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私が知らない約束

 今日は休みである。なので前に約束をしていた生徒会の山本先輩と高橋先輩と一緒に遊ぶことになった。

 待ち合わせの場所である公園に行くと、どうやら私が先だったみたいなので二人を待つ。

 公園は中央に噴水があり、公園全体は木で囲まれている。夜になると噴水に光が灯るので、デートスポットとして有名だ。

 噴水の前のベンチに座り、二人が来るまでの時間はぼんやりと人や景色を眺めていた。

 友達や恋人の待ち合わせ場所に丁度いいのか、人を待っている人達が多い。時計をしきりに確認する人や私と同じようにただボケーッと人を見ている人、様々な人達であふれかえっている。そんな中、一際目立つ異様な人を見つけた。

 私は数回、ぱちぱちとまばたきをして、目を凝らす。ん?と小さな声が出たが、それを聞いている人は私以外いない。

 目立つ異様な人というのは決して服装が派手とか、そういうことではない。つい目を向けてしまうということだ。その人物は休日だというのに制服を綺麗に着こなしていて、流れる癖一つない黒髪は色っぽく見える。


「……終壱くん?」


 そう、誰もが振り返ってしまう格好良さを持っているのは東堂終壱である。紛れもない私のいとこだ。

 終壱くんの方は私に気付いてはいないみたいだ。辺りを見渡して息を吐いたかと思えば、ケータイで誰かと連絡を取る。

 周りにいる女子の熱い視線や男子からの妬みの混じった視線を受けても堂々と歩く姿は様になっている。ケータイをポケットに入れる仕草も格好いいと感じてしまいそうだ。


「ごめん、遅くなった」

「ごめんね。あれ、なに見てるの?」


 ここにいる大半の女子と一緒に終壱くんを見ていた視線を私に声をかけてきた二人に向ける。

 山本先輩と高橋先輩は私が見ていたところに視線を向けた。「あ、イケメンだね~」と山本先輩の方が呟いたが、特にそれ以外何も感じてないようだ。高橋先輩の方は周りの女子と一緒に頬を染めている。


「海砂ちゃんは、ああいうのがタイプなの?」

「え?いえいえ、様になってるなぁと…」

「そうだもんね、海砂ちゃんにはあの問題児がいるもんね」

「えっ!」


 問題児と言われて思い出すのは玖珂先輩だ。

 顔が熱くなり、手でパタパタと風を送る。その反応を山本先輩が面白そうに見ているので、少しだけ反論してみよう。


「山本先輩は会長が好きなのでイケメンに反応しないんですね」

「なっ、違う!タイプじゃないだけよ!」


 大声で否定する山本先輩。大声なので聞こえていたら失礼だ。

 山本先輩の好きなタイプは洗練された美しさがある人だそうだ。会長は格好いいというよりも美しいらしい。

 だが、終壱くんは王子様のような雰囲気があるのに野性的な何かを秘めている、と山本先輩は言っている。そして、高橋先輩のタイプらしい、顔が。確かに高橋先輩は終壱くんを目で追っていた。


「モテるんだ、やっぱり」


 つい思った言葉を口に出してしまったら山本先輩が不思議そうに私を見ていた。

 「じゃあ、行こうか」と高橋先輩を引っ張りながら私にそう言い、山本先輩は歩き出す。それに付いて行きながら、最後にチラッと終壱くんを見ると彼と目が合った気がした。



 山本先輩と高橋先輩と一緒にショッピングや食事を楽しんだりした。

 充実した一日だったとベッドの上でころころしていたら、可愛げのない着信を告げる電子音が鳴り響いた。

 ケータイの画面を見ると「東堂終壱」と出ている。慌てて電話に出るとクスクスと耳たぶを刺激する笑い声が聞こえた。


「ごめんね、いきなり電話して」

「いえいえいえ、終壱くんと電話出来るって贅沢だと思っただけ!」

「海砂はいつでもオーバーリアクションだね」

「そんなことないよ!終壱くんが女の子の視線に気付いてないだけだよ!」


 今日だって遠くから見ているだけでも多くの女子が終壱くんを見ていた。流石は天然たらしの終壱くんだ。

 それよりも今日は何で電話をしたのだろうと思っていると「今日、目が合ったよね?そうしたら会いたくなってね」と甘ったるい声で言われた。きっと声と同じに甘ったるい笑みを浮かべているのだろうなと想像出来た。


「本当は声をかけたかったけど、友達と一緒みたいだったから悪いかなって思って」

「ううん、逆に喜んでたかも?でも、休日も忙しそうだよね、制服まで着て」

「あぁ、風紀委員の仕事がね」


 委員長にもなれば忙しいのが目に見えている。しかも、そろそろ文化祭なので浮かれた人が何かをやらかさないかで大変らしい。

 そんな大変な日に私と電話するより休んでいたらいいのにと思う私の心を読んだように「海砂と電話は俺にとっての休養だよ」と言われる。この言葉で照れない人がいるなら是非とも会ってみたいと思ったほど、恥ずかしい。


「クスッ、恥ずかしがってるのかな?電話越しでも分かってしまうよ」

「うっ…」

「その恥ずかしがってる顔、他の男に見せたら駄目だよ?」


 疑問系なのに有無を言わせない圧力がかかっている気がする。小声で肯定の言葉を呟くと心配そうな声で「本当に?」と質問される。


「海砂はどんどん綺麗になっていくから心配なんだ。他の男に持っていかれそうで怖い」

「えっ、終壱くん?」


 声のトーンが低くなり、電話越しで聞こえる声が無機質なものになる。


「ねぇ、約束を覚えてるか?」


 ゾクッと全身の鳥肌が立つ。終壱くんの声がどこか違う人の声のようだ。

 約束とは何のことなのか。終壱くんが言う約束とは知っているようで知らない何かのようで怖い。

 何も言葉を言わない私に痺れを切らしたのか、立て続けに言葉を発する。


「じゃあ、海砂は好きな人が出来たか?」

「好きなひと……」

「そう、好き人だよ。気になる人だ」


 好き人ではピンとこなかったが、気になる人で思い出す。玖珂先輩の顔を思い出した。それは先輩方が私に「玖珂陸翔のことが気になってるの?」と言われたからだ。

 それにしても、どうしてそんなことを言うのか。約束と関係があるのか。


「そう…海砂には気になる人がいるんだね」

「えっ、あの終壱くん…」

「いいよ、別に。海砂が俺のこと好きなら気になる人ぐらい居てもいい」


 そう言い切る終壱くんだが、どこか怒ったような声色だ。

 そのあとすぐに「じゃあ、切るね。でも覚えておいて…お前が俺に言った言葉の責任は取って貰うから」と言われた言葉を私は電話が終わったあとでも、ずっと考えていた。


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