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お勉強ターイム!


 六月の終わりから七月の最初まで定期テストがある。五月にあった実力テストの成績があれだったので、今回は真面目に勉強をしようと思う。

 私は学校の図書室の扉を開いて中を覗き込む。図書室は意外に広くて、様々な本があるのが分かった。

 だが私が見渡す限り、図書室に人は居ない。図書室は西棟の四階にあるので、めったに生徒は利用しないのだろう。

 それにしても、図書委員は居ないのかと思い、中をふらふら歩く。だが、学級で委員を決める時に図書委員は決めなかった。いないのかな?

 ふらふらとしていたら、一番に日当たりがいいところに向かい合って座っている二人の男子生徒が居た。この二人しか図書室には居ないみたいだ。


「……海砂ちゃん?」


 ぼーっと二人を見ていたら、一人が私に気付き、こちらを見て私の名前を呟いた。

 誰ぞ!と思い凝視して見れば、金髪ピアスの桐島先輩だった。赤縁の眼鏡を装備していたので、気付かなかった。

 桐島先輩の眼鏡姿が似合っていて、つい顔がにやけてしまう。それを抑えながら、もう一人の方に視線を向けると彼もこちらを見ていた。

 もう一人とは、桐島先輩の親友の月宮先輩だった。


「久しぶりだね、海砂ちゃん」

「はい、お久しぶりです。桐島先輩に月宮先輩」


 久しぶり、と笑って言ってくれるのに罪悪感がこみ上げてくる。私が一時期間中、避けていたからだ。今は避けようとかは思わないが。


「誠也とも知り合いだったの?」

「はい!お世話になりました」


 へぇー、という顔で桐島先輩は月宮先輩を見たが、月宮先輩は無表情で何も言わない。ただ、私の顔をジッと見ているだけだ。

 私の顔に何か付いてますか?と無性に言いたいが言いづらい。

 不思議に思った桐島先輩が月宮先輩の顔の前で手を振って「ともやー?生きてる?」と言っている姿が何だか微笑ましい。二年の先輩は三年の先輩と違って、癒される!


「奏汰…」

「あっ、生きてた」

「普通に生きてます」


 今日、初めて月宮先輩が話したよ!流石は親友同士だよね。まじで、癒される。

 ぽあーんとしていたら、月宮先輩が私を未だにジッと見ていた。


「お久しぶりです」

「はい!お久しぶりです!」


 月宮先輩が私に話し掛けてきたし、私を覚えていたよ。まぁ、二度もぶつかれば覚えるよね。


「二人はどこで会ったの?」

「彼女が走ってると時にぶつかったのです」

「あぁ~、海砂ちゃんってドジっ子だもんね」

「ドジじゃないですよ!失礼な」


 桐島先輩の言葉につっこめば、二人は顔を見合わせて私に向かって「ドジだね」などと言っていた。

 ドジっ子というステータスは私には必要ないものだ。可愛い女子だったらいいのに。


「そういえば、海砂ちゃんは何しに図書室に?」

「勉強しに来ました!先輩達は‥?」

「俺達も勉強しに、ね?」


 同意を求めて桐島先輩は月宮先輩の方を向いた。小さく頷く月宮先輩は私に向かって手招きをした。

 二人に近付くと、桐島先輩が月宮先輩の右隣に座るよう指示してきた。大人しく座ると、月宮先輩の向かい側に居た桐島先輩が私の右隣に座って、二人に挟まれる形となってしまった。

 これが俗に言う、両手に花か!と興奮気味な私。


「一緒に勉強しようね?」

「分からないところがあるのなら、聞いてください」

「は、はい!ありがとうございます」


 私は教師をゲットした気分だ。一人でやるよりは、進む気がする。

 それに、両手に花状態で癒やしが十分で勉強が進む。頑張れる気がする。

 私は二人と勉強出来るのなら嬉しいが、二人は私のこと邪魔じゃないのか?

 そんな私に気付いたのか、桐島先輩はにっこりと笑い「俺達が誘ったのだし、邪魔じゃないよ」と言ってくれた。


「海砂ちゃんは何の教科をやるのかな?」

「私は英語が苦手なので…英語を」

「英語だったら、僕より奏汰の方が得意ですね。教わってみたらどうですか?」

「えっ?」


 月宮先輩の言葉に、つい私は桐島先輩を見てしまった。英語は一人だったら分からなすぎて教えてほしい、という気持ちを込めて。


「俺でいいの?教え方、下手だよ?」

「教えてもらえるなら、教えてほしいです!」

「奏汰は教えるの上手いから大丈夫ですよ」

「二人がそう言うなら頑張る」


 眼鏡のブリッジを上げ、私の教科書とノートを見る桐島先輩。そのチャラい眼鏡姿が妙に様になっていて、鼻血が出そうだ。

 どうして、見た目がチャラチャラしている男というものが眼鏡をかけると似合うのかが不思議だ。

 私の左は知的眼鏡で右はチャラい眼鏡か!他の人が見たら、羨ましがるな。


「うん。海砂ちゃんがやってるところは、だいたい分かったよ。海砂ちゃんはどこが分からない?」

「えっと……全部?」


 あはは、と笑いながら軽く言えば、桐島先輩は首を傾げた。月宮先輩はいつも通りの無表情だが。


「ん?ねぇ、誠也」

「何ですか?」

「さっき、全部って言ったよね?」

「そうですね。彼女は全部と言いました」


 全部で悪かったな!英語は苦手だと言っただろ。

 心の中では開き直っているが、外面は曖昧な笑みを浮かべていた。


「因みに、前回の点数は?」

「37点です!」

「うん、よくこの学校に入れたね」


 この桜咲乃学園さくらざきのがくえんは進学校である。

 私みたいな馬鹿が本当によく入れたなと自分でも思っている。だが、高校受験の時は必死で勉強していた。家庭教師といって、週末に頭がいい兄を呼びつけて勉強までしていたのだ。


「家庭教師が優秀過ぎてですね、はい」

「その家庭教師はどうされたのですか?」

「最近は忙しいみたいで会ってないですね」

「そうなんですか」


 月宮先輩とほんわかと会話を繰り広げている間に、桐島先輩は何かをぶつぶつと呟いて考え事をしていた。

 考え事が終わったのか、いきなり机をバンッと叩き、立ち上がる。

 大きい音にビクッとして桐島先輩を見れば、にっこりと私に向かって笑いかけている。その笑みに嫌な予感しかしないのは私だけなのか。


「ふふ、海砂ちゃん。今日からテストまで猛勉強だね」

「まじかっ!」

「マジだよ?」


 レンズ越しに見える目が本気だ。

 助けを求めるように月宮先輩を見れば、彼は下を向き勉強をし始めていた。

 逃げた。月宮先輩が親友の暴走を止めることを拒否した。軽くショックだ。


「いや、ほら…先輩も勉強が」

「俺は大丈夫だよ。前からしてたし、海砂ちゃんに課題を出してる時にすればいいって思ってるから」


 課題出す気か。桐島先輩が凄いやる気満々だよ。

 若干引きつった笑みを私が浮かべるのに対して、桐島先輩は本当にいい笑顔だ。こういう状態じゃなかったら、チャラい眼鏡でその笑顔とか素敵!と叫んでいたことだろう。

 そして、月宮先輩は本気でスルーして勉強をしている。


「先輩に悪いですよ…」

「大丈夫だよ。君も追試は嫌だよね?」

「うっ…」

「じゃあ、頑張れる?」

「いえす、です」


 何で桐島先輩がやる気満々なんだよー!追試とか言われると教えてもらう選択肢しか残ってないしな!


「明日からも放課後にここに来てね」

「はい……」

「うん、いい子」


 私の頭をポンポンと撫でる。

 上手く乗せられたな自分、と考えると何だか悲しくなってくる。

 もっとポジティブに考えるんだ。例えば、桐島先輩が教えてくれるならテストとかいい点取れる気がする、とか。そう思うと、やる気が沸いてきた。


「私、頑張ります!」

「その意気だよ!」

「はいっ!」


 今日のところは、教科書の内容を簡単にサラッと流しただけで終わった。

 その間にちょいちょいと月宮先輩にも教わりながら勉強を進めていた。


「今日はここまで」

「はーい、桐島せんせー」

「先生呼びなの?」

「だって、先生みたいですもん」


 勉強道具を片付けながら、そんなやり取りを交わした。


「そういえば、この図書室って誰が管理しているんですか?」

「ここは生徒があまり来ないので、生徒会で管理しているのです」

「そうなんですか!」

「えぇ、何か図書室に用だったら僕に言って下さい。鍵を貸しますので」

「はい、ありがとうございます」


 だから図書委員はいらないのか、と納得する。

 生徒会というものは仕事が大変そうだ。仕事がないのはテスト前ぐらいらしい。忙し過ぎる。


 勉強後の談笑を少しだけして、それぞれの帰途へとついた。

 残念なことに勉強時間が終わると桐島先輩は眼鏡を外したのだ。チャラい眼鏡がー、と思うが時々かけるのが素敵なんだと言い聞かせた。それに、テストまで毎日見れるしね。それが一番の楽しみだ。


「気を付けて帰って下さい」

「はい!先輩方も格好良すぎて狙われないように!」

「それはないかな」


 桐島先輩は否定するが、先輩は格好いいんだ。狙われるかもしれないんだぞ!


「本当に気を付けて下さい!」

「分かりました、気を付けます。そちらも十分に気を付けて下さい」

「はい!今日はありがとうございました!」

「また明日ね、海砂ちゃん」

「はい、また明日もお願いします」


 それから、テストまで地獄の勉強会が始まったのだった。


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