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大型犬と小動物

「ねぇ、知ってる?」

「なになに?」

「今年って、十年に一度の年らしいよ」

「えー、なにが~?」


 そんな会話が聞こえてきて、私は首を傾げた。十年に一度の年ということは、どういうことなのだろう?

 そんなことを思いながら、私は自分の靴箱を開けた。いつもの靴箱はずなのに、今日は異質なものが混じっていた。

 靴箱の中に入っていたものは手紙。手紙といえばラブレターだが、私に送るという人は絶対に居ない。

 軽い気持ちで手紙を読んでみたら、綺麗な字で「今日の放課後に図書室に来て下さい」という内容だった。送り主は「月宮 誠也」と書かれていた。


「何の用かな?」


 とにかく、放課後になれば分かるかと思い、私は教室へと向かった。


 放課後になり、図書室に行く。図書室は既に開いていて、中に月宮先輩が居ることが分かった。

 テスト勉強をしていた日の当たりがいいところで、月宮先輩は読書をしていた。

 月宮先輩の髪が光を反射して、銀色にキラキラと光っている。綺麗だなと見つめていたら、視線に気付いた月宮先輩がこちらを向いた。


「東堂さん、来てくれたのですね」

「はい!」


 本を閉じ、月宮先輩は向かい側の椅子に座るように言われた。

 無表情で見つめられているため、緊張しながらも向かい側の椅子に座る。まるで、面接を受けているみたいだ。


「変なことを聞きますが、補習最終日に予定は入ってますか?」

「へっ?」


 また、補習最終日のことだ。本当に最終日は何があったけ?

 後で聞こうと心に誓いながら、月宮先輩の言葉に頷いた。


「やっぱり、既に予定は入ってますよね。因みに、奏汰と…?」

「え、桐島先輩ですか?」


 なぜ、桐島先輩の名前が出てくるのだろうか?

 首を傾げていると、月宮先輩は珍しく私でも分かるぐらいにため息を吐いた。小さく「奏汰は何をやっているのですか」と呟く。


「月宮先輩?」

「いえ、何でもありません」


 大丈夫です、と言っているがそうは見えない。いつも以上に感情が顔に出ている様子だ。普段の月宮先輩を知っている人が見たら、絶対に驚くことだろう。私もかなり驚いている。

 普段は表情が読みづらい、というより読めない月宮先輩だ。今だったら、私でも読める。


「本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。大丈夫なんですが…」

「月宮先輩‥?」

「いえ、ただ…奏汰は馬鹿だと思っただけです」

「桐島先輩が?」


 月宮先輩はゆっくりとした動作で頷いた。

 桐島先輩が馬鹿だというのはどういうことなのだろうか。学力の方だったら、英語以外は普通の点数らしいが馬鹿だということはない。

 じゃあ、何が馬鹿なのだろう?


「奏汰は大型犬だと思いませんか?」

「えっ?」


 いきなり、話の内容を変えた月宮先輩の言葉に首を傾げた。

 大型犬といったら、桐島先輩より蓮見くんの方が似合っていると思う。それなのに、桐島先輩が大型犬?

 桐島先輩が獣耳を付けて、尻尾を振っている姿が私の頭の中で流れた。

 勢いよく、ゴンッと机に頭をぶつけた。いつの間にか、いつもの感情がない声で月宮先輩が「大丈夫ですか?」と聞いてきたが、それどころではない。

 大型犬の桐島先輩、似合いすぎだろー!


「先輩、グッジョブ!」

「因みに、東堂さんはうさぎです」

「……はっ?」


 私がうさぎ?ウサギ、兎ですか?なんで、うさぎなのでしょうか?


「大型犬とうさぎが戯れていたら、可愛いですよね?」

「まぁ、そうですね」


 確かに可愛いと思う。可愛いと思うが、月宮先輩は本物で想像しているのか?月宮先輩には私が小動物に見えるらしいから、大型犬の桐島先輩と一緒に私達で想像していないか?


「可愛いですよね」

「……はぁ」


 無表情に戻った月宮先輩に、そう言われても本当に可愛いのか?と思ってしまう。もうちょっと、さっきみたいに感情を表したらいいのに。

 そんなことを考えていると、月宮先輩が立ち上がった。


「では、僕はこれで。あとは頼みました、奏汰」

「えっ?」


 月宮先輩が見つめる先を見てみると、息を切らしていた桐島先輩が居て、手にはケータイを握り締めている。

 キッと、月宮先輩を睨む桐島先輩だが、すぐに「そういうことかよ」と呟いた。


「そういうことです。東堂さん、またお会いしましょう」

「は、はい!」


 図書室の鍵と思われるものを桐島先輩に渡し、月宮先輩は図書室から出て行った。

 息を整えている桐島先輩を改めて見てみると、制服が乱れていた。苦しかったのか、シュルッとネクタイを外す。その姿が様になっていて格好いいと正直に思った。

 あまりにも凝視し過ぎたのか、私の視線に気付いた桐島先輩が気まずそうに視線を反らした。


「あー、海砂ちゃん?」

「なんですか?」

「誠也がなんか、ごめんね」


 月宮先輩は特に何もしてない。だから、謝られることはない。

 首を振ると、安心したように微笑まれた。


「ところでさ、海砂ちゃんは……」


 その先の言葉を言うか言わないかで迷っているみたいだ。私としては、その先の言葉が気になるので「どうしたんですか?」と言ってみると、意を決した様子の桐島先輩が真剣な表情で私を見つめる。


「補習最終日の予定って入っているよね?」

「……はい?」


 月宮先輩もそうだったが、なぜこんなにも補習最終日の予定が気になるのか。

 私の「はい?」発言が肯定だと感じ取った桐島先輩は真剣な表情のまま、私に近付いた。


「……本当に、予定入ってるの?」


 予定は確かに入っている。

 桐島先輩の言葉に頷いたら、私が座っている前に来て、隣の机に手を置き、私が立てないようにした。

 私は困ったように上を見上げれば、桐島先輩は顔を近付けた。


「それって……男?」

「えっ?」

「……男なんだね」


 寂しそうに微笑み、桐島先輩は更に顔を近付ける。もう少しで、触れてしまいそうな距離に心臓が速くなるのを感じた。


「きり、しま‥せんぱい?」

「海砂ちゃん」

「…っっ」


 甘く囁かれて、思わずギュッと目を強く瞑ってしまった。


「……はぁ」


 桐島先輩が離れる気配と大きくため息を吐かれたことで、私は目を開ける。パチッと桐島先輩と目が合う。

 さっきまでの行為は悪戯だったよ、と言いたげな顔で笑った。


「海砂ちゃんを誘うなんて、どんな男なんだろうね」

「えぇぇ?その言い方って酷くありませんか?」


 まるで、私が男に誘われないような言い方ではないか。

 まぁ、実際は玖珂先輩が空けとけよと言ったのも、何か企みがあってのことだろう。玖珂先輩が私をデートみたいなのに誘うなんて、絶対にない。


「だって、海砂ちゃんは世話が焼けるからね。俺だけが、君をお世話出来ると思ってるから」

「先輩って、やっぱり私のこと動物か何かに思ってますよね?」

「んー、どうかな?」


 ふふっと笑う桐島先輩。

 絶対に私のことを動物と思っているよ。でも、月宮先輩からしたら桐島先輩も動物扱いだぞ!

 キッと睨んだら、頭をポンポンと撫でられた。


「もう、遅いから帰ろうか」

「話を逸らす気ですか!?」

「うん」


 きっぱりと言い切ったので、私は追及するのを諦めた。

 言っておくが、私は断じてうさぎでも、その他の動物でもない。


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