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一学期終了と新たな面

 今日で一学期が終了する。まだ補習があるが、事実上は終わりだ。

 今は終業式で会長の言葉の最中だ。こうやって壇上に上がる会長を見て、似合うとか格好いいとか思う私は、会長に騙されていると思う。本来の会長は性格が宜しくないというのに。


「……生徒会長、碓氷悠真」


 違うことを考えていたら、会長の言葉が終わっていた。

 もうちょっとだけ目に焼き付けておきたかったから残念だなと見つめれば、パチッと目が合った気がした。あくまでも、気がしただけだ。会長が優しく微笑んだとか、きっと私の勘違いだろう。

 自惚れるな私!会長は魔王だ!

 そんな場違いな考えを私がしているなんて、知るのは私だけだった。




「夏休みだ。だが、忘れてはならないのは補習があるということだ。ちゃんと来いよー」


 クラスに戻り、担任の柳葉先生が話している。

 先生の言葉に「はーい」という返事が返ってきた。イケメンな先生だと言うことを聞くみたいだ。

 そんなことでHRも終わり、帰ろうかなと席を立ったら呼び止められた。


「東堂、頼みたいことがある」

「今期最後なので、いいでしょう!」

「お前なぁ…」


 私の言い方に、先生が呆れたようにため息を零した。


「なんで、いつも上から目線なんだ…」

「いえ、そっちの方が楽しいかなと思いまして…」

「お前なぁ……」


 本日二回目のため息を零して、先生は無言で私にプリントの束を渡した。それを手に取り、プリントに目を通す。


「これって、ファイルに挟めるやつですか?」

「あぁ、よく分かったな」

「かなり、先生の手伝いしているんですよー!分かりますよ!」


 実際はプリントの内容が難しいものだったので、生徒用に印刷するものではないと思ったからだ。

 そんな真実を知ってか知らずか、先生は私の頭をポンポンと撫でた。


「じゃあ、頼むぞ?」

「はーい!」


 先生に一礼をしてから私は教室を出て、資料室に行く。

 資料室の前に行くと、明かりが付いているのが分かった。誰かが居るということなので、恐る恐るドアを開ける。


「あっ」


 幻想的だと思った。

 ドアを開けた先はいつもの資料室だというのに、今日は違った。

 窓からは爽やかな風がカーテンを舞い上がらせ、椅子に座って机に肘を付いている男子生徒の髪を揺らした。

 男子生徒は目を瞑っていることから、私が来たことに気付いてないみたいだ。


「…会長」


 そう、この男子生徒は我が学校の生徒会長だ。

 私は音を出さないようにドアを閉め、会長に近付いた。微かに寝息が聞こえ、寝ていることが分かる。


「寝ていたら、格好いいよねぇ」


 本当にもったいない。意地悪じゃなかったら、確実に私は会長に惚れてただろう。

 寝ている会長は無害なので、私は観察することにした。格好いいものは、格好いいと思う時に見つめる。それが私の座右の銘だ。

 さらさらと会長の青みがかった黒髪が揺れる。綺麗な紫の瞳が閉ざされていることが残念に思えてくる。


「ん…」


 あまりにも見つめすぎていたためか、眉がピクリと動いた。起きるのか、と構えたが起きる気配は全くない。

 起きる気配が全くないが、会長が寝苦しそうに眉をひそめていた。その表情が苦しそうだったので、ほっとくことも出来ずに起こすことに決めた。


「会長?大丈夫ですか?」

「んぅ…」


 会長の体を揺すぶりながら、声をかける。

 小さい声が漏れて、ゆっくりと会長は目を開いた。まだ焦点が合ってない瞳で私を見つめる。


「会長、起きましたか?」

「ん、みさ‥?」


 寝起きで上手く舌が回ってないみたいで、何だか可愛らしい。これがギャップ萌ということか。

 会長は肘を付いたまま、私を見つめ、甘ったるい笑みを浮かべた。普段の意地悪な笑みじゃなくて、私の鼓動がいつも以上に高鳴るのを感じた。


「なんだ、夜這いか?」

「え、えっと、今は夜じゃないですよ!」

「あぁ、知ってる」


 未だに甘ったるい笑みを浮かべている会長。いつもと違い過ぎて、心臓に悪い。

 本当にどうしたというのか。寝起きだからか?寝起きだから、こんなにも甘いのか?


「海砂は可愛いな…」

「はっ!?」

「そんなに驚くことか?」


 クスクスと笑う。笑い方すら、いつもと違う。

 本当に、この人は会長なんだろうか?別人なのでは?


「本当に、会長ですか?」

「私が碓氷悠真以外に見えるか?」


 椅子から立ち上がり、会長は私の手首を掴み、私を壁に押し付けた。

 後ろの壁が夏だというのにひんやりしている。掴まれたところから熱を感じ、警告音が激しく鳴り響いた。

 美しすぎる紫の瞳に囚われる前に、私はサッと目を閉じた。


「っ、分からないな、君は…。本当に自覚しているのか?」

「なにを…?」

「そうか、分からないならいい。乱暴をして悪かった」


 目を開くと会長はどこか寂しそうに笑い、私の手首を離した。

 私はそのままずるずると床に座り込んだが、会長は私の方を見ようともしなかった。


「かい、ちょ?」

「……君は残酷だな」

「えっ?」


 会長はそれだけを言うと、資料室を出て行ってしまった。

 残された私は床に座り込んだまま、ただ会長の言葉の意味を考えていた。だけど、私はその言葉の意味が分からない。

 今日の会長の様子に関係があるのだろうか?


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