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雨ではこの気持ちは流してはくれない

 嫌がらせをする会長ファンの正体を知るためには、あの先輩方を頼った方がいいと思った。

 桐島先輩の周りを囲む先輩方は私にいろいろ教えてくれると思う。なので先輩方に連絡するとすぐにでも会うことになった。

 先輩方は私に言いたいことがあったらしい。それは私が聞こうとしていたことだった。

 嫌がらせをする会長ファンのリーダーと思われるのは生徒会の子らしいのだ。その子は学年も違うため、直接嫌がらせをしたことはない。だが、私の学年にいる大人しめの会長ファンの子に指示を出していたみたいだ。

 学年が同じの先輩方に頼んでその子を呼び出してもらった。そして、目の前にいる。

 ふんわりとした茶髪の元気良さそうな女の子と、その子の後ろに隠れる長い黒髪を後ろで一つで結んでいる気が弱そうな女の子だ。どっちも一つ上の先輩だ。

 茶髪の先輩は私がその場に来た瞬間に顔をしかめ、黒髪の先輩は申し訳無さそうに眉を下げだ。


「だから、やめた方がいいって言ったのに…」

「でも、ああでもしないと納得いくわけないじゃない!会長と二人三脚に出た挙げ句に転けるなんて!」


 二人で話し出した先輩に申し訳無くなってきた。

 ごめんなさい、会長に膝を付かせてしまって。だけど、それを嫌がらせではなく直接言ってほしかった。


「あの、先輩」

「なに?」

「言いたいことがあるなら聞きますけど?」


 内心は何も言われるのかな?とビクビクしているが、顔には出てないと思う。

 茶髪の先輩は私を真っ直ぐ見つめ、黒髪の先輩はビクビクとした感じで茶髪の先輩を見守っていた。


「じゃあ、聞きたいことがあるんだけど…」

「はい、なんですか?」

「貴方は会長のことが好きなの?」

「はっ?」


 何言ってるんだこの人。そんな目で茶髪の先輩を見てしまった。

 確かに聞きたいことがあると言われたが怒鳴られると思っていた。「貴方の所為で会長が負けたじゃない!どう責任とってくれるのよ!」とか言われると思っていたんだ。それがまさかの「会長が好きなの?」という質問だったとは。


「貴方が会長を好きでも貴方には似合わない。はっきり言って諦めた方がいいと思う。それに会長には円城寺先輩という婚約者がいるの。貴方には無理よ」

「………それをあなたが言うんですか?」

「なによ」


 キッと睨んでくる先輩に呆れてくる。

 先輩が言ったさっきの言葉はまるで自分に言い聞かせているみたいではないか。私に言うだけならそんな悲しそうな顔はしないのに。

 最初から無理よ無理よと言っている先輩に私だけがそう言われるなんて納得いかない。それに会長が好きだって勝手に想像してんじゃない。


「まず、私は会長のことは好きでもないし嫌いでもないです。恋愛感情とか持ち合わせてないですのでご心配なく。それに会長のことが好きなのはあなたの方ですよね?」

「違う!私は…」

「どうして否定するんですか?好きなら好きって言えばいいのに…」


 どうして自分の気持ちを抑えようとするのか。

 茶髪の先輩は今にも泣きそうな顔で「貴方に何が分かるのよ!」と叫んだ。黒髪の先輩が宥めようとするが、彼女は自分の気持ちを発散させようとしている。

 それを聞かなければならない。私はそう思った。


「私はずっと会長に憧れて、勉強を頑張ったり、生活態度もいい子と思われるように頑張って、やっと生徒会に入ったのに!会長は私の更に上にいる。私よりずっと綺麗な婚約者もいて、成績優秀で格好良くて何でも出来て……そんな人にどうしたら近付けるの?告白なんて出来るわけないじゃない!」


 一気に喋り、はぁはぁと息を荒くする。

 告白は出来なくても気持ちは諦めなくてもいいじゃないか。そう思うがきっと辛いのだろう。

 報われない気持ちを抱えるより諦めた方がいい。そう思うのに気持ちは募るばかり。諦めたい、諦めたくない。だけど気持ちを知られたら今の関係が壊れてしまう。

 そんな気持ちが先輩の表情から伝わってきて何も言えなくなる。


「わたし…何言ってるんだろう」


 あはは、と瞳いっぱいに涙を溜めながら笑う姿に胸が痛い。

 茶髪の先輩に近付き、そっと彼女の手を包み込む。


「私で良ければいくらでも付き合います。きっと、そこにいる先輩も聞いてくれます。だから、一人で泣かないで下さい」

「そうだよ…私もいるよ?」


 私の言葉に頷いた黒髪の先輩が、私が握ってない方の手を包み込む。茶髪の先輩は「ありがとう」と小さく呟いた。

 私は何をしているのだろうと思う。だが、こんな泣いていたら先輩であろうと誰であろうと胸が痛くなる。


『そんなことないよ…私が私が、あなたを愛するから!他の人の分まで、あの人の分まで!そしたら、もう悲しそうに笑わなくても、泣かなくてもいいでしょ?』


 随分昔に言ったことがある言葉を思い出して、優しく微笑んだ。

 あの大雨の日、私はそう言ったことを思い出した。雨が嫌い、そうあの雨の日に嫌いになったんだ。

 先輩の手をギュッと握り締める。それは先輩を安心させるためではないことは私が一番分かっていた。


 水は汚れを落としてくれるって言うけど、それは嘘だ。だって、雨が降っても先輩の心は晴れることはない。彼の心も晴れることはないのだから。


 ふと空を見上げれば、曇り空でもうすぐ雨が降りそうだった。


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