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合宿一日目の肝試し

 今から、肝試しである。

 司会進行の生徒会の男子が、生徒の前に立っている。その隣に会長や月宮先輩に他の生徒会の子達が居た。


「この数個ある内の箱の中から一枚の紙を引きます。その紙に書かれていた数字が、貴方の順番であり、チームでもあります。一緒に出発するチームの人数は、二人だったり十数人だったり、バラバラです!もしかしたら、我が校の美形一を争う会長と二人チームになるかもっ!」


 さぁ引きましょう!とテンション高めに司会をする男子の迫力に押され、皆は紙を引きに行く。

 私も愛莉姫に引っ張られながら、列に並ぶ。ついに愛莉姫が引く番になり、「晃樹先輩と晃樹先輩と」と愛莉姫がぶつぶつ呟いていた。

 愛莉姫が引いたあと、すぐに引いて番号をみる。「17」と書かれていた。

 愛莉姫はゲームだったら、常に「1」を引いていて、一番好感度が高い人と二人チームになる。


「私、一番だったよ!」

「へぇ~凄い偶然だね。ボクも一番だったよ」

「え、晃樹先輩?」


 横からヒョイと出て来た蓮見先輩に驚いたが、愛莉姫はすぐに嬉しそうに破顔した。

 流石はヒロイン。見事に蓮見先輩と一緒みたいだ。

 この二人を邪魔しないように、自分の番号の方に行くことにした。


 先に説明しとくが、この肝試しは紙を引いたら最後。どんな嫌いな人とでも一緒に行かなければならない。他の人と紙を交換するのも駄目だ。

 お化け役は、夏休み前に募集をしている。今は自分の場所で待機していることだろう。


 私は自分の順番のところらへんで、誰とだろうと考えながら待っていた。


「あー!海砂ちゃん!」

「ほんとだー、海砂ちゃんも来てたんだー!」

「え?あっ、先輩方」


 私に話をかけてきた人達は、桐島先輩の周りに居る女子の先輩方である。先輩方とは、いじめの件から話すようになり、大分仲良くなった人達だ。

 先輩方の後ろから、桐島先輩が歩いてきているのが分かる。

 桐島先輩は私の姿を確認すると、目を見開いて驚いていた。


「ねぇねぇ、海砂ちゃんは何番?」

「17番です!」

「17番っ!?いいなぁー、奏汰と一緒じゃん」


 いいなぁ、と先輩方はみんなで私の頭を撫で回している。

 桐島先輩と一緒なのかー、と考えていたら、桐島先輩が私達の方へ急いで来た。みんなで不思議そうに見れば、桐島先輩は本日二回目の驚いた表情を見せる。


「えっと、え?君達、仲が良いの?」

「当たり前だよっ!海砂ちゃんとは仲が良いんだよー!」

「海砂ちゃんは安全だし!」


 先輩方の様子に明らかにホッとした様子を見せる桐島先輩。きっと、私が先輩方にいじめられないか心配していたんだろう。いい先輩だ、桐島先輩は。


「私達、そろそろ行かないと。じゃあね、海砂ちゃん!」

「あっ、はい!」


 先輩方が去って行ったあと、桐島先輩と二人きりになってしまった。

 私は肝試しでキャーキャーと騒ぐようなタイプではない。きっと、二人きりだとつまらないのではないだろうか。

 様子を盗み見るようにチラッと見れば、桐島先輩はこちらを見ていた。


「あのさ、海砂ちゃんはお化け大丈夫?」

「大丈夫です!問題ない…あっ」

「えっ?なに?」

「あっ、いえ。何でもないです」


 思い出したのだが、桐島先輩は確か肝試しという行事が駄目だった気がする。ゲーム中にもやせ我慢をしていた。

 チャラ男なのにお化け駄目とか。ギャップ萌だな。


「おっ、東堂と奏汰じゃないか」

「げっ…」


 私達に呼びかけた声の方を向いて人物を確認すると、瞬時に桐島先輩は顔をしかめた。なにせ、その人物は柳葉先生なのだから。


「もしかして、お前達も17番だったりするか?」

「おぉ、そういう先生も17番だったり?」

「よく分かったな」


 私と柳葉先生が喋っていると、桐島先輩は私の腕をグイッと引っ張って、その背に私を隠す。


「桐島先輩?」

「……ごめんね、君が柳葉先生と話しているのに嫉妬したんだ」


 にこっりと私の方を向いて笑いかける。

 そんな桐島先輩の行動に柳葉先生が驚いた顔をしていたのが隙間から見えた。


「嫉妬ですか?」

「そうだよ」

「あぁ!桐島先輩も柳葉先生とお喋りがしたかったんですね!」

「「はっ!?」」


 なぜかは知らないが、柳葉先生まで私の言葉に反応した。きっと、柳葉先生も桐島先輩とお喋りがしたかったんだと結論を付けた。

 うんうんと一人で納得をしていると、柳葉先生が「鈍いなぁ」と呟きながらため息を吐いた。


 そんなことをしていると、私達の順番になった。桐島先輩と柳葉先生と私というチームで行く。

 出発してから、桐島先輩はそわそわと落ち着きがない。


「奏汰はな、昔はおば…」

「柳葉先生!俺は別にお化けが怖いとか思ってない!」

「そうか。それは頼もしいな」


 柳葉先生の言葉につっかかる桐島先輩が何だか可愛く見えてくる。

 私は笑うのを必死で我慢していたら、桐島先輩が不思議そうに私を見る。


「大丈夫?手を繋ぐ?」

「えっ?」

「怖かったら、手を繋いでもいいんだよ?」


 手を差し伸べてくる桐島先輩は、本当に私のことを心配しているみたいだ。

 だが、私は全く怖くはない。でも、これは自分が怖くても私のことを心配して、やっている行為だ。断ったら逆に失礼だろう。

 それに、人の温かさを感じていれば、桐島先輩の怖さも和らぐだろう。


「では、お願いします!」

「あっ、うん…」


 桐島先輩の手を握れば、暗闇であんまり見えなかったが、優しく微笑まれた気がした。

 私達の様子を少しだけ後ろで見ていた柳葉先生が小さく「…お似合いだな」と寂しそうに呟いた言葉は聞こえることはなかった。


 それからの肝試しは、お化け役の本領発揮だった。

 曲がり角のところでいきなり出て来て、脅かす。草村から出て来たと思ったら、100メートルぐらいは追いかけてきた。しかも裾が地面についていて走りづらいと思うのに速い。歩いていたら、足首を掴むものまであってた。

 一人だけを脅かす目的としたものの被害は全部と言っていいほど、桐島先輩がかかっていた。

 桐島先輩が驚く声に私は我慢出来ずに声を出して笑っていたら、桐島先輩はそんな私を見て怒ることはせず「良かった」と微笑んでいた。


「終わったー!」

「海砂ちゃん…凄く楽しんでたね」

「そういう桐島先輩はお疲れのようで」

「うん…」


 グッタリと疲れている桐島先輩。だが、もう怖くはないみたい。繋がれている手から感じる鼓動が一定だ。


「あの、桐島先輩…手を」

「手?あぁ、そうだったね。離したくないなぁ」

「えっ?」

「嘘だよ」


 ふふっと笑みを零すが、桐島先輩は一向に手を離してくれなかった。

 やっと離してくれたのが、泊まっているところの玄関でだ。

 暗くて、きっと誰にも見られてないとは思うが、誤解されないかが不安だった。桐島先輩が好きな先輩方に申し訳ない。



 部屋に着いた私は、先に戻っていた愛莉姫と琴葉ちゃんの話を聞いていた。

 琴葉ちゃんは、蓮見くんと一緒にはならなくて、特に進展もなかったらしい。

 愛莉姫は、蓮見先輩と一緒だったが、彼はお化け役がどこに居るかを全て当てて、お化け役を困らせたらしい。肝試しではなく、かくれんぼみたいだが、それはそれで楽しかったらしい。

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