さぁ、行こうか
???視点です。
ケータイの電源を入れたり、消したりを繰り返す。何度か繰り返した後に、きっちりと制服を着込んだ男子生徒はケータイをポケットの中に入れた。
小さく舌打ちをして、苛立つ気持ちを表すかのように思いっきり壁を殴る。
ドンッと大きく音が出たが男子生徒は気にすることなく、さっきポケットに入れたケータイを出した。電源を入れ、待ち受けを見つめる。
「…はっ、くそっ」
壁にもたれかかりながら、ずるずると床に座り込んだ。
ケータイの画面を優しく撫でて、フッと笑みを浮かべた。
「随分、荒れてますね」
ノックもなしに部屋に入ってきたのは、床に座り込んでいる男子生徒と同じ制服を身に付けた男子生徒だ。
この二人の見た目はどことなく似ていて、兄弟と言っても疑う人はまず居ないだろう。違いといえば、床に座り込んでいる男子生徒の方が少しだけ優しそうな顔立ちをしているぐらいだ。
「終壱さん」
「……」
終壱と呼ばれた床に座り込んでいる男子生徒は、さらりとした黒の前髪を鬱陶しそうに掻き上げる。
優しげな顔立ちに似合わない鋭い目つきで、男子生徒ーー愁斗を捉えた。
「そろそろ、見回りの時間ですよー」
「うるさい…」
「まぁ、そう言わずにねっ?」
「本当にうるさいよ、愁斗」
キリッとした顔立ちな愁斗だが、その顔に似合わないにやにやとした笑みを浮かべていた。いかにも、馬鹿そうに見えるがこれでも学力の方はトップクラスだ。
ため息を一つ零し、終壱は手に持っていたケータイをまた眺めた。それを上から覗き込んで、愁斗は眉を寄せた。
「その待ち受け、止めてくれませんか?」
「……なんで、愁斗に指図されないといけないのかな?」
「いやだって……ねぇ?」
曖昧な愁斗の言葉にもう一度ため息を零す。
ゆったりとした動きで立ち上がり、机の上に置いてあったペットボトルを取り、半分まで入っていた中身を飲み干した。
「終壱さーん、忘れ物ですよー」
愁斗は風紀委員長と書かれた腕章を終壱に渡し、自身は風紀委員と書かれた腕章を身に付けた。何も言わずに終壱も腕章を付け、部屋の外へと出て行った。それに続き、愁斗も出て行く。
終壱の斜め後ろを歩きながら、嬉しそうに愁斗は笑みを零した。
「もうすぐ夏休みですねぇ~」
「もうすぐ夏休み、ねぇ…」
「あれ?嬉しくないんですか?」
「いいや、凄く嬉しいよ」
ですよねぇ~、と破顔した表情で愁斗は同意した。
終壱も嬉しそうに笑みを零したが、すぐに何かを思い出して、顔をしかめた。小さく舌打ちをして、前髪を掻き上げる。
「あぁ…本当に苛つく。あいつさえ、いなければ」
「それは同意します。だけど、いくら終壱さんでもあげませんよ?」
愁斗の言葉にクスッと嫌な笑みを浮かべて、終壱は鋭い視線で愁斗を捉えた。
「その前に、俺達はやらなければならないことがあるよ」
「まっ、そうですね」
さぁ、行こうか、と終壱は嬉しそうに笑いながら呟いた。