裏庭でお昼です
玖珂先輩が私のクラスに乱入して、登下校を一緒にするようになってから三日目だ。因みに、今日は木曜日である。
今は昼休みであって、私は裏庭に居る。なぜここにいるかというと、玖珂先輩の一件でのクラスメイトの痛いぐらいの視線を避けるためだ。
休み時間になると同時にみんなの視線が痛くなる。本当にどうしようかと思う。誰か助けて!と周りを見ても、愛莉姫も琴葉ちゃんも楽しそうにしている。目が語ってる。「いい加減、認めちゃいなよ」と目力で訴えている。
一体何を認めればいいのか分からない。
裏庭に咲いている紫や青の花を見ながら、弁当のおかずをつつく。
裏庭の花は、中庭の花と違って全体的に落ち着いた色合いだ。しかも、ベンチも一つだけだがあり、人が来ないことが素晴らしい。一人になりたい時に持ってこいだ。
いつも一緒に食べている愛莉姫と琴葉ちゃんには裏庭に居るというのを伝えているが、一人でお弁当を食べている。なにせ、さっきも言ったがベンチが一つしかないのだ。二人しか座れない。だから、私は一人でお弁当を食べている。
寂しくないと言ったら嘘になるが、落ち着ける場所があって有り難い。クラスメイトの痛いぐらいの視線がなくなるまで、ここで食べようと思う。
「こんなところに居て、暇とは思わないのか?」
「暇ですよ…暇すぎて花ばっかり見てます………え?」
「ん?」
私は一体誰と会話しているのか。聞いたことある声に、何か前にもこんなことがあったと思う。
恐る恐る声が聞こえた方を向くと、青味を帯びた綺麗な黒髪に不思議な魅力がある紫の瞳。この裏庭の控えめな花たちに紛れられるのに、どこか異様な雰囲気を醸し出していて紛れられない。
中庭のような鮮やかな色の花より、裏庭の花の方が彼の容姿や雰囲気にぴったりだと思う。
「どうした?私に見とれていたか?」
「ふぇ!?」
正直に認めましょう。私はここに来た会長に見とれてしまった。前にも、初めて会った時も裏庭だったがその時は花が咲いてなくて思わなかったが、今は思う。この裏庭は、会長のために造られたのではないのかと。
ここは忘れ気味だが、元々はゲームの世界だったのだ。裏庭が会長のためだけに造られていても不思議ではない。
自分の答えに妙に納得した私は何度も頷いた。
「隣、座っても?」
「はっ、ここは会長のために造られているので、どうぞです!というより、私は邪魔ですよね。これで…」
ベンチから立とうとしたが、隣に座った会長に手を引っ張られて、またベンチに座ることになった。
びっくりして会長を見ると、私が手に持っているものを指差して「まだ、食べてないのだろう?」と言ってきた。
持っていたものは弁当で、まだ半分ぐらいしか食べてない。会長の言葉が正しくて何も言えなくなる。
会長はここで食べろと言っているのだろう。会長の前で食べるというのは気が引けるが、お腹は減っていた。
「早く食べないと昼休みが終わると思うが?」
その言葉に、私は弁当を食べ始めた。
会長は既に食べたらしく、ずっと私が食べているところを横から見てくる。そんなに見ないでほしい。凄く食べづらいし、早く食べようとしているので味が分かんない。
いつもは食べるのが遅い私だが、今日はいつもの三倍ぐらい早いスピードだろうか。
「そんなに急がなくてもいい」
食べながら首を振る。
私がこんなに急いでいるのは誰の所為だ。私の隣に居る人の所為ですよ。そうです、あなたの所為なんですよ!
心の中で叫びながら、キッと会長を睨む。睨んだところで会長は何も感じてない。むしろ、何かに気付いたように手を伸ばす。
会長の指が私の頬に触れ、すぐに離れる。
「あっ…」
「そんなに早く食べるから、ご飯粒が付いていたぞ?」
指で取ったご飯粒をそれが自然の流れだというように、自身の口元に持っていこうとする。
口に入れられる前に手を掴み、ティッシュを取り出す。私の意図が分かったのか、会長は少し残念そうに自身の指を差し出した。
ご飯粒をティッシュで取ると、クスッと笑われたので首を傾げる。
「いや、君は本当に可愛いなと思ってな」
「可愛いだと!?それはないと思います!」
「私にとっては、君は可愛くてずっと構っていたくなる」
構っていたくなる、とか絶対に私のことペットとかおもちゃ程度にしか思ってない発言だよな。会長は本当に私のことをそう思っているのだと思う。
思いっきりそんなことを考えていることが顔に出てたみたいで、会長は困ったように肩をすくめたが、次の瞬間にはいつものような笑みを浮かべていた。
「君と居ると凄く楽しいが、同時に凄く苛立たしい」
「……え?」
それは前にも言っていたことなのだろうか。私が残酷だということなのか。会長の言葉はよく分からない。
そんな私の頬を撫でて、会長は目をスッと細めた。
「陸翔のことでも…君は私を苛立たせる」
「玖珂先輩の?」
「私は陸翔が羨ましいよ…本当に」
会長はもう一撫でしてから、私の頬から手を離す。
会長の触り方は優しいと思う。そして、玖珂先輩の触り方は少し乱暴だが不器用な優しさだ。二人は互いに似てないようで似てる。
だから、二人は互いに負けたくないと思っているのだろうか。
「そろそろ戻らないとな」
自身の腕時計を確認した時に予鈴が鳴り響く。
私は慌てて弁当箱を片付ける。
「では、また会おう」
最後に私にいつもの意地悪な笑みを浮かべてから、会長は行ってしまった。私も急いで、その場をあとにする。
「また会おう」と言った会長はまた会う気なのか。私はそんなことを考えながら教室へと戻った。
教室に戻った私はクラスメイトの視線に耐えながら、授業を受けた。
放課後はこの三日間である程度は耐久が付いた玖珂先輩と下校をする。私は未だに玖珂先輩がなんで私と一緒に登下校する理由が分からないままだった。
そういえば、会長は玖珂先輩を羨ましいと言っていた。それはやっぱり玖珂先輩に負けたくないからなのか。考えてみるが、よく分からなかった。