表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/97

合宿二日目の昼の海


 合宿二日目。

 朝勉強も終わり、今から遊びの時間だ。大半の人は、勉強をし過ぎて熱くなった体を冷ますために海に入る。

 海に入ったあとは日焼けして痛いのだが、海には入りたい。

 愛莉姫と琴葉ちゃんと私の三人で、海のすぐ近くにある女子更衣室で着替えている。

 あの時に新しく買った水着を着ている二人は美人だ。いや、もう素晴らしい。私が蓮見兄弟だったら、完璧に惚れている。

 それに比べて、私は…。


「だめだよね…」

「そんなことないよ!可愛いよ」

「うん、これで玖珂先輩も惚れちゃうねっ!」


 鏡の前に映る赤の水着を着た私を見ながら、そっとため息を吐いた。


 日焼け止めを塗ってから更衣室の外に出る。外には既に、玖珂先輩と蓮見兄弟が居た。

 蓮見先輩は水色の水着、蓮見くんはオレンジの水着だ。二人と愛莉姫と琴葉ちゃんがペアになっていて、素晴らしい。

 問題の玖珂先輩は、通気性が良さそうな長袖のパーカーを着て、水着は髪と同じ赤色だ。見事に私とペアになっている。あくまで、色だけだがな!


「愛莉チャン可愛いねぇ。しかもお揃いだよっ!」

「えっ、と…凄く似合ってるよ、琴葉ちゃん」

「…………はぁ」


 上から蓮見先輩、蓮見くん、玖珂先輩の順だ。

 あの四人が良い雰囲気のなか、玖珂先輩だけが私を見てため息を吐いた。私の水着を見てだ!

 別に可愛くないし、似合ってないからいいんだけど…やっぱり、私も女子だ。少しぐらいは褒められたいと思う。それが、お世辞でも。


「おい、アンタ」

「はい…」

「見苦しい。これでも着とけ」


 バサッと頭の上に玖珂先輩が着ていたパーカーを被らせられた。


「…袖通せ」

「は、はい!」


 鋭い目つきで睨まれたので、パーカーに袖を通す。

 袖を通したのを確認すると、玖珂先輩は私に近付いて、パーカーのファスナーを全部上げた。


「えっと、玖珂先輩?」

「…汚すんじゃねぇよ」

「うっ、はい…」


 玖珂先輩は男子にしても身長が高い方だ。そんな人のパーカーを着たら、水着が隠れてしまった。

 そんなに私の水着姿は見苦しかったのだろう。

 悲しくなり下を向いたら、上から舌打ちが聞こえた。


「あぁ~、陸翔って乙女心が分かんないよね」

「本当に有り得ないです。本当に」

「………うるさい」


 それだけ言うと、玖珂先輩は海の方へ歩き出してしまった。

 少しだけ玖珂先輩の後ろ姿を見つめると、チラッと玖珂先輩が後ろを振り返ったのでバッと下を向く。


「東堂チャンごめんね。陸翔はバカだから…」

「いえ、いいんです。それよりも、遊びに行って下さい!私はパーカーを守る義務があるんです!」

「海砂ちゃん…」

「さぁさぁ、行って下さい!」


 愛莉姫と蓮見先輩の背を押しながら、海の方へ行かせる。そのあとに、琴葉ちゃんと蓮見くんの背を押す。

 四人はチラチラと私の方を心配して見てくるが、私は笑顔で四人に手を振った。


 パーカーを汚すから海には入れない。なので、砂で遊ぼうと思う。

 まずトンネルを作り、作ったので砂の城を作りたいが技術的に無理だ。あの素晴らしい技術を持っている人は凄い。


「ひま…」


 砂の山を作っては壊して、作っては壊してを繰り返す。

 海に入りたいなぁ、と楽しそうに遊んでいる人達を見つめた。

 海水に足をつけるぐらいならパーカーも汚れないよねと思い、そっと浅いところで足をつける。


「おい!」

「えっうぉ!」


 いきなり後ろから声をかけられて、驚いて海の中にこけそうになった。危機一髪のところで、腕を掴まれ、こけずにすんだ。


「はぁ、アンタは何がやりたいんだ」

「え、玖珂先輩?」


 私の腕を掴んでいる人は玖珂先輩。

 玖珂先輩は私のバランスを整えさせてから、手を離した。

 改めて玖珂先輩を見ると、彼は髪から下まで全身濡れていて、ひと泳ぎしてきたことが分かる。

 そんな人が私に用があるということは、パーカーを取りに来たのだろう。


「パーカーですか?」

「いらねぇ…」

「えっと、いらないんですか?」

「あぁ、アンタが着とけ」


 海に入って来たから、パーカーを貰ったら汚れるからだろうか?私は不思議に思いながら、上を見上げる。

 濡れている前髪を掻き上げながる玖珂先輩は、水も滴るいい男だ。


「いいなぁ、私も海に入りたい」

「ん、入ればいいだろ?」

「えっ?」


 入っていいのか?だが、パーカーは着とけと言うし、汚すなと言うから結局は入れないのでは?

 そんなことを考えていると、頭上でため息が一つ零れた。


「パーカーごと入れば?」

「へ?でも、このパーカーって玖珂先輩のですよね?」

「あぁ、そうだな」

「じゃあ、海に入るのは駄目なんですよね?」

「別に構わない…」


 いいのか!?と驚きながら、玖珂先輩を凝視する。

 何度目かのため息を零したあと、私の肩を掴み、方向を海の方に向け、私の背中を思いっきり押した。ざっぱーん、とパーカーを着たまま、海水の中に突っ込んだ。

 ここが浅瀬で良かったと思う。浅瀬じゃなかったら、絶対に溺れてた。だって、私は泳げない。浮き輪でプカプカ浮いていたかったのだ。

 というより、これはわざとか?私が泳げないと知ってのことか?新手の嫌がらせ?

 服を着たままだと服が海水を含み、重くなって溺れさせる気だったのだろうか?


「まさか、玖珂先輩は私が泳げないと知っての嫌がらせですか!?」

「…へぇ、アンタって泳げないのに海に入りたかったのか?」

「うっ、いいじゃないですか!浮き輪でプカプカ浮いときたいんです」

「浮き輪ないのにか?」

「ううっ」


 玖珂先輩の言った通り、私は浮き輪を持ってきてない。なら、私はどうせ海に入っても浅瀬で遊んどくしかないのか。

 海水を含んだパーカーを脱ごうとファスナーに手をかけるが、パシッと手を掴まる。

 ジッと観察するように私を見つめる玖珂先輩は小声で「白だと駄目か」と呟いていた。


「パーカーは脱ぐな。分かったか?」

「え、何でですか?」

「……とにかく、脱ぐな」


 ギロッと睨まれれば、私は「はい!」と言うしかない。それしか言えなかった。

 それからは、なぜか玖珂先輩は泳ぎに行こうともせずに、私の監視をしていた。


「あの~、玖珂先輩?」

「なんだ?」

「泳ぎに行かないんですか?」

「アンタが溺れそうだから、な」

「あう。すみません」


 私が頭を下げると、フイッと顔を背ける玖珂先輩。

 きっと、玖珂先輩は私と居たくないのだろう。だけど、私は少しだけ玖珂先輩の優しさを垣間見て、嬉しいと思っている。


「玖珂先輩、ありがとうございます!」

「……はぁ」


 ため息を吐かれたが、玖珂先輩は少しだけ口角を上げているのが見えて、私は笑みを零した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ