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私と超危険人物の秘め事


 連休が終わり、担任の柳葉先生に気晴らしがてらに頼まれて、私は今普段から使われてない西棟にある資料室に居る。

 持ってきたプリントをファイルに挟む簡単な作業だ。

 ファイルを探すため、一旦プリントを窓際の近くにある机の上に置く。

 強い風が吹き、机の上に置いたプリントの一枚がひらひらと舞う。

 あっ、と思った時にはもう遅くプリントは窓の外に出て行ってしまった。急いで窓の外を見るが、資料室の外の裏庭は生徒が普段使う中庭とは違い、静かなところだ。

 私は慌てて、窓枠のところに足をかける。幸いなことに資料室は一階だ。地面との距離は短い。

 プリントを見失わないために窓から身を乗り出した瞬間に体勢を崩し、地面に落ちた。

 その時、私は見落としていた。生徒が裏庭に一人だけ居たことを。


「うぁ!」

「……っ」


 チュッと唇に触れる柔らかいもの。落ちたのに痛くない体。私を支えるために下敷きとなった何か。

 瞬時に瞑っていた目を開けると、綺麗な紫色の瞳と目が合った。

 綺麗な紫色の瞳に目の端に写る青みがかった黒髪、端整な顔立ち。

 それが生徒会長様と気付くのに時間がかかった。


「へ?え、えぇぇ!!」


 落ちた私を支えようとして一緒に地面に倒れた挙げ句に、下敷きにしてしまったであろうことか、更にこの仕打ち。

 バッバッと私は会長様の上から勢い良く離れる。勢いが良すぎた結果、後ろの校舎の壁に頭をぶつけてしまった。


「いっ…ぅ」


 それでも会長様と距離をとるために、じりじりと壁をつたって横移動。

 横移動していたら、手に何かが当たったので、そちらに気がそれた。


「プ、プ、プリントッ!」


 やったぜー、プリントゲット!

 自分の本来の役目を思い出し、プリント片手に立ち上がってしまった。

 あれ?私、何か忘れてませんか?

 プリントを取り戻した嬉しさで私は会長様のことを忘れてしまっていた。そのことを思い出して、一気に青ざめる。

 会長様は既に立ち上がっていて、口元を手で隠し、小刻みに震えていた。

 これ、お怒りですよね?


「あ、あの…」

「くっ、っはは…」


 口元を隠していても聞こえる笑い声。

 声を殺しているつもりなのだろうが、全くもって意味がない。

 なぜ、笑っているのか私には理解が出来ない。

 もしかして、怒りすぎて笑っているのですか?


「あの~?」

「くっ、なにか?」


 笑いながらこちらを見る。怒っている感じではなさそうでホッとした。

 でも、そしたら何で笑っているのだろうか。意味が分からずに首を傾げたら、会長様はスッと目を細めた。

 さっきまで笑っていた面影を残さずに急に真面目な顔立ちになり、胸がドキッと高鳴った。


「君は馬鹿なのか?窓から外に出て行こうとする人は初めて見た」

「うっ…それは緊急事態でして」

「緊急事態か。まぁ、そういうことにしといてやろう」


 会長様はうっすらと笑みを浮かべた。

 何かを企んだかのような笑みに鳥肌がザワッと立つ。警告音のように心臓がバクバクと鳴り響いた。

 逃げた方がいい。そう頭では分かっているのに逃げれない。


「それよりも、だ。君はさっき私とキスした、違うか?」

「事故です!事故です!わざとじゃないです!」

「……君の態度を見ればわざとじゃないということは分かる」


 じゃあ、なぜそんなことを聞くのだろうか?

 私にとってさっきの出来事はすぐにでも忘れ去りたい記憶だ。まさか、ファーストキスがよりによって会長様なんて。

 私はバッと体を90度まで折って礼をする。


「すみませんでしたー!あれはノーカンでお願いします」

「ノーカンか…ふーん、そうか」

「会長様だって私なんかと、その…あの…キスをしたのは嫌ですよね?だったら忘れましょう!」

「忘れたいのか?」


 真剣な表情になっていた会長様に全力で頷く。

 そうすると、なぜか不機嫌な顔をして私の方へと一歩とまた一歩と近付いてくる。それに合わせて私も一歩ずつ後ろに下がっていった。

 トンッと体が校舎の壁に付く。それを見た会長様は、不気味なぐらい優しい笑みを浮かべて、私のすぐ近くまで来た。

 逃げろ、私!と力を振り絞って横移動をしようとしたが、それを見越して会長様が壁に片手を付く。


「忘れたいなら、忘れたらいい。忘れられるのならば…」

「へ?ちょっ、んん」


 顎を掴まれたと思ったら、青みがかった黒髪がさらりと揺れた。鼻孔をそそる爽やかな匂いが私を支配した。

 あっ、と思った瞬間に柔らかいものが唇に当たる。会長様の唇だと気付いた時には、もう遅い。

 強引に唇を押し付けてくる彼の所為で頭がクラクラする。


「うぅー!」


 何だか泣きたくなってきた。

 どうして私がファーストキスをこんな形で奪われなければならないのか。確かに最初は私が悪い。悪いけど、この仕打ちはない。

 本格的に視界がぼやけてきたら、唇が離され、彼自身も私から離れた。

 力が入らずに私は地面にドサリと座り込んでしまった。


「初めてだったのに…」

「へぇ、初めてだったのか」


 私を見下ろしながら、薄く微笑んだ。


「初めてだったら、なおさら忘れられないのでは?」

「……っ」


 初めては好きな人とする。女子なら誰でも憧れることだ。私もゲームや本を読みながら、私にも好きな人出来るのかな?と考えたこともあった。

 確かにゲームをしていた時は、生徒会長の碓氷 悠真が好きだった。

 それでも、今では大嫌いだ。馬鹿やろー!


「このっ、イケメンの皮を被った極悪人!」

「極悪人か、初めて言われたな」


 口角を上げ、軽く声を上げて笑う。その笑みに心臓が少だけ跳ねた。

 騙されてはいけない。彼は極悪人だ。初めて会った人にキスをする危険人物だ。

 顔が好みなんて思ってはいけない。


「もういい。あなたに、敬称なんて必要ないんだ!この碓氷め!」

「っはは‥別に構わないけど、君の名前を私は知らないのだが?」

「私が教えるわけないもん!」

「それもそうだな」


 じゃあ、調べるか。そんなことを呟き、生徒会長の碓氷は笑みを深める。


「また、会おうか」

「はっ?」

「逃げても無駄だから、諦めとけ」

「はっ?え?」

「では、そろそろ、戻らないといけない時間なので失礼する」


 最後に私の肩を叩き、耳元に顔を近付けて「また会うことになる。そうだろう、海砂?」と呟いた。

 その言葉と耳元で囁かれたため、耳が熱い。熱に犯されたぐらい熱い。


「どういう意味?てか、私の名前知ってるじゃん」


 去っていく彼の後ろ姿を見続けながら、私まだ気付いていなかった。

 制服のポケットに入れていた生徒手帳が抜き取られていたことに。


「あっ、先生から頼まれてた仕事してない」


 私は、もやもやした気持ちを抱えながら、仕事を片付けた。



どうしてこうなったのだろうと自分で反省中です。

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