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私のヒロイン観察と未知なる先輩


 入学してからヒロインである愛莉姫と攻略キャラのイベントを見たかったのに、見れなかったので愛莉姫を観察したいと思う。

 見れなかった原因は主に担任の柳葉先生の所為だ。

 ということで、今日は愛莉姫に見つからない程度に追いかけたいと思います。


 昼休み。学級委員である愛莉姫と蓮見くんは仕事を押し付けられ、二人で何個かあるダンボールを運ぶ。

 正直、手伝い気持ちがあるが、ここは蓮見くんが男を見せる場面みたいだ。



「愛莉ちゃんは、これを持ってくれればいいよ。後は僕が持っていくからね」

「でも、これ軽いし一個だけだよ?」

「僕は男だよ?愛莉ちゃんみたいな可愛い女の子に重いもの持たせるわけないじゃん」

「か、可愛いって…そんな」

「可愛いよ!」


 何個もあるダンボールを一気に持ち上げ、陽輝は「ほら、持てたでしょ?」とにっこりと笑った。

 頬を赤く染めていた愛莉は更に赤く染め、俯く。

 不思議に思って陽輝はダンボールを一回下ろし、愛莉の顔を覗き込んだ。

 縮まる距離に愛莉は目を見開き、陽輝を凝視した。


「大丈夫?」

「あっ、うん…」


 愛莉は一方的に気まずいまま、軽いダンボールを運んだ。


 そんなことを繰り出して行ってしまった二人に私はにやにやが止まらない。

 にやつく顔をバシッと叩いて気合いを入れ直す。思わず、力を入れすぎて痛い。絶対赤くなっているだろう。


「いたい…」

「それはそうだと思うよ?」

「へ?」


 私一人しか居ないと思っていたのに後ろから美声が聞こえて、バッと振り返る。

 聞いたことがある気がする声は、やっぱりと言うしかない。

 金色の髪をなびかせ、耳にピアスをあけ、軽い感じの声色の人物ーー桐島きりしま 奏汰かなただ。ゲームの攻略キャラであり、二年生だ。おまけにタラシ。

 タラシな彼は私の側まで寄り、叩いて赤くなった頬を穴が開くほど見つめられた。


「え、えっとあの…その?」

「せっかく可愛い顔なのに赤くなっちゃったね。冷やした方がいいかなぁ?どうだと思う?」

「えぇっと…はい?」


 可愛い?

 聞き覚えのない単語を聞き、私は彼の「可愛い顔」から後の言葉を聞いてなかった。

 そういえばさっき、愛莉姫も「可愛い」って言われてたなぁとボケーッとそんなことを考えていたら、いつの間にか、タラシの桐島先輩は居なくなっていた。

 いきなり出て、いきなり消える桐島先輩。彼の情報の欄に神出鬼没の言葉を入れることを誓い、私は愛莉姫を観察するために教室に戻ることにした。


「あっ、ちょっと待って!」


 数歩歩いたところで声が聞こえ、振り返る。さっきもそんな感じだったなと思っていると、やっぱり、桐島先輩が慌てたように戻ってきた。


「どうしたんですか?」

「どうしたじゃない。勝手に帰らないで…」

「…?」


 腕を伸ばせば届く距離に来た桐島先輩は、腕を伸ばして手に持っていたハンカチを私の頬に当てる。


「…っ」


 ハンカチは濡れていて、少しだけ赤くなった頬には気持ちがいい。


「痛くない?大丈夫?」

「あ、はい。ありがとうございます?」

「ふふ、どう致しまして」


 嬉しそうに微笑む桐島先輩。この人はわざわざ私のためにハンカチを濡らしてきたというのだろうか。

 不思議に思い、首を傾げると頬からハンカチが外れる。


「もう大丈夫みたいだね。これからは可愛い顔を叩いたらイケないよ?」

「え、いえ」

「なに?また叩く気なの?君は世話が焼けるね」


 可笑しそうにクスクスと笑い、先輩は当然のようにハンカチを自分のポケットに入れようとした。

 私はとっさに彼の手を制して、ハンカチを奪い取った。取られた先輩はキョトンとして私を見る。


「ハンカチは洗わせて下さい!」

「大丈夫だよ、洗わなくても」


 そう言われても、はいそうですか。とは言いづらい。自分の所為でハンカチを濡らしてしまったんだ。洗うなり、買うなりしないと気が収まらない。

 頑なに首を振ると、先輩は少しだけ考える素振りを見せてからにっこりと笑った。


「そうだね。じゃあ、そうして貰おうかなぁ?」

「は、はい!」

「また君に会える口実を有り難う」

「へ?」


 何だか肌寒い気がした。

 そんな私に気付いたのか、先輩は笑みを深める。


「今更、やっぱり洗うの止めたとか言わないよね?」

「え、は…はい」

「うん、いい子だね」


 いい子、とか。子ども扱いですか?さっきも、世話が焼けるとか言ってましたもんね。

 そんなことを考えていると、予鈴のチャイムが鳴り響いた。


「名残惜しいけど、お別れの時間だね。じゃあ、ハンカチ宜しく」

「はい…」

「それと、君の名前はハンカチを貰う時に聞くね?そっちの方がロマンチックだからね」

「はっ?」

「じゃあね」


 ひらひらと手を振りながら、先輩は自分のクラスに戻っていった。

 私はしばらく先輩が最後に言ったロマンチックという言葉の意味を考えていたため、見事に五時間目に遅れてしまった。

 そういえば、また愛莉姫を最後まで観察出来なかった。いい加減、楽しく傍観したい。


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