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裏庭とサンドイッチとお弁当

 玖珂先輩と喧嘩別れみたいに昨日はなったけど、今日の朝はいつも通りだったので少しホッとした。

 今はお昼の時間で、裏庭に来ている。一回だけ裏庭に会長が来たことがあったのだが、それからは来ていない。なので、安心して昼ご飯が食えるということだ。

 ランランというような気分で弁当を取り出す。因みに今日の弁当は手作りである。お母さんが「弁当ぐらい自分で作りなさい」と言われたから作ったのだ。

 自分で作った弁当のおかずである唐揚げを口に入れる。もぐもぐと口を動かしていたら、近くでクスクスという笑い声が聞こえた。


「君は美味しそうに食べるんだな」

「ふぉっ!?」


 声が聞こえた方を見ると会長が居た。手には弁当らしきもの。私が持っているものより少しだけ高さがある弁当箱だ。

 当たり前のように私の隣に座り、その弁当箱を開ける。中には美味しそうなサンドイッチが入っていた。

 つい、美味しそうなサンドイッチに目がいってしまう。自分が作った弁当より何倍も美味しそうだ。

 あまりにも凝視し過ぎたのか、会長は一つ取って、私の口元に持っていく。


「食べるか?」

「へ?いえいえ、大丈夫です!ただ、美味しそうなサンドイッチだったので」

「美味しそうなら食べてみた方がいいだろう」


 サンドイッチの角でつんつんと私の唇をつつく。唇に触れているので、食べるしかないだろう。

 このまま食べるのか?と会長の顔を見上げると、優しい笑みを浮かべている。私が食べるのを待っているみたいだ。

 いつまでも待っていそうな感じだったので、女は度胸だ!と口を開いて一口だけ食べた。

 これは決して会長の手から食べさせてもらったわけではない。そんなことを考える。実際は食べさせてもらったのだが。


「おいしい…」


 ぽつりと呟いた言葉に会長が本当に嬉しそうに微笑む。

 子どもが無邪気に笑うような印象を受けて、心臓の鼓動が速くなる。

 こんな笑い方も出来るんだなと、つい笑顔に見入ってしまった。


「まだ、一口しか食べてないだろう?」


 一口だけ食べたサンドイッチを渡されたので、今度は自分で手で食べる。

 美味しくて、にこにこと笑顔のまま食べていたら会長が見てくる。なぜ、私の食べる姿をみるのだろうか。サンドイッチをかじりながら、首を傾げると頬を撫でられた。

 気にするな、と言いたげな目で私を見たけど、気にしない方がどうかしている。会長から見つめられたら、食事どころではない。凄く、気になる。


「会長は食べないんですか?」


 一方的に見つめられるより、一緒に食事をした方がマシだ。

 そういう意味を込めて会長を見つめれば、会長は私の弁当を見つめていた。

 今日の弁当は見事に緑がない。茶色ばっかりである。唐揚げやら卵焼きやら、たこさんウインナーなどなど。ウインナーはやっぱりたこさんだよな。

 もしや、会長はたこさんウインナーを狙っているのか!?

 そんなことはないだろうとすぐに否定するが、会長は未だに私の弁当を見ている。


「あ、の…会長?」

「あぁ、すまない。可愛らしい弁当だと思ってな」


 可愛らしい?と頭の中で繰り返し、自分の弁当を見る。弁当の中身を見るといつもたこさんウインナーが目に入る。今日はたこさんウインナーに目もつけた。

 可愛らしいおかずといえば、やっぱりたこさんウインナーしか思い付かない。

 私はたこさんウインナーを箸で摘む。人間でいうと、ちょうど首らへんを掴む。そのまま、会長の顔の前に持っていった。


「これが可愛いんですか?」

「そうだな。愛嬌があって可愛いと思うが?」

「愛嬌…」


 ジッとたこさんウインナーを見つめると、つぶらな瞳と目が合う。なんだか、食べづらくなってしまった。

 私はたこさんウインナーを会長の方に近付ける。


「会長の所為で食べづらくなったので代わりにたこさんウインナーを食べてください!」


 私の言葉に驚き、軽く目を見開いた。だが、すぐに笑みを浮かべ、口を開いた。

 その口に入れようとした瞬間に私の手は固まった。自分は何をしているんだ。なぜ、会長に「あーん」とかそういうことをやろうとしているのか。たこさんウインナーがあまりにも可愛すぎて、食べれないのは分かる。だが、場に流されてはいけない。

 会長は私が固まった理由が分かったのか、くっくっと口を手で塞いで笑っていた。


「もう少しだったのに、残念だ」

「うっ…私は残念でもなんでもありませんです!」


 私はサンドイッチが入っているところに、ぽとりとたこさんウインナーを落とした。

 別に食べてくれなくてもいい。ただ、たこさんウインナーを食べる会長の姿を見てみたいだけだった。想像するだけでも楽しいし。

 そのあとで会長がたこさんウインナーを食べ、私が吹き出したのは言うまでもない話だ。


「そういえば、体育祭の青組のメンバー表を見たのだが、君の名前があって驚いた」

「そうなんですか?」


 私が青組になっても驚くことはないと思う。組み分けは運で決まるのだから。

 首を傾げていると「赤組だと思っていた」と言われた。どうして、みんなは私を赤組だと思うのか。不思議でたまらない。

 何度もいうようだが、組み分けは運だ。どの組に入っても珍しいことではない。


「会長も青組ですか?」

「あぁ、君と一緒だな」


 やっぱり会長は青組だ。組み分けはゲーム通りなのだろう。色合い的にも青って感じだから、いいと思うが。

 会長が赤組とかだったら絶対に似合わないだろうな。赤といえば、玖珂先輩しかいない。

 ぼけっとそんなことを考えていると、ふと昨日言われたことを思い出した。「実は隠れて碓氷と付き合ってる、とかじゃねぇよな?」と言われたことを思い出してしまった。

 裏庭でベンチに並んでお昼ご飯。見た人は完璧に勘違いしそうだ。

 バッと勢いよくベンチから立ち上がる。


「わ、私、教室に戻ります!」

「海砂?」


 不思議そうに会長が私を見る。まだ、弁当も少しだけ残っているからだろう。だけど、そんなことを気にすることはなかった。

 簡単に片付けて、私は一礼をしてから裏庭から逃げるように出て行く。

 私は決して会長と付き合ってるわけではない、と心の中で何度も言う。その言葉は誰に向けて言っているのか、自分でも分からなかった。



 放課後、玖珂先輩との下校。昨日のことで悩んでいた朝よりも口数が減って、というより全く話さないで駅に着いたと思う。

 なぜかは分からない。だけど、なんとなくだが、玖珂先輩の機嫌が悪い気がする。私の気のせいだったらいいのだけど。


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