初めての意気投合!
もうすぐ夏休みですね。青い空に、青い海。素晴らしい晴天の下で冷たいかき氷を食べたいな。
「おい、現実逃避すんな」
はい、現実逃避してました。なぜ、現実逃避をしてたって?それは、目の前に玖珂先輩と玖珂先輩の親友であるサブキャラの蓮見 晃樹が居るからだ。
蓮見先輩は、同じクラスの蓮見 陽輝の兄であって、玖珂先輩のクラスの学級委員長である。玖珂先輩と蓮見くんルートで手助けをしてくれる人である。
容姿は、癖一つない明るい茶髪に、髪と同じ瞳。攻略キャラみたいなパッとした印象はないが、彼もイケメンだ。兄弟だからか、少しだけ蓮見くんに似ているイケメンだ。
「駄目だよ、陸翔。脅かしたら」
「脅かしてるつもりねぇよ」
「その言い方に問題があるんだよ、分かってる?」
ゆったりとした口調で玖珂先輩を叱っている。
この二人のやり取り好きだなー、と他人事のように思いながら、なぜこのような状態になったか思い出す。
私は何もすることがなかったので、琴葉ちゃんと一緒に帰った。いつものように別れ道で琴葉ちゃんと別れた。家に帰ろうとした時に、腕を掴まれたのだ。まるで、私を待ち伏せしていたかのように現れる玖珂先輩に驚いていると、蓮見先輩まで出て来た、ということだ。
「えっと、私に何か用なんですか?」
「ボクは用がないんだけどね。あえて言うなら、陸翔の付き添いだよ」
ほらさっさと言いなよ、と肘で玖珂先輩をつんつんしていた。その行為に玖珂先輩は眉を寄せた。
「……やめろ」
「じゃあ、ちゃんと言うんだよ?」
「………」
「ほら、言えないんじゃないか。ダメだね、陸翔は…」
やれやれと肩をすくめて、蓮見先輩は私の方を向いた。わざとらしく執事のように左手を腹部に当て、右手を後ろにやり、礼をした。
「わたしくは、蓮見晃樹と申します。貴女様のお名前をお聞きしても?」
「えっ?えっと、東堂海砂です?」
「ふふっ、なんで疑問系?」
「えぇっと、え?」
私の反応がツボにハマったのか、蓮見先輩は腹を抱えて思いっきり笑っている。
どうしたものかと首を捻っていたら、玖珂先輩が笑っている蓮見先輩を殴った。ゴツッと鈍い音が聞こえたが、蓮見先輩は特に気にすることなく玖珂先輩を見て、ニヤッとした。
「どうしたんだい、陸翔クンよ?はっはーん、ボクが羨ましいのかい?」
「違う」
「つまんない男だ。少しは自分に素直になるべきだ」
ねっ?と同意を求められたが、私は曖昧に笑うしか出来なかった。睨んでくる玖珂先輩が怖いんですよ!同意したら、目線だけで殺されそうだ。
蓮見先輩は本当に凄い人だと思う。玖珂先輩にそんな口を叩ける人は彼しかいないと思う。しかも、性格と口調がころころ変わる。
「あの~?」
「なんだい?陸翔の妖精サン?」
「「はっ!?」」
変な単語が聞こえ、つい言葉を発したら、玖珂先輩と被ってしまった。
玖珂先輩と初めて意気投合したぜー、と思ってたら睨まれた。
「ほらほら、ダメだよ。照れ隠しで睨んだら…」
「……違う」
「いくら、東堂チャンが可愛いからって…睨んだら嫌われるよ?」
「………はぁ」
疲れている。玖珂先輩が確実に疲れている。
よく、親友やってられるなとは思うが、二人はこれだから仲がいいのかとも思う。
グッタリとしている玖珂先輩のやつれ具合に本気で心配になってきた。私が心配したところで迷惑だと思うが、気になって仕方ない。
「玖珂先輩、大丈夫ですか?」
「……アンタ」
何か言いたげな表情でジッと私を見る玖珂先輩。そんな玖珂先輩を見て、蓮見先輩は意味深な笑みを浮かべた。
「じゃあ、頑張って。我が親友よ」
はっはははー、と敵キャラがしてそうな笑いをして、蓮見先輩はどこかに走って行ってしまった。
残された私達は自然に顔を見合わせたことは言うまでもなかった。
「……わりぃな」
「へっ?」
あの玖珂先輩が謝った?私の聞き間違いじゃなくて?
あまりの衝撃に目が飛び出るんじゃないのかと驚いた。私の考えてることが分かったように、玖珂先輩は眉を寄せる。
「えっと、玖珂先輩が謝るとか珍しいなんて考えてないですよ?」
「……そうか、まぁいい。アンタには付き合って貰うことがあるからな」
フッと笑みを浮かべた。
あれだな。「さっきの失礼な態度は聞かなかったことにしてやるから、ちょっと金貸せや」だな!
「私、お金持ってません!」
「はっ?」
「え、違うんですか?」
「違う」
違うのか、じゃあ何だって言うんだ。交換条件は何だと言うんだ。
さぁ、言ってみろ、という目つきで玖珂先輩を見つめる。だが、玖珂先輩は言いづらそうに視線を外した。
「玖珂先輩?」
「……空けとけよ」
「はい?」
「絶対、補習最終日の予定を空けとけよ…」
「…はいぃ!?」
はい?えっと、もう一度言ってもらえませんか?
さっき、何を言いましたか?補習の最終日の予定を空けとけ、と言いましたか?ついに、私に降りかかる死亡フラグか?
「空けとけ…」
「は、はいっ!」
拒否を許さない声色だったので、私は頷くしかなかった。
ホッと安心したため息を零し、玖珂先輩は「じゃ、また」とだけを言って、蓮見先輩同様にどこかに行ってしまった。
残された私は、意味が分からずにその場に立ち尽くした。
「え?さっき、安心した?」
なんで、玖珂先輩が安心したのだろうか。
補習というのは、夏休みにある夏期講習のことだ。その最終日には、いったい何があるのだというのか?
その時、ぴろりんとメールの着信を告げる音が聞こえた。
マナーモードにするのを忘れてたなと思いながらメールを確認すると、送信者の名前が珍しい人だった。普段はメールより電話をしてくる人なのに。
「愛しき妹へ。夏休みは補習が終わったら帰ってくるよ。楽しみに待っててね。それと、夏休みが終わっても楽しみだね。by きみが大好きなお兄ちゃんより」
という内容のメールだった。
何だか、嫌な予感しかしないのは私の気のせいであってほしいと切実に思った。