違和感
私は玖珂先輩の一件から、攻略キャラの六人に関わることが怖くなり、避け続けた。
三年の碓氷悠真、玖珂陸翔。二年の桐島奏汰、月宮誠也。一年の蓮見陽輝。先生の柳葉伊吹。
蓮見くんとは話したことは無いが、それとなく六人には近付かないそうにしている。
玖珂先輩との一件から数週間が経ち、今は六月の半ばだ。琴葉ちゃんから心配を何度もされたが、元気がないのは雨の所為にしてきた。
「はぁ…」
何度目か分からないため息を零し、枕に顔を埋めた。
そして、彼ら六人のことを考えるが何だか違和感を感じる。乙女ゲームの記憶を思い出してから感じていたが、それほど変に思うことはなかった。だが、今では違和感を感じる時が多くなった気がする。
「私は何かを忘れている」
そんな気がしていた。
一人足りない気がしてならない。だけど、思い出せない。
だが、乙女ゲームといえば攻略キャラは大体六人ぐらいだ。その中に誰かが付け加えられるとしたら、隠しキャラしかいない。
「私は覚えていない」
隠しキャラが居たなんて覚えていない。
玖珂先輩の一件から、違和感が強くなってきた。
思い出すイベントの中にも、誰のストーリーなのか分からないイベントもあった。六人をそのイベントにあてがえてもしっくりこない。
もう一人居る。
そんな気がしてたまらない。
昨日は考え過ぎて、あまり眠れなかった。目がしょぼしょぼする。
「海砂ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ」
「ごめんね、ありがとう。ちょっと考え事していて…」
琴葉ちゃんは心配そうに私の顔を覗き込んだ。
これ以上は琴葉ちゃんを心配させたくなくて、笑顔を作った。私の作った笑顔を見て、琴葉ちゃんは悲しそうに笑った。
罪悪感が心を締める。琴葉ちゃんを心配させるなんて、私は馬鹿だ。
ガバッと勢いよく琴葉ちゃんを抱き締める。
「海砂ちゃん?」
「琴葉ちゃん補給をして、元気になる!」
「じゃあ、私も海砂ちゃん補給しようかな」
優しく私の背中をトントンと叩いてくれて、何だか悩んでる私が馬鹿に思えてきた。それに先生や先輩をそれとなく避けるなんて、失礼過ぎる。避ける人は三年の危険人物だけでいいんだ。
「東堂海砂、ふっかーつ!」
琴葉ちゃんから離れてピースを作れば、琴葉ちゃんは嬉しそうに笑った。その笑みはまるで女神のようだった。
「そういえば、琴葉ちゃんってさっき真剣に本を読んでたよね?どんな本?」
「えっとね。ある男性と女性達の恋物語なんだけど…」
琴葉ちゃんが読んでいた本の内容は、凄いものだった。
ある男性は、性格も出会う形も違う女性達に出会い、失恋と新たな恋を繰り返していくお話みたいだ。
作者がこの話で言いたいことは、出会う人が変われば性格も出会う形も恋に落ちる時も違う、と言いたいらしい。だから、人生には決められたルートもなければ必然もない。あるのは運命だけだ、と言っている。
「奥が深いね…」
「うん。でも、私はそう思うよ」
「琴葉ちゃんってロマンチックなんだね!可愛い!」
「そんなことないよ」
出会う人も変われば性格も出会う形も恋に落ちる時も違う、か。なぜか、私はその言葉に引っかかりを覚えた。まるでそれは、あの六人を言っている気がしてならない。
私は今まで、蓮見くんを除く五人と出会ってきてる。だが、ゲームで見たイベントとは酷似しているものはあったが、ほとんどは出会う形とかは違った。だから、私は彼らのイベントをしていないとばかり思っていた。
私ってもしかしなくても、私専用イベントとかしていたり?
「まじかっ!」
「…海砂ちゃん?」
頭を抱えて床にうずくまれば、琴葉ちゃんが心配そうな声色で言葉をかけてくれた。今の私はそれどころではなかった。
可愛い女子と格好いい男子を見てにやにやしたり、いきなり変な行動取ったり、窓から外に出ようとしたり、廊下を走ったり、変なこと口走る女子とフラグを立てて楽しいのか!
いやいや、自惚れるな私よ。そうと決まったわけではない。現に玖珂先輩は私のことが嫌いだ。
「琴葉ちゃーん!」
琴葉ちゃんの腰に抱き付けば、いつものように私の頭を撫でてくれた。この絶妙な撫で方、落ち着く。
私は息を思いっきり吸って、吐き出した。
よし!難しいことは考えない。私は私なりに生きていく!
攻略キャラが出ない琴葉ちゃんのターンでした。