに玖珂先輩に感じる感情は激しい波のような感情だ。玖珂先輩の一言で嬉しくなったり嫌になったり、触られたらもっと触ってほしいのに恥ずかしいぐらい心臓が跳ねる。

 玖珂先輩だけに感じる感情がそれなのだ。


「どうかしたのか?」

「いえ!なんでもないです」


 きっとなんでもない。今に心臓が張り裂けそうなほど高鳴っているなんて、きっとなんでもないんだ。


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