合宿一日目の昼にて
はい、今日は合宿一日目です。
今は電車に揺られ、目的地まで行っている最中だ。本来なら、まったりと景色を見るのだが、私の隣に怖い人が座っている。
合宿の場所は現地集合で、夕方までに着けばいいらしい。なので、この電車には同じ学校の生徒と思われる人が数人居るが多くはない。
私はというと、愛莉姫と琴葉ちゃんと愛莉姫の親友である三条千尋ちゃんと玖珂先輩と蓮見先輩と蓮見くんと一緒に来ている。
愛莉姫と蓮見先輩の企てにより、私は玖珂先輩と、琴葉ちゃんは蓮見くんと座っている。隣が居ないのは千尋ちゃんだけだが、彼女は楽しそうに私達をパシャパシャとカメラで撮っている。
撮らないで、と千尋ちゃんに言ってみたけど「大丈夫、フラッシュをたいてないから撮られたって分かんないよ」と言われた。それでも、撮らないでほしいよ。
「はい、海砂ちゃん」
「ありがとう」
私と玖珂先輩の向かい側に座った愛莉姫がポッキーを私に渡した。それを貰うと、愛莉姫と蓮見先輩はにっこりと笑った。
「さぁ、陸翔クンと東堂チャンがポッキーゲームをするみたいだよ」
「「はっ!?」」
「わーい、楽しみ!」
愛莉姫と蓮見先輩はキャッキャと楽しんで私達を見ているが、玖珂先輩はどこか冷めた瞳で二人を見ていた。
最近というより蓮見先輩と出会ってから、玖珂先輩と意気投合する機会が増えた気がする。さっきも声が揃ってしまったし。
「バカなことを言うんじゃねぇ」
「いや~だって、陸翔って行動が遅い気がするんだよねぇ~」
ねぇ?と私に同意を求めてきたので全力で違う方を向くが、隣から感じる鋭い視線に心が抉られそうだ。
「ほら、だからダメだよ?何度も言うようだけど、いくら東堂チャンが可愛いからって睨んだらダメッ!」
「……バカを言うな」
ゴツッと蓮見先輩を叩く玖珂先輩。私が見たなかでも蓮見先輩は結構に叩かれていると思う。
毎度ながら、叩かれたというのに、へらへらとした笑みを浮かべて玖珂先輩につっかかっている。
「男の照れ隠しは可愛くないぞ!認めちゃえば楽なのに、ねぇ?」
「そうですよねぇ~」
「…アンタら、少しは黙れ」
蓮見先輩の言葉に同意しながら、愛莉姫は蓮見先輩と一緒になって、玖珂先輩で遊んでいる。どこまでが本気なのか分からない。
段々と相手にするのが面倒くさくなってきたのか、玖珂先輩は二人を無視して窓の外を眺めだした。
その横顔を見るが、別に不快感を表していない様子だ。やっぱり、仲が良い人からなら不快とかは思わないんだろう。
私の視線に気付いたのか、玖珂先輩はゆっくりと私の方を向いた。
「なんだ?」
「えっ、いえ…何でもないです」
「そうか」
また、玖珂先輩は窓から見える景色を見つめる。
私は邪魔にならないように、目を閉じた。
「おい、もうすぐ着くぞ」
耳元に響く声に私の意識は覚醒した。
傾いていた体を真っ直ぐして目を開けると、向かい側に座っていた愛莉姫と蓮見先輩の顔がにやけていた。不思議に思い、通路を挟んで隣の席の琴葉ちゃんを見るが、彼女もにやけてはいなかったが笑っていた。千尋ちゃんはカメラを構えていたし、蓮見くんは必死に顔を違う方に向けていた。
最後に玖珂先輩を見るが、彼だけは普通のままだった。
「ケータイで、ばっちり撮ったよ!」
「えっ?」
「ほら!」
愛莉姫のケータイで見せられたものは、私が玖珂先輩の肩を借りて寝ている姿だ。玖珂先輩の顔は外の方を向いている。
「えっ、えぇぇ!うそ、まじで?」
「マジで~す!」
「うぁぁ、玖珂先輩ごめんなさいっ!」
「大丈夫、大丈夫。陸翔は怒ってないよ」
恐る恐る玖珂先輩を見るが、さっきと変わらない感じだったのでホッとする。
私は何をやっているのだ。馬鹿だ、馬鹿でしかない。まさか、玖珂先輩の肩を借りるなんて。
うなだれていると、電車が目的地に到着するアナウンスが流れた。
電車から降りて、少し歩いたところにあるのが合宿場所だ。そこは少しいったところに海があり、逆側に行けば山の麓がある。
山の麓で合宿中に行われるのが、今日の夜にある肝試しだ。親睦を深めようということで初日に行われる。
それまでは、初日だから遊んでもいいし、勉強をしてもいいことになっている。だが、大概は勉強をしている。
なにせ、大量の宿題を終わらせようと必死になるからである。分からないところも、引率の先生に聞くか、頭がいい人に聞けるから、一人でやるよりはかどるからだ。
「ついたー!」
私達は、まず部屋を確認して荷物を置きに行く。部屋は、琴葉ちゃんと愛莉姫と千尋ちゃんと私の四人部屋である。
荷物を置いたら、男性陣と合流して、一番広いホールに行って勉強開始だ。
ホールの中を見渡したら、柳葉先生は生徒に教えているし、桐島先輩は女子の先輩方に囲まれて勉強をしている。主催側を担当する生徒会は準備をしていた。
生徒会は忙しそうだな、と思っていると指示を出していた会長と目が合ってしまった。
目が合った瞬間に後ろからグイッと引っ張られて、背中がその人にぶつかった。引っ張った人の顔を見るために上を向けば、玖珂先輩だった。
「玖珂先輩?」
「……何でもねぇ、勉強するぞ。特別にオレがアンタに教えてやる」
「まじですか!?」
「あぁ、アンタは頭が悪そうだからな」
玖珂先輩に引っ張られながら、私は椅子に座る。隣に座った玖珂先輩に緊張しながら、勉強をする。
ここは違う、この公式は違うやつだ、さっき教えただろうがバカ、これはこうするって言ってるだろ、なんでこうなるんだ。などと暴言を吐かれながらしているが、玖珂先輩は意外と教え方が上手い。これで、口調が厳しくなかったら、いい先生になっていたことだろう。
おかげで、宿題が凄くはかどった。