電話と会いたい気持ち
ベッドに寝転がりながら、手探りでゲーム機を探す。
ゲーム機の電源を入れ、イヤホンを取り付ける。イヤホンからは聞き慣れたOPが流れる。ゲーム機の画面は普段は見ればキャッキャッと騒ぐイケメン達が次々と映る。
イケメンが主人公の女の子と抱き締め合ったりしている画面が流れ、最近は全くゲームをしてなかったなと思う。なにせ、現実がリアル乙女ゲームなのだ、多分。
ヒロインである愛莉姫は攻略キャラに惚れたわけではないが、私は彼女と蓮見先輩を見ているのが好きだ。頑張れ、愛莉姫!といつも心の中で応援している。
最初は愛莉姫と攻略キャラのイチャラブを見たいなと思ったが、今はそんなことは思わない。愛莉姫には蓮見先輩が似合う。そう思っている。
いつの間にか、OPが終わっていた。前回はどこまで進んだか分からないので最初からすることにした。
しばらくゲームを進めていると、近くに置いてあったケータイがピカピカ光っている。ケータイを開いて画面を見れば、着信だ。しかも電話をしてきた人の名前は「東堂終壱」と表示されていた。
イヤホンを外し、すぐに電話に出る。
「はい、もしもし。終壱くん?」
「今、大丈夫だった?」
「うん!」
終壱くんからはめったに電話はこないので正直言って嬉しい。メールのやりとりはよくするのだが、やっぱりメールと電話は違う。
わざわざ電話をしてきたというのは何かあったのか。終壱くんの声色はいつもと変わらない優しい感じなので、重大な何かは起こってないと思う。
電話越しの数秒の沈黙で気付いたのか、終壱くんはクスクスと笑い声を零す。
「ごめんね。混乱させたかな?何も用はないけど、ただ俺が海砂の声を聞きたかっただけ」
「な、なんですと!?いつから、終壱くんはそんなタラシに育ったんですか!」
声を聞きたかっただけ、とか。そう言うとか駄目じゃないか。
終壱くんはそんなことを平気で言う人だから、しかも本人は正直な気持ちを言ったという。そんなんだと学校生活が不安になる。
女の子に優しく接して、優しい言葉を言う。前も思ったが、終壱くんはハーレムを作る気だ。
桐島先輩もタラシ属性だが、終壱くんはちょっと違う。あれだ、天然タラシ。天然タラシのハーレムだ。
実際は学校での終壱くんを見たことがないのでなんともいないのだが。
「俺はタラシじゃないよ」
「終壱くんは天然なんです!」
「そう?でも、声が聞きたいと思うのは海砂だけだよ」
「だから、タラシじゃないだろ?」と囁くそうに呟く声は電話越しでも色っぽい。
そういうところがタラシだと思いたい。平気でそんなことを言えるなんて凄すぎる。
そういう言葉を平気で言えそうな人は、桐島先輩と会長が言えそうだ。玖珂先輩は絶対に言わなそう。想像したらクスッと笑える。
「楽しそうだね」
「うん、終壱くんが電話してくれたことが嬉しいんだ」
「俺も海砂と話せて嬉しいよ。会いたいな」
はぁ、と吐き出す息は電話越しだと妙な色気がある。耳を震えさせ、ついケータイを少しだけ離してしまった。
「最近も会っただろと言われると思うけど、一度会ったらすぐに会いたくなるんだ。これが欲張りってことかな?」
「んー?でも、私もそう思うよ?会ったら、またすぐに会いたくなるもん」
「そうだよね」
笑い声が聞こえてきて、それが嬉しそうに笑っているのでこっちまで嬉しくなる。
実際に会いたいと言われると嬉しい。私は単純だから嬉しくなる。
私にとって終壱くんはお兄ちゃんみたいな人だ。決して終壱くんが愁斗お兄ちゃんみたいではなく、私の兄的存在と思っているということだ。
だけど、時々お兄ちゃんと思えないことがあるのだが。まぁ、終壱くんは私の兄ではないのだから仕方ない。それに終壱くんにお兄ちゃんと言えば怒るのだ。昔はよく呼んでいたというのに。
「あぁ…もうこんな時間か」
残念そうな声に私は部屋にある時計を見る。時刻は夜の十時を回っていた。
かなりの時間、終壱くんと話していたことが分かる。そろそろ電話は切った方がいいのだろう。
終壱くんはため息を吐いた。
「時間が経つのが早い。もうちょっと話したかったけど、切るね?」
「うん」
「また、海砂がよかったら電話していいかな?」
「待ってる!」
クスクスと笑いながら「じゃあ、また」と囁く。
おやすみなさい、と呟いて電話を切る。
ふと気付くとゲームがつけっぱなしだった。もうすぐで充電が切れそうだ。今日のところはもうゲームは出来ないだろう。
充電機を探し、ゲーム機を充電する。
「まさか終壱くんから電話がくるなんて」
私は本当に贅沢だ。いとこという特権だけで終壱くんに優しくしてもらえる。全国の女の子が羨ましがるぞ。
お兄ちゃんもモテるし、終壱くんもモテる。私の周りは格好いい人が多い。
女の子も可愛い子しかいないし。うん、私は贅沢だ。