体育祭と二人三脚
二人三脚の集合場所に来た私はキョロキョロと辺りを見回して青団を探す。青団の人が私に向かって手招きをしているので、簡単に場所が分かった。まぁ、ハチマキで分かるのが。
二人三脚はリレー形式で行う。会長をアンカーに、という声もあったが本気で優勝を狙う人達に却下され、アンカーは一番速い人達が走る。最初に走る人達も勢いを付けなければならないので、アンカーの次に速い人だ。私と会長の走る順番は三番である。
左から赤、青、黄という順に二列ずつで並ぶ。まだ会長は来ていないみたいだから、赤の隣を空けて座る。
隣からつんつんと腕をつつかれて、隣にいる黄団の人を見るとよく見知った人がいた。
「蓮見先輩……」
「私もいるよー!」
「愛莉ちゃん…」
蓮見先輩で隠れていた愛莉姫が隙間から顔を出す。
この二人も出ていたのか、と内心思いながら二人を見る。にこにこと楽しそうで何よりだ。
それよりも、この二人が隣にいるということは走る順番が同じということになる。リレー形式といってもあまりどの組も差はないから一緒に走ることになるのだろう。
この二人は意気投合が素晴らしい。勝てる気がしない。
「陽輝もいるよー」
「琴葉ちゃんもいるよー」
ほらほら見て!というように指を指す方を見ると、一番前に蓮見くんと琴葉ちゃんがいる。
「一番前!」
「そうだよ。陽輝は足が速いし、柊チャンとの相性バツグン!」
「速かったよ。まぁ、私達も速いけどね!」
「そうだね。黄団で三番目に速かったかな」
「ソウナンデスカ」とカタカナ語で返事をする。もうあれだ、黄団が二人三脚勝つんじゃないか。
前も言ったが、私と会長は一切練習をしていない。負ける気しかない。
「既に負けますという顔をしている」
頭上で聞こえた声にバッと上を見上げれば、会長がいた。隣に座る会長に蓮見先輩は笑顔で手を振っていた。
「ヤッホー、悠真。勝つのは黄団だよー!」
「晃樹か。いや、私はいつだって一番のつもりだ」
自信満々の男性陣二人につっこみたい。いや、会長につっこませていただきたい。
なぜ、あなたさまはそんなにも自信に溢れているのでしょうか。練習もしてないというのに。
二人三脚をする前から疲れた私は既に負ける気満々だ。
二人三脚が始まって、琴葉ちゃんと蓮見くんが走っている。はっきり言って、速い。こんなに速いとは思わなかった。ぶっちぎり一位で次の走者にバトンパスをしている。
「これはヤバいな」
隣で会長が呟いた言葉に無意識で頷く。そのぐらい速かった。
そして、ついに私達の出番になった。あと数メートルでだ。
既に一位を独占している黄団の第三走者目の愛莉姫と蓮見先輩は数秒前に走っていってしまった。
「よし、いくぞ」
「はい!」
バトンパスをして、会長が走る合図を送る。今更ながら負けず嫌いの血が出てきたのか、負けるのが嫌になった。
元気よく返事をして、二人同時に足を出す。そして、見事に転けた。
そう、私達は練習もしてないし、最初に出す足を決めていなかったのだ。
どうりで転けるわけだよね。脳天気にそんなことを考えていた。
膝を付いたのにすぐに体勢を立て直して、私に「こっちの足からだ」と指示を出す会長。今更だと思うが素直に頷いていた。
その後の私達は何とか走り終えることが出来たが、一位はやっぱり黄団だった。
「会長、すみません。転けてしまって」
「いや、私も事前に練習をしていなかったのが悪かった」
「いえいえ、会長は忙しかったので」
しかも、会長が転けるなんて想像もしていなかったことが駄目だったのだろう。青団のみんなも驚いているのが分かる。
二人三脚が終わったあとで愛莉姫と蓮見先輩に散々笑われ、そのあとに玖珂先輩がやってくる。玖珂先輩は上機嫌というのが手に取るように分かった。
私のもとにやってきた玖珂先輩は頭をポンポンと撫でる手付きが優しい。
「碓氷が膝を付く姿は愉快だった」
形のいい唇を歪ませて、そんなことを言い放った。
そして、私は謝るのだった。会長と会長のファンに全力で心の中で謝った。きっと、会長のファンに恨まれただろうなと思うと胃が痛かった。
体育祭は、結局はヒロインである愛莉姫がいる黄団が優勝をして終わりを告げた。