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姫の騎士になるんですよね?

 今日は玖珂先輩と愛莉姫と蓮見先輩と琴葉ちゃんと蓮見くんとでお昼ご飯を食べている最中です。場所は西棟の屋上です。

 肌寒くなってきたこの頃に外で食べるのはどうかしているが、太陽の光で暖かくなっているから良しとしとこう。


「愛莉チャン、大丈夫?元気がないようだけど」

「元気です!私はいつでも元気ですから大丈夫です!」


 私の向かい側で愛莉姫と蓮見先輩がじゃれ合っている。このじゃれ合っているというのは私から見た二人は、ということだ。

 最近、元気がない愛莉姫の顔を覗き込んで顔色を窺う。少しだけ顔色が悪いのは寝不足だと言い張っている愛莉姫にそっと蓮見先輩は手を伸ばした。

 因みに屋上に入ってから私と玖珂先輩と琴葉ちゃんと蓮見くんは一言も話してない。それに気付いてない愛莉姫は具合が悪いのだろう。

 なぜ、私達が一言も話してないのかと言うと、それは愛莉姫が不安になっていることを取り除こうと思ったからだ。

 蓮見先輩が愛莉姫のことを心配すれば、愛莉姫も何かを話してくれるんではないか。それに蓮見先輩も愛莉姫のことを気にかけるようになるんではないかと思ったからだ。だが、それは私以外の三人が思っていることで、私の思惑は違う。

 私の思惑は蓮見先輩にはもうちょっと積極的に愛莉姫にアプローチをしてほしいからだ。蓮見先輩が愛莉姫のことを好きだと知ってるのは私しかいないので、きっと私の思惑に気付いているのは私しかいない。

 だが、蓮見先輩が愛莉姫にアプローチをしなくても愛莉姫は蓮見先輩のことが好きだ。でも、もし愛莉姫が蓮見先輩のことを諦めたらそれで終わってしまう。私は二人に幸せになってほしいんだ。正確には愛莉姫に幸せになってほしいのだが。


「愛莉チャン…無理しなくていいんだよ?」


 額に手を当て、愛莉姫の熱を計る。ぽぉと少しずつ顔を赤くさせる愛莉姫に蓮見先輩は気付き、優しく微笑んだ。

 蓮見先輩の気持ちを知る前だったらこういう風なことがあっても「蓮見先輩が愛莉姫を心配して、安心させようとしているんだな」と思えたと思う。だが、今の蓮見先輩は多分だが「愛莉チャンは無防備だなぁ」とか考えていそうだ。

 はっきり言って、私達四人は邪魔じゃないのか。いや、確実に邪魔だろ。

 少しずつ愛莉姫と蓮見先輩から距離を取る。三人も私と同じように少しずつ後退していった。


 私は愛莉姫と蓮見先輩の本人自覚なしの甘々を見て、それを楽しみながらご飯を食べた。御馳走様です。

 愛莉姫のイチャラブを見れただけで幸せです。でも、空気になることがちょっと大変でした。

 昼休みがもう少しで終わろうとしていた時に私達の存在を思い出した愛莉姫が遠ざかった私達に真っ赤な顔で謝ってきた。それを見て、蓮見先輩が嬉しそうに微笑んだのを私は見逃すはずがなかった。


「東堂チャン、ちょっといいかな?」

「はい?」


 屋上を最後に出ようとしていたら、前にいた蓮見先輩が私に話しかける。

 既に屋上には私と蓮見先輩しかおらず、みんなは屋上から出て下に降りていった。


「ボクは愛莉チャンが困っていたり、悲しんだりするのがイヤだと思った。そして、もっと頼ってほしいと思ったよ」


 体育祭で見た頼りない蓮見先輩の顔ではなく、ここにいる男はまさしく好きな人を守ろうとしている顔だ。

 愛莉姫の様子がおかしくて、蓮見先輩も気付いたんだ。自分が愛莉姫に何をしたいか。


「ボクは愛莉チャンが好きだよ。それは誰にもやりたくないほどに…」

「はい」

「守りたいんだ…愛莉チャンを。彼女がボクの側で笑っていてほしいと思っていたんだ」


 熱い意志の籠もった瞳は真っ直ぐで綺麗だと思った。

 蓮見先輩もこんな表情が出来るんだと、私は安心している。愛莉姫がゲームでヒロインだから蓮見先輩と結ばれない。そんなのあんましだ。サブだから結ばれないなら、主役になればいい。


「蓮見先輩は、ヒロイン騎士ナイトになるんですよね?」

「そんな立派なものにはなれないけどね」


 私の言葉におかしそうに笑い、蓮見先輩は愛莉姫を追いかけるように屋上から出て行った。

 そのあとを続きながら校舎の中に入ると、屋上に続くドアの隣で玖珂先輩が待っていた。きっと私と蓮見先輩の会話を聞いたのだろう。


「晃樹もやっと本気になったか」

「あれ、知ってたんですか?」


 何を、とは言わない。言わなくても通じるからだ。蓮見先輩が本気で愛莉姫を好きになったことを。

 フッと笑みを零し、私の頭を数回叩くように撫でる。


「晃樹がナイトって似合わないな」

「私は玖珂先輩の方が似合わないと思いますけど?」

「言ってくれるな」


 嘘。本当は似合うと思う。だけど、玖珂先輩はヒロインのナイトにはなってほしくなかった。

 それが何の感情からくるものなのか、まだ分からないものだった。


「アンタも姫は似合わない」

「…知ってますよー」

「似合わない同士で頑張るか」

「何をですか?」

「さぁな」


 玖珂先輩が「頑張る」とか珍しい言葉を使った。その些細なことが何だか嬉しくて声を出して笑ってしまう。

 そんな私を見てため息を一つ吐き出しながら、玖珂先輩は私の腕を掴んで「行くぞ」と階段を降りていく。

 こんな日々が嬉しくて、私の心がまた温かくなった。


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