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テスト結果にて


 テストで学年別上位五十名は正面玄関の方に張り出される。私はその中に入ることはないけど、人ごみに紛れて張り出された紙を見つめていた。

 一年のは興味がないので飛ばして、二年のところを見ると学年一位は月宮先輩だった。流石は副会長。

 問題は三年の学年一位だ。玖珂先輩はやる気満々だったが、やる気満々になった時はテスト前日だ。それで会長を抜かせるのか、と高校の合格発表の緊張感で紙を見つける。

 五十位から見ていく、ついに二位のところを見ると名前は「玖珂 陸翔」だった。そして、学年一位は「碓氷 悠真」だ。

 抜かせなかったのか、と少し残念がりながら見ていると順位だけではなく総合点数も表示されていた。


「あっ」


 総合点数を見ると、玖珂先輩が会長の点数に追い付くまであと一点だ。あと一点で会長と並ぶ点数だった。きっと、いつもは一位と二位の差はかなりあったはずだ。なにせ、会長の一教科の点数はほぼオール98点ぐらいだろう。

 玖珂先輩は惜しかった。凄く惜しかった。あと一点で会長と並び、あと二点で会長を抜かせてたというのに。会長の残念がる姿を一度でいいから見てみたかったというのに。

 ふぅ、と息を吐き出して教室に戻ろうとした時、玄関を出て行く赤い髪の男子生徒を見つけた。後ろ姿だけ見えたが、その姿は悲しそうだった。

 もう一度だけ紙に視線を移すと、青みがかった黒髪の男子生徒ーー会長が紙を無表情で凝視していた。

 長い黒髪を後ろで一つに結び、気が弱そうだが頭が良さそうな女子生徒と、明るいふんわりとした茶髪に元気そうだがやっぱり頭の良さそうな女子生徒が会長に近付く。きっと、この二人の女子生徒は生徒会の子だろう。会長に近付ける女子生徒は円城寺先輩か生徒会の子しか居ないのだから。


「碓氷会長!今回も学年一位でしたね」

「おめでとうございます」

「有り難う、君達も良く頑張っているね」


 会長は外面用の爽やかな笑みを浮かべ、二人と対話していた。

 普段は爽やか笑みで、問題が怒った時だけ怖くなると思われている会長。詐欺だ、これは詐欺だ。会長の本来は性格がよろしくないというのに、今は爽やかに笑っている。私にも、その爽やか笑みを浮かべてほしいものだ。

 会長と女子生徒の二人を見ながら、私はさっきまでの会長の態度を考えていた。会長は何を思って、テスト結果の紙を見つめていたのだろうか。



 放課後になり、今日は日直だったので帰るのが遅くなった。

 正面玄関に残っている生徒は居ないと思っていたが、テスト結果の紙を見つめている生徒が居た。その生徒は朝に無表情で紙を見つめていた会長だった。

 私はとっさに物陰に隠れ、会長を見ていた。

 会長は自分のところではなく、その隣の玖珂先輩のところを見ていた。


「玖珂陸翔、か…」


 感情も込められてない会長の言葉は私のところまで届いた。

 いつまでも、物陰に隠れているのは駄目だよねと思い、物陰から出るとパチッと目が合ってしまった。


「……海砂」

「どうしたんですか?会長が思いに耽っているなんて」

「いや、何でもない」

「うそだー。もうすぐで学年一位を奪われると思ってたんだろー!」


 シリアスな雰囲気だったので、明るく言葉を紡いでいたらフッと笑われた。


「それはない。私はいつでも一番だ」

「凄い自信ですね」

「私は負けないからな。陸翔にも勝ってみせる」


 会長は楽しそうに声を立てて笑っていた。初めて見る子どもぽい笑顔に見とれてしまったことは秘密だ。

 会長は嬉しいのだろう。子どもの頃に仲が良かった玖珂先輩がついに本気を出してきたのだから。

 そんな会長を見て、私まで嬉しくなった。


「今の会長、好きですよ!」

「はっ…?」


 笑顔で、きっと会長に見せた中で一番いい笑顔で今の感情を口に出してみたら、驚かれた。多分、手にケータイがあったら連写していたであろうと思うほど、貴重な驚き顔をしていた。

 なぜ、そこまで驚くことがあるのかと自分が言った言葉を思い返してみると、急激に顔に熱が集まる。


「え、えっと…邪な感情は一切ありませんからー!」


 余裕が戻ってきた会長は、何かを企んだ悪い笑みを浮かべた。

 悪い予感しかしない。変な方向にいく前に私はダッシュで逃げようとしたが、パシッと腕を掴まれてしまった。


「か、か、かいちょ?」

「今の私が好きなのだろう?なら、何をしてもいいってことだ」

「いえいえいえ、どうしてそんな思考回路になるんですか!」

「あいにく、私は自分の都合のいいことに解釈してしまう癖があってな」


 クックと鼓膜を震えさせる笑い声は、ゲームのラスボスを思い出させる。会長が魔王とか、絶対に似合う。似合わないほうがおかしい。

 会長の魔王姿を思い浮かべたら妙に似合い過ぎて、顔がにやけてしまう。それを必死に抑えつけていたら、さっき何を話してたっけ?と記憶が飛んでいた。


「とにかく、腕を離せー!」

「あぁ」


 パッと腕を離され、私は後ろに腕を引っ張っていたので尻餅を付いてしまった。

 床に座り込みながら、立っている会長を睨む。


「大丈夫か?」


 そう聞きながら、笑っている会長。絶対、私が尻餅付くって分かってたよ。

 私は会長を睨みながら立ち上がり、全速力で下駄箱に行く。


「この、魔王めっ」


 最後に振り返って捨て台詞を吐くと、会長はフッと笑みを浮かべた。

 その笑みが格好良すぎて、見とれてしまったことはやっぱり秘密だ。


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