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体育祭と言い争い

 持久走を一位でゴールをした玖珂先輩のもとに蓮見先輩は行き、玖珂先輩の肩を叩く。


「いやぁ~、流石は陸翔だね。見事な走りっぷりだよ」

「あぁ、まぁな」

「惚れ惚れしちゃう!って東堂チャンが言ってたよ」

「……」


 何言っているんですか!とつっこむ前に玖珂先輩が蓮見先輩を睨む。

 はぁ、と息を吐き出す玖珂先輩は私の視線に気付いたように私の方を向く。フッと笑みを浮かべ、形のいい唇を動かした。

 一位を取ったから、お礼でも用意しとけ。そんなことを口パクで言っていた。唇の動きだけで言葉なんか分かるわけなかったのに、今だけは分かった。


「あれあれ、陸翔クンたらっ!」

「……いい加減、黙れ」


 ゴツッと鈍い音を立て、蓮見先輩はその場に頭を抱え込みながら座り込んだ。

 思いっきり頭を殴られた蓮見先輩を放置してこちらに来る。一位を取ったからなのか、それとも別の理由でなのか、玖珂先輩は穏やかに笑っていた。

 その笑みを直視出来ずに私は視線を外しながら、何かを言わなければと思った。


「お疲れ様です、凄く速かったです!」

「まぁ、そうだな」


 会話が続かないのはいつものことだが、今日ほどそれがもどかしいなんて思わなかった。

 視線をグランドに戻せば、持久走の次の種目が始まっている。座り込んでいる蓮見先輩のもとに愛莉姫が駆け寄って、話しかけていた。

 私の視線を追うように玖珂先輩も愛莉姫と蓮見先輩を視界に入れる。


「アンタはさっきまで晃樹と一緒にいたのか?」

「え、そうですけど?」


 いきなり何を言うのだろうか。別に私は今までも蓮見先輩と一緒にいたことがある。それなのに今日はそういう風に問うのか。

 首を傾げる私の横で、玖珂先輩はさっきまでの上機嫌だったのが嘘のように不機嫌になった。


「えっと、とりあえず落ち着いて下さい!」

「……アンタが落ち着け」

「そうですね……じゃなくて、どうかしたんですか?」


 どうして不機嫌になったのだろう。

 ふと玖珂先輩の行動を振り返ってみる。走って、蓮見先輩を殴って、穏やかに笑って、愛莉姫と蓮見先輩を見て、私に問うてみて、不機嫌になった。

 そして、私は蓮見先輩のあの言葉を思い出す。「陸翔も一途だしね」という言葉を。

 だが、思い付いたことに自分自身でそれはないだろうと思うが、無性に気になる。いや、確実にないとは言い切れない。だって、蓮見先輩が言う「眩しい」と表現は玖珂先輩が攻略キャラだからで、愛莉姫がヒロインだからという風に捉えられる。


「玖珂先輩って、愛莉ちゃんが好きなんですか?」

「はっ?」

「だって、愛莉ちゃんと蓮見先輩を見て不機嫌になったんですよね?」

「なんでそうなるのかが聞きたい。いや、アンタの思考回路がどうなっているのかが知りたいな」


 形のいい唇が歪む。口元は微笑んでいるが、オレンジの瞳が怒りに満ち溢れている。

 ふと思い付いた考えは私の思い違いだったみたいだ。

 怒りがこちらに伝わるぐらい怒っているのに、私は謝ることもせずに呑気に玖珂先輩を見上げていた。こんな風に怒ると出会った最初らへんを思い出す。出会った当初は敵意むき出しで、いつの間にか仲良くなった。野生の動物を手懐けた気分だ。


「私の思考回路はいつでも単純ですよ」

「あぁ、そうだったな。アンタはただのバカだった」

「うっ、頭が良くても馬鹿じゃないって保障はないんですよ!」

「じゃあ、バカの基準ってなんだ?」


 ああ言えばこう言う。まさしく今の玖珂先輩だ。

 馬鹿の基準なんて分かるわけないのに、私は玖珂先輩に反論出来ないことが悔しくて真剣に考える。逆にそれが駄目だったのだろう。玖珂先輩は声を出して笑い出した。


「バカだな、アンタは…」

「くっ、玖珂先輩だって馬鹿なんですから!」

「なぜ?」

「頭がいい癖に不良だし、不良だと思ったらそうでもないし。短気だし、意地悪だと思ったら優しいし!意味が分かりません!」

「オレもアンタが言いたいことの意味が分からない」


 もっと分かりやすく言えよ、と言いたげな馬鹿にした表情の玖珂先輩。だが、何となくだが楽しそうだ。

 最初に出会ったころよりも表情が柔らかくなっている。それが凄くいいことだと私は思っている。出来ることなら、このままずっと笑っていてほしい。

 そう思うことはいけないことなのだろうか。


「プログラム○番、二人三脚。出場する選手は集まって下さい」


 召集の人が声を張り上げ、集まる人達に呼びかける。

 呼びかけに反応するのは私が二人三脚に出るからだ。

 二人三脚に出るにあたって、一つだけ不安がある。それは会長が忙しすぎて練習を一回もしていないことだ。

 ふぅ、と息を吐くとポンッと頭に何かが乗る。見上げれば、玖珂先輩の手が乗っているみたいだ。


「まぁ、頑張れ」

「は、はい!頑張ります!」


 玖珂先輩の珍しい声援を受けて、私は召集場所へと行った。


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