私と先生の馬鹿な攻防戦
主人公の性格が迷子です。
先日の柳葉先生の態度をよく思い出して見ると、あれは教師がすることではないと思い立った。
しかもだ。なぜ、私に顔を近付ける必要があったのか。あれを愛莉姫にしてもらい、私が遠目でにやにやしときたいというのにだ。
「あぁもうっ、思い出しただけで恥ずかしい!」
自分の部屋のベッドの上で私はバシバシと枕を叩いた。
思い出しては赤面し、鬱憤を晴らすかのように枕を叩く。落ち着いて先生のことを考えては、また赤面して枕を叩くの繰り返しだ。
一人の男についてこんな考えるなんて、まるで恋しているみたいではないか。
「ないないない…私はあれだよ。キャラ見て格好いい!と同じ気持ちだよ。普段されてないからって、そんな簡単に好きになるわけないじゃん!」
しかも相手は、愛莉姫の攻略キャラだ。私なんかとは釣り合わない。
というより先生は手が早いすぎる。ゲームではこんなに手が早くなったのに…あれか?私はからかわれたのか。それだったら納得がいく。
「そういうことかー、納得納得。先生も冗談って言ってたしね。気にし過ぎもどうかと思うよね」
抱き枕をギューッと抱きしめ、ため息を零す。
「でも、あんなに近くに異性が居たとか初めてだったなぁ」
ゲームの中ではヒロインと攻略キャラが接近するだけでわくわくしていたのに、自分がその状態になるとよく分からない状態になる。
ただでさえ、先生はイケメンなんだ。少しは私の心臓の面を考えてほしい。次からは私ではなく、本来のヒロインにしてほしい。
「おっ、東堂。これ運ぶの手伝ってくれないか?」
「へ、私ですか?」
これから昼休みという中でトイレに行こうと席を立って、教卓の前を通り過ぎようとした時にだ。さっきまで授業を行っていた柳葉先生に声をかけられた。
「丁度いいところで通り過ぎようとしたからな。まっ、いいだろ?」
「…私じゃなくて姫野さんに頼んだ方がいいんじゃないですか?」
小声で言えば、先生はキョトンとした表情で私を見る。
「なんで姫野が出てくるんだ?俺はお前に頼んでるんだから、つべこべ言わずに手伝え」
「私に拒否権は…?」
「ないなぁ」
ないのかよ。
私は教室内をぐるりと一周見渡すと、そこに愛莉姫が居ないことに気付いた。
居ないのなら仕方がない。先生の手伝いでもしようと考え、ため息を零した。
「ため息吐いたら、幸せ逃げるんじゃないのか?」
「先生の所為です」
「そうか、俺の所為か」
あなたの所為だと言っているのに、なぜ嬉しそうに笑うのだろうか。全くもって不思議だ。
私は教卓の上にあったプリントを取り、目線だけで「行きますよ」と言う。先生はそれに頷き、教室から出た。
先生の後を追い、先生の個人にあてられた部屋にプリントを置いた。部屋の窓から何気なく上を見上げる。
今、私が居る校舎は東棟といい、教室や職員室や先生が使える個人専用の小さい部屋がある。もう一つある校舎は西棟といい、実験室などがある。普段、生徒が使うのは東棟だ。
だが、西棟の屋上で見覚えのある桃色の髪が揺れる。この学校であんなにはっきりとした桃色の髪を持つ人は一人しか居ない。そう、愛莉姫だ。
それにもう一人屋上に居る。赤い髪の男子生徒だ。距離が離れているため、顔は見えないが攻略キャラに赤い髪の持ち主は一人しか居ない。
目を凝らして見つめていたら、先生が不思議そうに私の視線を追い、西棟の屋上を見上げた。
「あれは、姫野と玖珂かな?」
赤い髪の男子生徒は、玖珂 陸翔。三年で頭はいいが問題児の生徒だ。生徒会長の碓氷様が嫌いらしい。
屋上のあれはイベントだろう。何せ、二人は初対面ではない。入学式に二人は出逢っているのだから。
私は最初の屋上イベントを思い出すように頭をひねった。
愛莉は四時間目の授業中、何となく窓から空を見上げた。青い透き通る空の端にチラリと赤い何かが映った。
赤い何かに視線を向けると、隣の校舎の屋上に赤い髪を持った男子生徒が存在していた。
その男子生徒に見覚えがあった。彼は入学式の時に迷ってしまった時に出逢った男子生徒だということを。
その男子生徒に講堂まで送ってもらったというのにお礼もろくに言えなかった。
そのことを思い出し、愛莉は四時間目終了後、すぐに屋上へと走った。
屋上のドアを開けると、赤い髪の男子生徒はこちらを驚きながら見つめる。
「アンタは…」
「姫野 愛莉です!入学式の時はありがとうございました!」
「いや、別に…」
「そんなことありません。私は少し遅れたけど、間に合ったのは先輩のお陰です。本当にありがとうございました」
「あぁ」
「では、私はこれで」
「ちょっと待て…」
屋上から出て行こうとする愛莉を止め、男子生徒は困ったように頭を掻く。
「玖珂 陸翔だ」
「え、あっはいっ!姫野 愛莉です!」
「さっき聞いた」
「あっ…」
フッと笑みを浮かべる陸翔にドキドキと胸が高鳴る気がした。
赤くなった顔を隠すように下を向き、愛莉は屋上から駆け足で出て行った。
以上が私が思い出した屋上イベントその一だ。うろ覚えのため、勝手に私の想像も含まれているのは、この際気のせいということにしよう。
「おい!」
「へい!えっ?先生?」
「お前、大丈夫か?さっきから呼んでも返事がなかったぞ?」
私はすっかりと先生の存在を忘れていたようだ。愛莉姫と玖珂先輩に意識を大分持っていかれていたみたい。
「お前な、俺の存在を今思い出したみたいな顔は止めろ。地味に傷付く」
「先生は傷付いてもイケメンですよ?」
「……それ、褒めてんのか?」
「えぇまぁ、多分?だけど大丈夫です。先生は格好いいですよ!」
これは本音だ。
先生に向かってにっこりと笑ったら、小さく息を飲む音が聞こえた。
不思議に思い首を傾げると、先生の手が伸びてきてポンポンと頭を撫でる。
「有り難う」
「へ?え、えぇと…えっ?」
急な先生の態度に戸惑を隠せないでいると、ブッと笑われた。
「お前、面白すぎ」
「えぇぇ?そんなことないですよ」
「いやいや、そんなことあるんですよ」
爽やかに先生は笑う。
何だか愛莉姫でいい気分になったのに、先生の所為でいろいろ疲れた。
先生よ。最近、私に絡みすぎではないんでしょうか?
今ここに、私以外の人が居なくて良かったと思った。