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気になる

「「すみませんでした!」」


 空き教室の一角。

 私の目の前で一人の男子生徒に頭を下げている女子生徒が二人。

 男子生徒の方は見事な赤髪にオレンジの瞳。眉を寄せて、なぜか頭を下げている女子生徒の方じゃなくて私の方を見ている。彼、玖珂先輩の目が語っている。「なにやったんだ、アンタは」と。

 誤解だ、玖珂先輩よ。私は何もしていない。頭を下げている女子生徒、茶髪の先輩の方のお話を聞いたら仲良くなっただけだ。玖珂先輩にも謝りたいということで黒髪の先輩と一緒にきた。

 因みに、茶髪の先輩は山本やまもと先輩で、黒髪の先輩を高橋たかはし先輩という。

 今度三人で遊ぶ約束までしたんだぜーとどうでもいい情報を心の中で呟いた。


「別に気にしてない」


 いつまでも頭を下げる二人にため息を吐く。本当は怒鳴ってもいいのに、玖珂先輩は大人だなと親指を立てれば睨まれる。

 学校一の問題児に許しをもらった二人はホッと息を吐き、私に笑顔で「じゃあ、また今度ね」と言う。仲良くなった二人は可愛いし、美人さんだ。会長の話をする山本先輩が一番綺麗というのが少しだけ憎いが。なぜ、会長なんだ、と不満からきているものなのだろう。だが、恋する乙女は綺麗というのは本当みたいだ。

 二人が出て行ったあとの空き教室は静かな空気が流れた。それを最初に破ったのは玖珂先輩だ。


「アンタは何をしたんだ…」

「なんもしてないですよー!」


 ただ仲良くなっただけ!と強調して言うと玖珂先輩は疑うような目で「そうか」と呟いた。

 疑う玖珂先輩だが、本当に私は話して仲良くなっただけなのだ。それに私に対する誤解も解けたし。

 誤解というのは私が会長が好きという誤解だ。それを解いて、ついでに桐島先輩の周りにいる先輩方にもその誤解を解いたら別の誤解が生まれたがこの際スルーだ。


「アンタ、なにさっきからぶつぶついってんだ」

「うぉお!」

「うるせぇ」


 考え事をしていたら、玖珂先輩が近付いたことに気付けなかった。

 近くにいた玖珂先輩に脅かされてバクバクする心臓を落ち着かせる。

 ふぅと息を吐き出し、玖珂先輩を見上げれば、彼はジッと私を見つめていた。ドクンと心臓が鼓動する。先輩方が言った言葉が頭を過ぎった。

 違う、違うとぶんぶんと首を振るがその言葉は消えはしない。


「どうかしたのか?」

「いえいえ、どうもしてませんです!」


 自分でも可笑しいとか分かっているんだ。だけど、あの言葉が頭から離れない。

 違うと否定したいのにどこか否定出来ない自分が憎たらしい。どうか、まだ私は知らないままでよかったのに。


「もうすぐ、昼休みが終わりますよ!教室に戻ってください!」


 玖珂先輩を追い出す形で背中を押し、空き教室から出て行かせる。先に玖珂先輩が歩き出したのを確認してから、廊下の窓から見える外を見つけた。

 今日は雨だ。ザァァと降り続ける雨に気が滅入る。

 廊下の先を見つめれば、さっきまでいたはずの玖珂先輩の姿が見えない。きっと私が一人でいたいことに気付いたのだろう。玖珂先輩は感がよすぎるから。

 廊下の窓を開けると、風に吹かれた雨が頬に当たる。


『海砂ちゃんは玖珂陸翔のことが気になっているの?』


 先輩方に言われた言葉を何度も思い出す。

 首を振りながら「気になる」とはどういうことなのか。それが気になってくる。でも、そう考える時点で私は玖珂先輩のことを気になっているということになる。

 最初はただの怖い人だったはずなのに、どうしてここまで仲良くなったのか。


「……東堂さん」

「えっ?」


 聞いたことがある声が後ろからかかり、バッと後ろを振り返る。そこには会長が立っていた。

 会長仕様の爽やかな笑みを浮かべる会長はいつもと違う。その前に私を呼ぶ時はいつも名前だったはずだ。名字ではなかった。


「一つ、君に言いたいことがあってきた」

「え…なんですか?」

「……諦めきれるかどうかは分からないが、私は君を諦めることにした」

「えっ、っと…はい?」


 会長が何を言っているのか分からない。

 諦めるとか何なのか。でも、会長はやけにスッキリとした顔をしている。


「陸翔にくぎを差されてな……不本意ながら、負け宣言をしてしまった。まぁ、あの言葉があった所為でもあるが」


 ポンポンと私の頭を何度か叩き「陸翔を頼む」と小声で呟いた。

 よく分からないが会長なりに玖珂先輩と仲直りをしたいのだろう。そう思ったのがいけなかったのか、会長はいつもの意地悪な笑みを浮かべる。


「だが、陸翔が嫌がることはしたいな」


 クックと笑い出す会長に背筋が冷えた。あなたさまは何をなさろうとしているのか。知りたいけど知りたくない。

 そんなことを考えていると予鈴が鳴り響いた。


「では、また」

「あ、はい」


 最後にポンと頭を叩き、会長はその場をあとにした。

 いつもとどこか違う会長はやけにスッキリとしていて、不思議だったが、やっぱり会長は会長だと思った。


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