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問題児と兄妹ごっこ

「東堂チャンはお兄ちゃんがいたんだね~」


 「陽輝から聞いたよ~」と付け加えるように私に話しかける蓮見先輩。

 今日は週に何度かある愛莉姫と蓮見先輩と一緒に帰る日だ。玖珂先輩と蓮見先輩が前で私と愛莉姫が後ろを歩いていた。

 くるりと後ろを振り返りながら私に話しかけたので私は見えるように頷いて「いましたよ」と言う。


「ねぇ、海砂ちゃんのお兄ちゃんってどんな人なの?」

「名は東堂愁斗。通称、残念なイケメンである」

「…そ、そうなんだ」


 愛莉姫の極普通の質問に即答でそう答えると、若干うろたえたがすぐにホッと息を吐いた。そんな愛莉姫の行動に首を傾げるが、愛莉姫が笑っているので私の考えすぎだと思った。


 しばらく、雑談をすると愛莉姫と蓮見先輩と別れる道まで来た。二人に手を振って、別れる。

 そんな様子をジッと見つめていた玖珂先輩に体を向けて「どうしたんですか?」と問いかけた。


「アンタ、妹ぽいもんな」

「そうなんですか?」

「あぁ、甘えん坊」


 手を伸ばしたと思ったら、私の額にでこピンをする。意外にでこピンの力が強くて痛い。

 額を抑えながら上目で玖珂先輩を睨み付けるが、彼はフッと笑みを浮かべるだけだった。


「玖珂先輩はお兄ちゃんぽいですよ、意地悪なお兄ちゃん!」

「アンタの兄は意地悪なのか?」

「甘いですよー、私に甘いですよー!」


 いいだろう、と言うように自慢げに笑えば「なら、今だけ意地悪な兄にオレがなってやるよ」と言われた。

 意地悪な兄ってどんなことをするのだろうか。お兄ちゃんは私に甘いので、意地悪な兄というのがよく分からない。

 興味本位で玖珂先輩の言葉に頷いた。頷いたのを確認すると玖珂先輩はニヤリと笑う。


「なぁ、海砂…」

「ふぇっ!?」


 ビクッと体が跳ねる。玖珂先輩の目が「なんだ?」と訴えているが、それどころではない。

 玖珂先輩が、私のことを名前で呼んだ。いつもは「アンタ」とかしか言われなかったのに。過去に一度だけ私の名前を確認するように呼んだ時とは違う。はっきりと意志があって呼んだんだ。

 ただ普段から名前呼びじゃなかったから、こんなにも反応するんだ。こんなにも顔だけではなく、全身が熱いんだ。


「玖珂先輩!やっぱり、やめましょう!意地悪な兄をするのは!」

「……玖珂先輩じゃないだろ?オレはアンタの兄なんだから、先輩はおかしい」

「え、えっ、え?」

「ほら、呼べよ。お兄ちゃんってな」


 どうやら玖珂先輩に変なスイッチが入ってしまったようだ。

 冷静になろうと、心を落ち着かせようとするが、その度に玖珂先輩が「ほら、早く」と急かすのでパニクってしまう。


「呼べないのか?呼べないなら、オレ達は兄妹じゃない。なら、ああいう関係になってもいいだろ?」


 ああいう関係ってどんな関係だー!とつっこむ前に玖珂先輩は私の肩を軽く押す。トンッと背中に家を囲む塀が当たる。

 驚きで顔を上げるがすぐに顔を横に逸らす。なにせ、玖珂先輩の顔がすぐ近くにあったのだから。

 今にも唇が触れそうな距離に顔があり、私はドキドキと心臓が鳴り響くのを感じた。


「くが、せんぱい…あの、その近いです!」


 顔を見ないように玖珂先輩の胸を押す。だが、その手を玖珂先輩に取られ、何も出来なくなってしまった。


「アンタは未だにオレのことを先輩だと言うのか?海砂…オレと兄妹の関係は嫌なのか?」

「…っ」


 耳元で囁かれる声は甘く、普段の玖珂先輩の不機嫌そうな声とは全く違う。まるで恋人に愛の言葉を囁いている時の声みたいだ。

 手首を掴む玖珂先輩の手の力が強くなる。グイッと引っ張られ、玖珂先輩の腕に抱き締められた。


「オレと兄妹は嫌なんだろ?」


 甘く、切なく声を発する玖珂先輩。

 この場を切り抜けるためには一つしかない。あの言葉を言うしかない。そうしないと永遠に玖珂先輩から兄妹ごっこをさせられてしまう。


「お兄ちゃん、やめて!」

「嫌だ。海砂は苛めると面白いからな」

「えっ、ちょっと話が違うと思います!」

「なにが?」


 お兄ちゃん、と言えば兄妹ごっこは終わるんではなかったのか。私はてっきりそう思っていた。

 玖珂先輩は未だに楽しそうに意地悪な兄を演じている。てか、玖珂先輩の中の意地悪な兄のイメージはこういうのなのか。ちょっと意外だ。玖珂先輩なら妹をパシりそうだったのに。


「何を考えているんだ?」

「玖珂先輩っ、だから顔が近いです!」


 その格好いいお顔を近付けないで下さい。心臓が破裂しそうなほど、鳴り響いてしまう。

 そんな私の願いを聞いてくれたのか、フッと笑みを零し、離れていった。掴まれていた手も自然に離れる。


「ごっこ遊びも終わりだ。もっとしたかったら、言えよ?」

「したくないです!」

「そうか」


 意地悪な笑みを浮かべ、私の頭を慰めるように撫でる。この時が一番、兄みたいだと思ったのは秘密だ。言ったらきっとまた兄妹ごっこに発展しようだったので。


「まぁ、アンタのところの出し物は妹喫茶なんだろ?いい勉強になったじゃないか」

「妹&兄喫茶ですし、勉強にもなりませんでした!」


 あんな兄とか人気になるのか。いや、意外に人気になりそうで怖い。そう考えるとあれは勉強になったのだろうか。

 玖珂先輩に流されたと思うが、今はポジティブに考えよう。うん、そうしよう。


「そういえば、玖珂先輩のところは何をするんですか?」

「あぁ…ホストクラブだったかな」

「ホストクラブ!」


 玖珂先輩がホスト。似合いそうだ。見てみたい。ホストの玖珂先輩を見てみたい。

 それに蓮見先輩も同じクラスだ。きっと愛莉姫が嬉しがるに違いない。

 そんなことを考えるとますます文化祭が楽しみになってきた。


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