これはないですよ!
体育祭も近付いてきているので最近は練習が多くなっている。今日も各団で行進練習やらを行った。
私はいつも一緒にいる愛莉姫や琴葉ちゃんとは違う青団だが、情報通の千尋ちゃんと一緒の団だ。
「みーさー!!」
ガバッと私に抱き付く。首からかけているカメラがちょいちょいと当たって地味に痛い。
私に抱き付いてきたのは千尋ちゃんだ。最近はよく愛莉姫と一緒にいるから千尋ちゃんともよく一緒にいることになる。だが、千尋ちゃんは報道部に属しているから、ネタがあればどこでも飛んでいくので、一緒にいたと思ったらすぐにどこかに行ってしまう。
「なんかネタが見つかったの?」
「うん!だから、生徒会長を追ってきたのだ!」
ほら!と指を指す先には会長と月宮先輩と青団の団長ーー陸上部の部長らしいーーとその他の三年生などが深刻な顔立ちで話している。
千尋ちゃんは生き生きとした表情で彼らを見つめる。
青団には報道部が千尋ちゃんしかいないらしく、彼女一人で青団を任されたみたいだ。
報道部はネタや写真を撮って、記事にし、みんなに知ってもらう。新聞みたいだ。もちろん、生徒の嫌な噂や生徒自身が隠したいことは記事にしない。みんなが読んで楽しいことを記事にしているのだ。例えば、会長が模試で上位だったとか。そんなことだ。
「今回は何が起こったの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
千尋ちゃんのお話をまとめるとこういうことだ。
毎年、みんなが、というより一部が嬉しがる競技がある。それが、二人三脚だ。どうして二人三脚が嬉しがる競技なのかというと、男女でしなくてはいけないらしい。しかも、絶対に同年代とは組めない仕組み。先輩後輩の男女で二人三脚をしなくてはいけない。お目当ての先輩や後輩に「一緒にやらない?」と言える競技みたい。しかも競技中はくっついてられる素晴らしい競技。
その一部には嬉しい競技が今年は去年より一組増えるらしい。それを誰にするかで揉めている。
会長にやらせて盛り上げようとする派と、それだと会長と一緒にする女子がいじめられるかもしれないから駄目だという派に別れて話し合ってるとさ。
会長が二人三脚に出るか出ないかで、青団を盛り上げる記事の内容が変わるらしいから千尋ちゃんはわくわくしているというお話だ。
「海砂は、どっちがいい?」
「うん…どっちだろうね?」
はっきり言って、会長が出るなら生徒会の女子に頼めばいいし、出ないならそれでいいと思う。でも、会長が出るなら生徒会の子がいいと思うのだが、やっぱりお近付きになりたい女子はいっぱいいるのだろう。そうしないと、会長を出させたくない派が出来るわけない。
かと言って、会長が出なかったら何だか盛り上がりに欠ける気がする。人気のある競技はやっぱり人気のある人が出てこそだ。
「やっぱり、最後は会長が出るか出ないかを決断しなくていけないよね」
「そうそう、そうなんだよ!それが気になるんだよ!出ると言ったら、もしかしたら会長は好きな人がこの団にいる。出ないと言ったら、好きな人はいないか、他の団にいるということになる!こういうネタは記事にはしては駄目だけど個人的には気になるっていうか…気になるんだよ!」
「……そ、そうだね」
思わず、千尋ちゃんのマシンガントークに一歩下がってしまった。そんな様子の私には気にしないで、千尋ちゃんは私の腕を掴んで話し声が聞こえる場所まで近付いた。
他にも会長がどういう決断を出すかが気になって、近くにまで来ている人が結構いた。その人もみんな、友達と話している風に見せているが耳はしっかりと会長らの方を気にしていた。
千尋ちゃんはわくわく、生き生きとしていたので、楽しそうだなと思ってしまう。友達が楽しそうにしているところを見るのは好きだ。
「会長、どうしますか?」
月宮先輩がついに会長に問いかけた。近くにいる女子の唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
月宮先輩はどうかは分からないが、団長や周りの生徒は緊張している様子が分かる。それを見ていたら、何だか自分まで緊張してきた。
会長は考える素振りをして、口を開いた。
「出てもいいが、相手はどうするんだ?」
周りにいた女子が明らかにホッと息を吐いた。きっと、さっきの会長の言葉で好きな人はいないと判断したのだろう。
そんな安心した女子達の悲鳴が次の月宮先輩の言葉で上がった。
「それは会長の好きな人でいいですよ」
つきみやせんぱーい!と叫びたい気分だ。なぜ、ここで空気を読まない。普通は空気を読むだろう。団長や一緒にどうするかを語っていた人達も驚いた様子で月宮先輩を見ているぞ!
周りには女子が異様に集っているんだぞ。普通、会長に想い人がいるかのようなことを言わないだろ!
会長への嫌がらせなのか、それとも本当に気付いてないのか。月宮先輩は不思議すぎる。
それにしても、会長好きな人いたのか!?そっちもびっくりだぜ。
「そういえば、会長は好きな人がいるのですか?」
あんたも知らないのかよ!なら、あんなこと言うなよ、月宮先輩!
つい、声に出して言いそうだった言葉を寸前のところで飲み込んだ。おかげで「ぐぇ」という変な声が出てしまった。
「大丈夫?」と千尋ちゃんが聞いてきたが、私の変な声がやけに大きかったという事実に気が付く。なにせ、会長と月宮先輩はこちらを見たからだ。
「東堂さん?丁度いいところに。二人三脚はどうでしょうか?」
全く丁度よくないんですけど!ちょっと誰か、月宮先輩の暴走を止めてください。桐島せんぱーい、あなたの親友の暴走を止めるためにここに来てください!
そう心の中で叫ぶが青団に桐島先輩はいるはずもないので来るわけがない。
それよりも、さっき月宮先輩は会長には「好きな人でどうぞ」とか言ってたけど、なんで私を誘うのか理解が出来ない。私の頭が弱いからなのだろうか。
「会長の相手とは言いません。僕としませんか?」
「…えっ?」
「会長は何だかやる気がないような気がしますので、代わりに僕が出ようと思うのですが…」
どうでしょうか?と聞いてくる月宮先輩の隣で会長はため息を吐いた。
「月宮は出なくていい。私が出る。その方が盛り上がるのだろう?」
「そうです。分かって頂けましたか?」
「あぁ」
その二人のやり取りで会長が本当は出たくないという事実を知る。出たくないのに、どうして出ようと思ったのだろう。
首を傾げていると、私の前に会長があの壇上で見せる爽やかな笑みを浮かべた。
「月宮が誘ったのだから、その責任は私が取ろう。私と二人三脚はどうでしょう?」
私は自分に言われた言葉ではないと思い、後ろを見る。その行動に笑いながら会長は「私が誘っているのは君だ」と言われた。
「えぇぇ!私ですか!?」
頷く会長に私はつい隣にいる千尋ちゃんを見るが、彼女は「やりなさい!」と楽しそうにしていた。
周りにいた女子も「会長から誘われてるのに断るの?」という目線で私を見ている。あと羨ましいという目線も感じる。
断れない雰囲気が流れる。私はその雰囲気に流されて、小さく頷いた。その時、微かだが会長の口角が上がった気がした。




