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合宿二日目の夜の海

 玖珂先輩との厳しい勉強タイムも終わり、寝る時間の前に私は夜風に当たろうと外に出る。

 浜辺を歩きながら、夜空を見上げる。海の近くは空を遮るものがなく、夜空の輝く星や月が綺麗に見えた。

 星や月の明るさだけで、浜辺を歩けることに感謝している。


「やっぱり、夜の海は綺麗ですな!」

「そうだな」

「へ?」

「ん?」

「えぇぇ!」


 私の呟いた言葉に返事が返ってきて、隣を見ると、そこには夜の海が似合いそうな青みがかった黒髪に紫の瞳を持つ青年が。

 その青年は紛れもない生徒会長だ。

 会長は軽く首を傾げて、私を見つめる。


「そんなに驚くことなのか?」

「驚きますよ!なんで、あなたが居るんですか!?」

「生徒会が主催だから、居るに決まっている」

「それは、そうですけど」


 まさか、こんな夜の海で二人きりになるとは思わなかった。

 そういえば、何かを忘れている気がする。


「あっ、そうです。合宿前日はお世話になりました。ありがとうございます」

「…あぁ、いや。構わないが?」

「いえいえ、本当にありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げると、会長は腕を組んで、何かを考え始めた。

 目も瞑っていたので、月明かりの下で会長の顔を観察する。月明かりというのが、更に会長の格好良さが増している気がした。

 しばらくは凝視していたが、悪いことをしている気がして、私は目を瞑って耳を澄ます。聞こえる音は、波の音と、微かに聞こえる会長が呼吸をする音だけだ。

 しばらくすると、会長が動く気配を感じたので、目を開ける。


「あっ…」


 その言葉しか出てこなかった。

 月明かりを背景に、会長は優しく私に微笑みかけ、片手を差し伸べてきた。その姿が凄く様になっていて、心臓が激しく鳴り響いた。


「海砂…君に夜の海を案内してあげよう」


 私は反応に困ってしまった。

 なぜ、会長はそんなことを言い出すのだろうか。全くもって会長らしくない。

 いつもの会長は強引に事を運ぶというのに、最近の会長はおかしい。意地悪な笑みでも黒い笑みでもない、優しい笑みを浮かべる会長。


「ずるい…」

「何が?」


 クスクスと笑う会長を下から睨み付ける。

 睨み付けているのにも関わらず、会長は私の手を握り、浜辺をゆっくりと歩き出した。

 手を外そうとするが、意外にも強く握られているため外れない。私は心の中で、こうしているのは会長が離してくれないからと言い訳をして、ゆっくりと歩いている会長の一歩後ろを歩き出した。

 下を向いて歩いていると、会長が急に立ち止まる。不思議に思って会長を見ると、会長は海の水面を見つめていた。

 釣られるように私も水面を見る。水面は不規則に揺らめいていて、月光を水面に映し出していた。揺らめく度にキラキラと輝いていて、綺麗だった。


「うぁ、すごい」

「あぁ、そうだな」


 ある人物が私達に話しかけるまで、私達はその場で水面を見つめていた。

 その時間の終わりを告げる人物は意外な人だった。


「あれ?東堂チャンと悠真じゃん」

「本当だわ。二人で逢瀬かしら?」

「ほうほう、陸翔の方が優勢とばかり思っていたのに、本当は悠真の方が優勢なのか~」


 もはや、振り返らなくても分かる。蓮見先輩と円城寺先輩だ。

 会長は二人の声を聞いた瞬間に私の手を握っていた手を離した。ため息を零して、振り返る。

 会長が振り返ったので、私も振り返らなくてはいけない。ゆっくりと振り返ると、蓮見先輩と円城寺先輩のツーショットだった。

 初めて、二人が一緒に居るところを見た。美男美女でお似合いだが、私は愛莉姫贔屓なので愛莉姫の方がお似合いだ。円城寺先輩も私好みの美女なのだが、私は友達を選びます。


「そう思っているのなら、私の邪魔をするな」

「そう言われも、ボク自身は陸翔を応援したいんだよね」

「わたくしは悠真を応援するわよ?」

「ん~、でも悠真にも頑張ってほしいかな?」


 蓮見先輩に一言だけ言いたい。どっちだ!どっち側に付くんだろ!それだと優柔不断だろ!

 私の意見を言うならば、蓮見先輩には玖珂先輩を裏切ってほしくない。彼らは仲の良い親友同士だ。二人が仲違いをするところなんて見たくない。


「蓮見先輩には玖珂先輩を応援してほしいです!」


 蓮見先輩に一歩近付いて、勢いでそんなことを言い放った。

 私以外の三人は、えっ?という表情をして私の顔を凝視する。まさか同時に三人の普段見れない表情を見れて得した気分だが、私は三人が固まった理由は分からない。

 私は変なことを言ったのだろうか?


「あっははは‥東堂チャンってサイコーだよ!絶対、ボクらが何の話しているか分かってなかったよね!うんうん、大丈夫だよ。ボクは陸翔を応援するね!」


 一番最初に現実に戻ってきた蓮見先輩は爆笑している。

 あれ?三人はいったい何の話をしていたのか?私は応援する人を誰にするかぐらいしか聞いてない。だから、蓮見先輩には親友を応援してほしかったからそう言った。

 やっぱり、私の言ったことはマズかったか?


「ふっ、そうか。君がそう言うのか…」

「え、会長?」

「許せないな」


 段々と黒いオーラが会長から溢れ出ている。

 誰か助けて!と蓮見先輩と円城寺先輩を見たら、二人は離れたところに逃げていて、笑顔で私に手を振っている。

 ちょっと待て、私は会長が怒っている理由が分からないぞ。

 それよりも、円城寺先輩よ。いくら婚約解消したいからって、まだあなたは婚約者でしょ!会長の暴走を止めて!

 そう目で訴えるが二人は何を思ったのか、笑顔で去っていった。


「やっと、行ったか」

「あのですね…会長?」

「何だ?」

「何をそんなに怒ってらっしゃるのですか?」


 フッと笑みを零した。その笑みが黒すぎて、直視出来ません。


「君には分からないことだ。だが、いつか…いや、君はすぐに分かることだろう。私がなぜ怒っているか、な?」


 気温は高いはずなのに、ゾクッと寒気がした。

 会長は笑みを浮かべたまま、私の髪に触れ、頬に触れる。私は金縛りにあったみたいに動けないでいた。


「君は鈍くて、失礼で、最低だ。君の存在が残酷だ…」


 何かを言おうと唇を動かすが、何を言っていいのか分からずに、口をパクパクするだけだった。

 何気にひどい言われようだが、私は怒る気分にもならない。それはなぜかなんて、私にも分からなかった。


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