合宿四日目の帰り
合宿も今日で終わり、いろいろあったなと思いを馳せていた。
みなさまのいろいろな姿を見ることが出来て良かった。
帰りの電車に揺られながら、今度は寝ないぞと意気込んでいた。なにせ、帰りも私の隣は玖珂先輩で向かい側は愛莉姫と蓮見先輩である。
「今日は寝ないの?」
「寝る訳ない!」
行きと違って、帰りはこの電車にほとんどの生徒が乗っている。ここで行きみたいに寝てみろ、すぐに変な噂が流れてしまう。
寝ないために、昨日は早くから寝たというのに。
「じゃあ、陸翔と東堂チャンでポッキーゲームしてよ」
「……晃樹」
私がツッコミを入れる前に玖珂先輩が蓮見先輩の頭を殴った。ゴツッという音で、いつもながら痛そうだ。
「痛いじゃないか、全く。陸翔って本当はしたいんじゃないの~?」
「あるわけない」
「またまた、そう言って!東堂チャンも待ってるよ!」
「はっ!?」
なぜ、そうなる。私は待ってる訳でもないし、してほしいとも思わない。
誰か、蓮見先輩を止めてくれ。玖珂先輩がめんどくさがって、スルーし始めてきたのだが。
「二人とも釣れないなぁ…」
「そうですよね!せっかく、お似合いなのに」
「いや、私は愛莉ちゃんと蓮見先輩の方がお似合いだと思うけど」
「あぁ、そうだな」
愛莉姫と蓮見先輩の会話に私がツッコミを入れたら、玖珂先輩も参戦してくれた。少しビックリだ。
私と玖珂先輩の言葉に照れる愛莉姫が可愛すぎる。「そんなことないよー」と嬉しそうに言っているのに、笑みが零れる。いや、本当に可愛い。
愛莉姫が照れている横で、蓮見先輩は不思議そうに愛莉姫を見ていた。
「愛莉チャンに悪いよ」
「そんなことはない。晃樹と姫野はお似合いだと思うけどな」
「んー?そう?」
「そうですそうです!」
歯切れが悪い蓮見先輩に、すかさず玖珂先輩がフォローを入れる。ナイス玖珂先輩!
ここで、蓮見先輩に愛莉姫を意識させなければいけない。肝心の愛莉姫は恥ずかしすぎるようで、真っ赤になって下を向いていた。
愛莉姫をよく分からない表情で見つめる蓮見先輩。そんな蓮見先輩を見たのが初めてだったので、凄く緊張する。
玖珂先輩も蓮見先輩の出方を窺っているいうで、無言だ。
「でも、愛莉チャンは可愛いからボクには勿体無いよ」
蓮見先輩の言葉に、深く玖珂先輩がため息を吐いた。
何だかんだ言いながら、玖珂先輩は愛莉姫に協力をしている。そこが玖珂先輩の優しいところだ。
私は玖珂先輩との初対面がアレだったので、あまりいい印象はなかったが、最近の玖珂先輩は優しいと思う。口調は厳しいのですが。
「いいえ、逆です!私なんかに蓮見先輩は勿体無いないです!」
「そんなことないよ。自信を持って、愛莉チャン」
目の前でそんな討論を愛莉姫と蓮見先輩が繰り返していた。それを見て、玖珂先輩が一言「変わんないな」と呟いた。
確かに、この二人の関係は変わらない。先輩後輩というより友達といった方がしっくりくるけど、恋人ではない二人。
蓮見先輩は円城寺先輩が好きみたいだが、いつからなんて分からない。それに、ツーショットは夜の海でしか見ていない。
「なんか、いろいろ大変ですね」
「そうだな…」
私の言葉に同意してくれる玖珂先輩。
何だか、同胞を得た気分だ。うん、凄く私の中の玖珂先輩に対する好感度がグングンとアップした気がする。
「意外に玖珂先輩って面倒見がいいんですね」
蓮見先輩のあのテンションに付いていけるのは玖珂先輩だけだ、と呟いたら睨まれた。
玖珂先輩の中の私の好感度は、あまり高くないみたいだ。当たり前だがな。でも、初対面の時よりは高いだろう。
「なんか、不思議ですね」
「アンタはさっきから何が言いたいんだ?」
「んー?よく分かんないです」
だけど、確実に玖珂先輩と仲良くなってきてると思う。なにせ、会話が出来るのだから。
かといって、私が玖珂先輩のことを怖くないというと嘘になる。今でも怖いが、前よりは怖くはない。
「やっぱり、人に対する気持ちってすぐに変わるんですね」
「それはアンタが単純なだけだろ」
そういう玖珂先輩だが、嫌いなはずの私の隣に居るというのは不思議なことだろう。
知らず知らずの内に笑みを浮かべていたら、凄く不機嫌そうに睨まれた。
これで、合宿編は終了です。合宿ぽくなかったですね、ただ海に行きたかっただけです。
季節感のズレが凄いですが、まだ夏休みです。