実家で①
お盆ということで今日から三日、父の実家に行きます。14日の朝からお邪魔して、16日に帰るという二泊三日の予定だ。
お盆といっても大層なことはしないので、気軽に遊びに行く感じだ。ちゃんと15日にはご先祖様を供養する。そこはちゃんとするんだが、それ以外はまったりと過ごすと思う。
私達は渋滞する車より満員電車を選んで、実家に来る。駅から歩いて10分程度なので。
「おう、見えて参りました!」
「海砂ちゃん、テンションあがってるねぇ」
「まぁ、お久しぶりですからねっ!」
「おれは嫌なんだけどなぁ…海砂ちゃんを一人占め出来ないし」
お兄ちゃんに手を繋がれながらーーお兄ちゃん曰わく、私は迷子になるらしいーー歩いていると、大きな屋敷が見えてきた。そこが、東堂の実家だ。
大きな屋敷の周りには外壁があり、門がある。
凄く大きいが、そこに住んでいる人は少ない。てか、昔は東堂という名字も多く存在していたが、今では少なくなっている。
今ではご先祖様が凄い人だったということぐらいだろう。
「あっ!」
「うぁ…いたよ」
私が見つめる先を見て、お兄ちゃんが嫌そうな声を出した。
私が発見したのは、門に寄りかかっている一人の青年である。青年は、癖一つない黒髪に澄んだ黒色の瞳。目元は優しく、微笑んだら王子様だ。
「終壱くんっ!」
私はその青年に向かって突撃をする。ドンッという効果音を口で言いながら腰らへんに抱き付くと、優しく抱き止めてくれた。
「海砂、久しぶり。随分と綺麗になったね」
「終壱くんは前以上のイケメンですな!」
青年の名は、東堂終壱。私のいとこである。
私より二個上で、お兄ちゃんと一緒の高校だ。終壱くんもお兄ちゃんも、その高校の風紀委員に属していて、優秀なのだ。
お兄ちゃん達が通う高校は全寮制ということもあり、風紀委員が力を持っている。一人でも風紀を乱した人が居れば、すぐに伝染するらしいからだ。だから、風紀委員は大切にされており、選ばれた人しか入れないらしい。
なので、お兄ちゃんも終壱くんも凄いということだ。
「お久しぶりです。おじさん、おばさん」
「久しぶりだな、大きくなって」
「えぇ、そうね。海砂も終壱君に懐いていて嬉しいわ。数日間、海砂を頼むわね」
「えぇ、お任せ下さい」
爽やかな笑顔でお父さんとお母さんと会話している終壱くん。だが、私は未だに終壱くんに抱き付いている。
どうして、いつまでも抱き付いているのかって?それは、終壱くんを見つけると抱き付かないといけないと思ってしまうからだ。しかも、一度抱き付いたら、終壱くんが離れようとするまで抱き付いている。
「海砂ちゃん!終壱さんよりおれに抱き付いて!」
「お兄ちゃんより終壱くんの方がいいよー」
「くっ、終壱さんめ。覚えておけよ!」
「なら、どこかに行けよ。邪魔なんだけど、負け犬の愁斗君?」
フッと勝ち誇った笑みを浮かべ、私の腰に手を回してない方の手で、しっしとする。私には優しい終壱くんだが、お兄ちゃんには手厳しい。
そんな私達を見て、お父さんとお母さんは笑顔で「仲がいいっていいことだな」と言っていたのを聞いた。
「海砂、愁斗のことはほっといて行こうか?」
「うん」
「海砂ちゃんは終壱さんがいると、おれのことなんてどうでもいいんだね」
しくしくと泣き真似をし出すお兄ちゃんを終壱くんは変なものを見るような目で見ている。何だか、お兄ちゃんが可哀想に思えてきた。
「うそ、お兄ちゃんも行こう?」
「海砂ちゃんは、やっぱりおれの天使だよ」
甘い笑みを浮かべ、そんなことを言うのでーーしかもここは家の門の前であるため、道端だーー私は終壱くんのお腹にぐりぐりと顔をうずめた。そうすると、終壱くんは私の頭を慣れた手つきで撫でてくれた。
終壱くんに撫でてもらえるなんて、凄く贅沢なことだ。なにせ、終壱くんは凄くモテる。バレンタインのチョコの数は学校一だったらしい。
そんな人に抱き付いたり、頭を撫でてもらったり、女子が羨ましがることをやっている。
「ほら、あなた達そろそろ行くわよ」
「はーい、お母さん」
「すみません、おばさん」
「あら、終壱君はいいのよ。馬鹿なのはこの子達なんだから」
お母さんが私とお兄ちゃんを指差してそんなことを言う。それに、笑う終壱くん。
門の中に入って行く両親に続くように、終壱くんが私を優しく自分から離して歩き出す。だが、終壱くんは私の手を握り締めているため、私も歩き出した。それを見たお兄ちゃんは、私の空いている手を握り締める。
「ヤバい、双子のお兄ちゃんに挟まれている妹みたい!」
「正確には、双子に見えるぐらい顔が似てるいとことお兄ちゃんに挟まれる可愛い女の子だよ。海砂はオーバーリアクションだね」
「海砂ちゃんは反応も可愛いよねぇ」
クスクスと二人同時に笑い出す。
双子に見える二人はイケメンで、その二人が笑うと更にイケメン。これは、周りの女子がほっとかないだろう。
だが、ここに来る年頃の女子は私しか居ない。
「私ってこんなに贅沢でいいんでしょうか!?イケメンを二人も一人占めするなんて!」
「俺は海砂に一人占めされるなんて、自分が贅沢だと思ってしまうよ」
「お兄ちゃんはいつでも海砂ちゃんに一人占めされたいから…」
二人はとろんとした甘ったるい笑顔で、私を見つめる。
うん、私は本当に贅沢者だ。こんなに格好いいお兄ちゃんにいとこが居るなんて、全世界の女子が羨ましがるぞ!