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やっぱり、ここが安心します

 補習が終了したあとに、私は愛莉姫と琴葉ちゃんと一緒に下校していた。琴葉ちゃんは華道なので正門でお別れだが。

 下駄箱で靴に履き替えて、正門に向けて歩いていると、少し先に見知った人の背を発見した。

 背が高くて、赤い髪の青年だ。確実に玖珂先輩だ。


「あっ、晃樹先輩だ!」


 隣の愛莉姫が嬉しそうに言ったので、玖珂先輩の隣に目を向ける。明るい茶髪の青年、蓮見先輩が居た。

 玖珂先輩と蓮見先輩は、愛莉姫の言葉が聞こえていたのか、後ろを振り返る。


「みんな、久しぶりだね」

「そうですね!でも、海砂ちゃんと玖珂先輩は夏休み中に二人きりで会ってたんですよ」

「はっ?」


 夏休み中に二人きりで会ったというのは違うだろ。しれっと嘘を吐くな、愛莉姫よ。

 愛莉姫の嘘を知ってか知らずか、蓮見先輩は「へぇ」と興味深そうに玖珂先輩を見た。顔を逸らして、玖珂先輩はため息を一つ零す。


「ちょっと待って、琴葉ちゃん!」


 遠くからそんな言葉が聞こえてきた。後ろを見てみると、蓮見くんが走ってくるのが分かる。

 私達に追い付いた蓮見くんは肩で息をしながら、琴葉ちゃんを見た。


「今日は、日直だから遅れるって」

「すぐに終わらせて来たんだ。だから、一緒に行こう?」

「うん!」


 にこにこと嬉しそうに会話をする琴葉ちゃんと蓮見くんを温かい目で見てしまう。

 この二人は凄くお似合いだと心から思う。


 正門に着いた私達は、琴葉ちゃんと蓮見くんと別れ、どこか行こうという流れになっていた。

 どこ行く?と話し合う愛莉姫と蓮見先輩に耳を傾けながら、そっと玖珂先輩を見上げた。

 玖珂先輩は面倒くさそうに空を見上げていたが、私の視線に気付き、こちらを見る。それもやっぱり面倒くさいオーラが漂っていた。

 きっと、玖珂先輩は行きたくないのだろう。だが、愛莉姫と蓮見先輩が楽しそうにしているので、行かないとはいけないと思っているのだろうと勝手に想像する。

 あまりにもジッと見つめすぎていたのか、玖珂先輩は眉を寄せる。

 目線だけで「なんだ?」と聞いている玖珂先輩に、恐る恐る聞いてみることにした。


「玖珂先輩は行きたくないんですか?」

「……アンタは行きたくないのか?」

「へっ?」


 質問を質問で返された。

 もしかしたら、行ってもいいけど行く場所はさっさと決めろと思っていたのかもしれない。だったら、あの質問で私が行きたくないと思ったのかもしれない。


「いえ、行きたいは行きたいですけど…」


 みんなでは久しぶりなので、と呟くと「そうか」としか返ってこなかった。

 琴葉ちゃんと蓮見くんは居ないが、この四人で会うのは久しぶりなのだ。行きたいという気持ちの方が私には大きい。

 というより、玖珂先輩は行きたくないではなく、行ってもいいという風に解釈していいのか。この場を離れないので、そう思うことにした。


「さっきから、アンタは何がしたいんだ…」


 ため息混じりの言葉に、私が未だに玖珂先輩を見つめていたことに気付かされた。

 慌てて下を向けば、フッと笑う気配がした。

 玖珂先輩が笑ったのかどうかを確認したいのに、顔を見る勇気がない。私は何も意味はないが、真剣に玖珂先輩の足元をジッと見ることにした。

 頭上から痛いぐらいの視線を感じるが、私は上を見上げることはしなかった。


「さぁ、二人とも行こうか!」

「あぁ」

「あれ?少し残念そうだね、陸翔クンッ!」

「黙れ」


 蓮見先輩が玖珂先輩に殴られている時に、片手を愛莉姫に握られる。

 にっこりと微笑む愛莉姫に、笑い返すと彼女は手を握ったまま歩き出す。


「海砂ちゃんと手を握ってみたかったんだ!」


 嬉しそうにそう語る愛莉姫が可愛すぎて、抱き付きたくなったのは秘密だ。

 抱き付く代わりに、ギュッと手を握り締める。


「私も愛莉ちゃんと手を握りたかった!」

「ほんと?嬉しいなぁ!」


 先輩二人より数歩前に居た私達は互いに笑い合う。

 ふと愛莉姫は私の耳の近くに顔を持ってきて「ありがとう」と言ってきた。顔を見れば、照れたように頬をピンクに染めている。


「海砂ちゃんのお陰で、かなり仲良くなれたんだよ」

「私は何もしてないよ?」

「ううん、海砂ちゃんが居たから」


 愛莉姫が言ってることは、きっと蓮見先輩のことだ。だけど、私は応援すると言ってるだけで、特別何かをしたという記憶がない。

 でも、愛莉姫が嬉しそうにしているから私も嬉しかった。


「そろそろ、玖珂先輩に海砂ちゃんを返しますね」

「そうだよ~、もう陸翔ったらずっとボクを睨むんだ~」


 後ろを振り返って、愛莉姫は私の背を押す。玖珂先輩の隣まで私を誘導して、自分は蓮見先輩の隣へと行く。

 隣に居る玖珂先輩をやっと見上げると、彼は私を見ていた。何か言いたいことがあるのだろうかと首を傾げる。


「……おかえり」

「えっ?」


 私はその場に立ち尽くしてしてしまう。逸らされた瞳が、私を映すことがないのが唯一の救いだった。

 さっき、なぜ玖珂先輩は「おかえり」と言ったのか。愛莉姫が「玖珂先輩に返しますね」と言った所為なのか。ただ、愛莉姫の言葉に便乗しただけ。ただの冗談。

 そう思うことが自然なのに、ドキドキと心臓が鼓動するのはなぜなのだろう。


「海砂ちゃーん」

「どうしたの?陸翔に何かされた?」


 私が立ち尽くしていたことに気付いた愛莉姫と蓮見先輩が声をかけてくれる。私は「大丈夫」と言いながら、歩き出した。

 隣に居る玖珂先輩をチラッと見れば、意地が悪そうな笑みを浮かべていた。

 少しだけイラッときたので、仕返しをしようと思う。


「ただいま、です。やっぱり、玖珂先輩の隣が一番好きで安心します」

「……だろ?」

「…っっ!?」


 玖珂先輩は私の頭をよしよしと撫で、優しい笑みを浮かべる。

 珍しすぎる玖珂先輩に、私の仕返しが利かなかったことを知る。逆に、私の心臓が壊れそうだ。

 多分、いや絶対に玖珂先輩は私に優しくして反応を楽しんでいる。確実にそうとしか思えなかった。


「玖珂先輩が…私をいじめる」

「あぁ、そうかもな」


 肯定する玖珂先輩をキッと睨むが、私が睨んだところで何も感じていないようだった。


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