体育祭の組み分けと動揺
今日は今月末にある体育祭の組み分けをクラスで行います。体育祭の練習とかは夏休み前とかに少しやったが、今からが本番なんだ。
赤、青、黄、と三つの組に別れる。
クラスでその三色の字が書かれた紙を箱から引く。その紙に書かれてたのが自分の組だ。もちろん、運動部がどこかの組に固まらないように、運動部と文化部は引く箱は別れている。
私は帰宅部なので、文化部のところに並び、紙を引いた。
「海砂ちゃーん!海砂ちゃんはもちろん、赤組だったよね?」
既に引き終えた愛莉姫が私の方にやってくる。
にこにことしながら、自分の紙を見せてきた。愛莉姫の紙に書かれていたのは「黄」だ。
自分は「黄」だというのに、私の色は「赤」がいいという風に言うのだろうか。首を傾げて、愛莉姫を見ると「玖珂先輩カラーでしょ?」と言われる。
そう言われるが、つい視界に入った光景に見入る。その光景は、蓮見くんと琴葉ちゃんが笑顔で話しているものだ。私の視線を追った愛莉姫が「あの二人も私と一緒の黄組だよ」と教えてくれた。
その言葉で私はゲームの体育祭の記憶をふと思い出した。まぁ、誰が何の組かしか分からないが。
そう思うと、私は結構忘れていることが多いんだなと実感した。ゲームの記憶があってもなくても、関係ないのだけどね。
組み分けの話に戻るが、黄組は蓮見くんと桐島先輩。赤組は、玖珂先輩と柳葉先生。青組は、生徒会長と月宮先輩だ。因みに、先生はその組だけを応援する先生となっている。
多分だが、愛莉姫が「黄」を引いたので蓮見先輩はきっと黄組なのだろう。
自分は何組かなぁと紙に書かれた字を見る。一緒に覗いた愛莉姫が驚きの声をあげた。
「海砂ちゃん、大変だよ!青組なんて!」
「青組だねぇ」
「なんで、赤組じゃないの!」
そう言われて、引いたものは仕方ない。青組で頑張りたいと思う。
それよりも愛莉姫よ。どうしてここまで赤組に拘るのか。
今日の帰りは玖珂先輩と愛莉姫と蓮見先輩と一緒に帰る。愛莉姫と蓮見先輩とは途中までだが。
四人でするーーというより主に愛莉姫と蓮見先輩しか話してないがーー会話は今日の組み分けのことだ。
蓮見先輩は愛莉姫と一緒の組だと分かり、二人でハイタッチしていた。もう、この二人付き合っているだろと言いたくなるが、付き合ってない。だけど、先輩後輩の域は越えていると思う。
「えー!東堂チャンは赤組じゃないの!?」
愛莉姫が教えたのだろうか、蓮見先輩は大声を出して私に確認する。その大声に私の隣に居た玖珂先輩の手がピクリと動いた。
うるさかったのかな?と顔を見上げると、若干だけ驚いたように目を少しだけ見開き、私を見ていた。
私が見上げたことにより、玖珂先輩と目がパチッと合う。
「アンタ…何組になったんだ?」
「青組ですけど?」
険しい表情になった玖珂先輩は私の言葉を反復するように「青組、か」と呟いた。
何か青組が嫌な理由でもあるのかな?と考えていると、会長の顔を思い出した。これがゲーム通りだというなら、会長は青組だ。
玖珂先輩は会長が嫌い。だから、会長がいる青組は気に食わないといったところだろうか。
なんか、私は玖珂先輩に嫌われにいってるみたい。玖珂先輩と最初に会った時も会長のことで誤解とかあったし。今は仲良くなったかなと思ったら、今回の体育祭の組み分けで青組になるし。
そういえば、玖珂先輩は未だに誤解しているのか?私が会長の女という誤解は解けているのか?
聞きたい。よし、聞こう。
いざ、玖珂先輩に話しかけようとしたら「バイバイ、海砂ちゃん!」と言う愛莉姫の声が聞こえた。
もう、愛莉姫と蓮見先輩と別れるところまで来たのか。早いなと思いながら、愛莉姫に手を振り返す。
二人がいなくなったので、よし今回こそは聞こうと意気込んだ。
「玖珂先輩、聞きたいことがあります!」
「なんだ?」
「玖珂先輩は、その…私と会長の誤解って解けてますか?」
私の言葉によく分からない顔をする。
何秒か考えたあとに、玖珂先輩は「あぁ、アンタが碓氷の女とかいうアレのことか?」と言う。それに全力で頷いた。
「別に今は誤解してねぇよ。こんなに一緒にいるのに分かんねぇ方がバカだろ」
「そ、そう、ですよね!」
フッと笑みを零す玖珂先輩は、穏やかだった。
玖珂先輩の言葉を聞いた瞬間に安心したが、動揺の方が大きかった。
動揺の表れが大きくて、玖珂先輩は不思議そうに私を見るが、その瞳を見つめ返すことは私には出来なかった。
「どうかしたか?」
「えっ!?いえいえ、どうもしてませんよ!」
「いや、してんだろ」
ぶんぶんと首を振り、動揺を隠そうとした。だが、それが更に動揺しているということが丸分かりである。
さっき穏やかに笑ったのが嘘のように不機嫌になり、私を睨む。
私が何に対して動揺しているのかバレたのか!と思い、焦ってしまう。
「……実は隠れて碓氷と付き合ってる、とかじゃねぇよな?」
「なぜ、そうなる!?」
全くの見当外れだぜ、玖珂先輩よ!
誤解しやすい玖珂先輩のおかげで、私は何に対して動揺していたのかバレなかったからいいとしよう。
玖珂先輩は「違うか…」と呟いた言葉は少し安心したような声色だった。
「じゃあ、アンタは何に対して動揺してたんだ?」
「えっ!?だから、動揺とかしてませんよ!」
「……そうか。オレの気のせい、か」
玖珂先輩の整っている唇が歪む。口元は笑っているのに、怒っているような印象を感じた。
これは、本当のことを言わないといけないと思ったが、私は絶対に言いたくはなかった。
「こんなに一緒にいるのに分かんねぇ方がバカだろ」という言葉に動揺したとか言えるわけがない。特に「こんなに一緒にいる」という部分にだ。
最近の私はおかしいんだ。玖珂先輩と一緒にいると安心するのに緊張するし。玖珂先輩が教室に来てから、ずっと玖珂先輩のことを考えてしまうし。
さっきの言葉だって、嬉しかった。
「本当に何でもないですよ!」
「…今回はそういうことにしてやる」
やっぱり、少しだけ怒っている玖珂先輩は面倒くさそうにため息を吐いた。
それから一言も話さずに駅に着いてしまい、玖珂先輩とは別れた。
私は自分の行動を後悔した。なんだか、玖珂先輩と喧嘩別れしたみたいで嫌だった。