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休日にて

 今日は休日である。

 欲しい本の新刊が出ているはずなので買いに行こうと思い、ついでにいろいろ見て回ろうと電車で大きなショッピングモールがあるところに行く。

 本を買ってぶらぶらしてたら、私は素晴らしいものを見つけてしまった。

 さらりとした長い綺麗な桃色の髪が揺れる。あの美しい髪の持ち主は愛莉姫しか存在しない。


「そして‥まさかの!?」


 その美しい愛莉姫の隣を歩くは、赤い髪の青年だ。まさしく、玖珂先輩だ。

 愛莉姫と玖珂先輩がデートをしている。デートだ、ショッピングモールでデートをしているんだ。

 愛莉姫のお相手は玖珂先輩だったのか!?

 私はサッサと物陰に隠れ、どこぞのストーカーごとく二人を見つめていた。

 二人は何かを話しながら、着物店?みたいなところに入っていった。店の外からでも二人は見えるので、私は置いてあるベンチに座って様子を見ていた。

 もちろん、バレないように変装している。速攻でマスクを買い、装着している。絶対、バレない。


「にしても、玖珂先輩。あんなに穏やかに笑っちゃって」


 その微笑みを少しでも私に見せてくれよ。

 愛莉姫と玖珂先輩は「浴衣」と書いてあるところで、どれがいいかな?みたいな感じで浴衣を見ていた。もうすぐ夏休みだからかと見ていたら、主に落ち着いた色の浴衣を二人は見ていた。

 玖珂先輩は落ち着いた色が好きだったけ?と片隅に追いやっていたゲームの記憶を思い出そうとする。


「…っ」


 ズキンと頭が痛み出す。痛みがひどくて、頭を抱えた時に一瞬だけ玖珂先輩と目が合った気がした。

 痛みが引くまで下を向いてたら、この場面に酷似しているイベントを思い出した。

 そのイベントとは玖珂先輩のであって、浴衣を見に行くというものだ。ここまでだったら、今と変わらないが問題は浴衣を一緒に見に行った人だ。

 愛莉姫と浴衣を見に行く人は、玖珂先輩の親友のサブキャラだ。それで玖珂先輩の好みの浴衣を探すために一緒に行くというイベントだ。

 因みに、その時の玖珂先輩の好みは鮮やか系の色だ。

 今見ている浴衣の色は落ち着いた色が多い。玖珂先輩の好みとは逆だ。


「好みは変わるっていうもんね」


 納得をして、二人を見ようと顔を上げたら居なかった。

 急いで周りを見回すが、二人の姿はない。


「きえた!」

「……誰を探しているんだ?」


 すぐ後ろから声が聞こえた。恐る恐る後ろを振り返れば、そこには整っている唇を歪めている玖珂先輩が立っておりました。


「あは‥」

「あは、じゃねぇよ。さっきから、じろじろと人のことを見やがって」


 バレてた!私の完璧なる変装を見破るなんて、やるなお主。

 脳内で現実逃避していても、玖珂先輩は睨むことを止めてはくれない。


「いや~、お似合いカップルが居たので…つい?」

「つい、じゃねぇ。それにアイツとはカップルでもない」

「えぇぇ、でも楽しくランランしてましたよ!」


 カップルじゃないのか。ちょっとショックだ。

 玖珂先輩は私の言葉が気に入ったのか「何だよ、ランランって」と軽く声を立てて笑った。さっきまで私を睨んでいたのに、笑った。

 玖珂先輩の激レア写真でも撮りたい気分になったが、撮ったら怒られそうなので我慢。


「姫野さんは?」

「アイツか?アンタ、知り合いだったのか?」

「クラスメイトです!」

「ふーん、そうか」


 自分で聞いたくせに私が答えたら興味がない返答を返してきた。

 せっかく私が穏便に済ませてやろうと思っているのに、この男め調子乗りやがって。

 口に出して言う勇気がないので、心の中で罵倒してみた。罵倒してみて分かったことは、私って寂しい人なのかな?だ。


「結局、姫野さんはどうしたんだよー!」

「アイツは帰らせた」

「女の子を一人で帰らせるなんて、駄目ですよ!今すぐに追い掛けて下さい!」

「……はっ?」


 何言ってんだコイツ、と玖珂先輩の目が語っている。だが、これは玖珂先輩が悪い。一緒に買い物に来たというのに愛莉姫だけ帰らせるなんて。

 好感度ガタ落ちだぞ。すぐにでも、追い掛けないと。


「さぁ、追い掛けて下さい!」

「アンタ、さっきから何言ってんだ?アイツは別にオレに追い掛けて貰いたいとか思ってねぇよ」

「女の子はいつでも追い掛けて貰いたいものなんです」

「…はぁ」


 残念なものを見るような目で私を見る。

 追い掛ける気がない玖珂先輩に、今回は諦めることにした。これで好感度がガタ落ちだ。

 玖珂先輩は周りを見回してから、鋭い目つきで私を見る。


「碓氷は、どうしたんだ?」

「……へ?」

「どうしたか、と聞いている」

「なんで会長?」


 そこで会長の名前が出てきたことに驚いた。

 いくら、会長が嫌いでも私に聞くか?私に「碓氷は?」と言われても、会長のスケジュールなんて知らないぞ。


「アンタは碓氷の女だろ。こんなところに来るのに一人な訳ないだろ」

「あっ、そうでしたね」


 そういえば、私は玖珂先輩の中では会長の女になっていることを忘れていた。

 ん?玖珂先輩さっき何て言った?「こんなところに来るのに一人な訳ないだろ」と言いましたか?

 一人で悪かったなー!一人で来ても問題ないんだよ!本を買いに来たんだよ、ついでに見て回ろうとも思ってたけど。

 てか、ここのショッピングモールはカップルが多いんだよ!


「一人か」


 私の心を読んだのか、私が一人だということを悟った玖珂先輩だった。

 言っとくけど、愛莉姫に帰られた玖珂先輩も一人なんだよ!


「碓氷の女が一人か…」

「言っときますけど、会長の女になったつもりはないです!」

「どうでもいい」


 どうでもいいのか。あんなに「碓氷の女」と連呼していたというのに、どうでもいいのか!

 キッと睨むが、玖珂先輩は何かを考えている様子だ。その稀に見る真剣な表情をして「丁度いいか」と呟いていた。


「来い」

「えっ、えぇぇ…」

「テスト終わったら、覚悟しろと言っただろ?」


 腕を掴み、私を引きずるように歩き出す。そのまま、愛莉姫と一緒に入った店に入る。

 「浴衣」と書かれたコーナーまで行き、玖珂先輩は鮮やかな色の浴衣を見始めた。

 浴衣を選ぶ玖珂先輩に私は付いていけない。いったいどうしたというのか?


「…何しているんですか?」

「浴衣を選んでいる」

「それは分かるのですが……」


 いったい誰の浴衣を選んでいるというのか。愛莉姫のやつだったら、さっき選んでいた。なら、これは?

 私の心の疑問に答えるかのように、玖珂先輩は私をじっくりと観察する。


「アンタはどれが好き?」

「えっと、私ですか?」

「アンタ以外に誰がいるか逆に知りたいな」

「ですよねー」


 あはは、と笑ってみたが私は絶賛混乱中だ。今、選んでいる浴衣は私の浴衣というのだろうか。

 なぜ?私は浴衣を選ばないといけない?

 事態に付いていけない私を置いて、勝手に玖珂先輩は浴衣を私に合わせては考え始める。

 やっと、納得がいったのか。玖珂先輩は店の人と何かを話して、放心状態の私の腕を掴んで店を出た。


「もう、帰っていいぞ」


 店の外に出た玖珂先輩は私の背をトンッと押した。

 結局、何がしたかったのか私にはさっぱりだ。

 私が動かないことに不思議がったが、すぐにいつもの悪い笑みに変わる。


「なんだ?送って欲しいのか?」

「いえいえ、遠慮します」


 玖珂先輩に家なんて知られたら大変なことになりそうだ。

 私は玖珂先輩が他に何かを言う前に玖珂先輩の前から退散した。


「本当に何がしたいのか分からない」


 やっぱり、玖珂先輩は不思議ちゃんなのか?

 誰か、違うと言ってくれ。


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