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いじめ終了のお知らせ


 私はまた女子の先輩方に囲まれている。囲っている人達は前と変わらない。

 理由は保健室で桐島先輩と会ったことではない。見なれてないのでそれはない。ただトイレの水ぶっかけの時に私が生意気に見えたらしいからだ。

 そして、私が桐島先輩に好意を抱いているという理由で裏庭に私を呼び出したらしい。

 私は確かに桐島先輩に好意を抱いている。ただ、女子の先輩方の恋愛の方ではないと思う。ドキドキする時はあるが、それを全部恋愛に結び付けたら私は何人に恋をしていることになるのだろうか。検討も付かない。

 小さくため息を吐いたら、一人が私の頬をぶった叩いた。


「奏汰はあんたみたいなブスの女なんて相手にしないのよ!」

「奏汰は格好いいから、惚れてしまうもんね」


 私はこの先輩方をどうすればいいのだろうと考えてしまった。

 何か、凄くイラついてきたのはきっと私だけではないはず。


「たしかに…」

「はぁ?何が言いたいの?」

「確かに桐島先輩は格好いいですよ!先輩方が惚れるのも分かります!だけど、先輩方の被害妄想に私を巻き込まないで下さいよ!桐島先輩は格好いい、えぇ格好いいですとも!それは認めます。だけど、顔だけなら私は生徒会長が好きです。あくまで顔だけならですよ!でも、声も…あ、いえ、そうじゃなくてですね」


 一気に話して、自分でも何を言っているのか分からなくなった。途中から会長loveと言ってるような発言に切り替わっていた。

 先輩方もポカーンといった表情で私を凝視する。


「とにかく!私は桐島先輩に好意を抱いてることは認めます。だけど、loveではありません」

「そっと、それは…」

「先輩としては好きってことです」

「そうなんだ……」


 呆気にとられていた先輩方は妙に納得した顔で互いに顔を見合わせる。

 何か言葉を出そうと口を開きかけたところで、裏庭に私と先輩方ではない誰かの足音が聞こえた。その足音は私の後ろから聞こえ、先輩方は誰が来たのか分かったのだろう。顔を真っ青に変えた。


「私の学園内で虐めとは、よくやったものだ」


 ククッと耳朶を震わせる威圧感ある笑い声は一人しか思い付かない。

 バッと後ろを振り返れば、予想通りの生徒会長ーー碓氷 悠真だった。

 それともう一人居た。金髪の巻きロールの美少女ーー円城寺えんじょうじ 麗奈れいなだ。彼女は会長と同じクラスの先輩で、会長の婚約者だ。現実はどうか知らないが、本人達は解消したがっているとゲーム本編で言っていた気がする。二人は兄妹に近い感覚のようだからだ。

 円城寺先輩は美人だ。クラスの男子もよく話していた。私も何度も遠くから見つめていた。


「円城寺先輩だー」

「あら?わたくしって結構有名だったりするのかしら?」

「はい!クラスの男子が言ってましたし、私も遠くで何度も!」

「ふふ、そう?照れるわ」


 円城寺先輩に見とれていた私は気付かなかった。会長が先輩方に反省文提出を言いつけて、帰らせていたなんて。


「おい、海砂」

「はい?」


 いきなり名前を呼ばれ、反射的に会長を見る。その時には既に先輩方は居なくなっていた。

 というより、婚約者の男が別の女の名前を呼び捨てにしていいのかと思い、円城寺先輩を見るが本人は会長を見て「あらあら」と微笑んでいた。


「ついに悠真にも春が訪れたのね、嬉しいわ。これで心置きなく婚約解消が出来るわ」

「……うるさい」

「ふふ、わたくしは感がいい方なのよ。騙せると思っているのかしら?」


 はぁ、とため息を零す会長。円城寺先輩にはどうやら勝てないようだ。

 私は絵になるような二人を写真に収めたくなった。だけど我慢。

 にやつく顔を必死で抑えていたら、私の手に触れるぬくもりを感じた。手を見てみると、円城寺先輩の手が私の手を包み込んでいた。


「悠真のこと宜しくお願いしますわ」

「へっ?」

「ふふ、驚いた顔も可愛いわね。わたくしも愛でたくなってきました」

「麗奈」

「そんなに怒らなくても宜しいのでは?嫉妬深いと嫌われますわよ」

「…余計なお世話だ」


 ふふっ、と妖艶に笑い、円城寺先輩は私の頬にわざとらしく唇を当てる。

 美人さんにキスされた!唇が柔らかくて妖艶だ、と変態な思考回路をして顔を熱くした。


「可愛らしいわ。わたくしが貰いたいくらい」

「……麗奈」

「分かってますわよ、もう行きますわ。ではまた会いましょう、海砂さん」

「はいっ!」


 円城寺先輩に名前を呼ばれてテンションが凄く上がってしまった。

 後ろ姿も様になっているので、彼女が見えなくなるまで見つめていた。


「美人さんだったなぁ~」

「腹の中で何を考えているか分からん奴だ」

「でも、美人じゃないですか!」

「タイプじゃない」


 即答しなくてもいいじゃないか。世の中の男子は円城寺先輩みたいな美人さんに憧れるというのに、会長は贅沢過ぎる。円城寺先輩は完璧だと思うのに、それ以上を望むというのか。理想が高いぞ。


「会長の理想って高い。絶対高い」

「理想とかは考えたことはないが、落とす難易度は高いと思うな」

「へぇ、天下の会長様がねぇ」

「あぁ、口説いているというのに本人は気付いてない」

「それはそれは、残念ですねぇ」


 いいことを聞いた気がする。会長は女子に夢中のようだ。愛莉姫なのかな、と期待して見つめた。

 会長はみるみる内に不機嫌になっていき、私の腕を掴んだ。


「君は本当に気付かないのか?」

「へ?」

「私が口説いているのは君だ」

「えぇぇ、何かのドッキリですか!?」


 ドッキリじゃなかったら何なのだろうか。冗談か。

 はぁ、と深いため息を会長は零して私を不機嫌そうに見つめる。そのまま掴んでいた腕を引っ張り、己の腕の中に私を閉じ込めた。

 急激に近くなった会長との距離に私の心臓は爆発寸前だ。

 逃げ出したくて暴れても、会長はピクリとも動かない。


「か、か会長!」

「私の顔と声が好きなんだろう?」

「聞いてたんですか!」

「あんなに大きな声で言われたら誰だって聞こえると思うが?」

「うっ、不覚」


 聞こえてたなんてショックだ。

 ショック過ぎて暴れることを止めたら、会長は脳裏に響く声で「海砂」と囁く。色っぽい会長の声に頭がクラクラする。


「ひどい…あんまりだー」


 会長は私を抱き締めたまま、ポンポンと頭を撫でる。それが気持ち良くて目を細めれば、フッと笑みを浮かべられた。その笑みに胸が高鳴るのは、会長の顔がドストライクの所為だ。

 しくしくと泣き真似をしていたら、少しだけ本当に涙が零れた。


「酷いのは、いったいどちらなのだろうか」


 会長が囁いた言葉は小さすぎて私には聞こえなかった。


「てか、そろそろ離せー!」

「あぁ、忘れてた。あまりにも抱き心地が良すぎて」

「くっ‥肉付きがいいと言いたいのか!この極悪非道人めっ!」

「君ぐらいが丁度いいと言っているんだ」

「信用出来るか!」


 ぱかぱかと会長の胸を叩けば、案外すんなりと離してくれた。

 ホッと安心して一息付いたら、一瞬で会長との距離が縮まった。

 チュッと会長はリップ音付きで私の頬にキスをする。しかも、円城寺先輩がしたところにだ。


「ななな、何するんですか!?」

「……消毒だ」


 ペロッと自身の舌で唇を舐めとる仕草をする会長。その姿が妖艶過ぎて、息をするのも忘れてしまった。


「どうした?私に見とれてたのか?」

「…っ、そんなんじゃない!格好いいとか、格好いいとか、思ってるんだからなー!」

「思ってるのか」


 クックッと笑われる。

 自分でもさっきの言葉はしくじったと思っている。なぜ、格好いいと認めたのか。というか、顔が好みとバレたので開き直っただけだが。

 私は無性に恥ずかしくなり、ダッシュで逃亡することに決めた。

 最後に先輩方から助けてくれたお礼を言ってから、逃亡だ。


「会長、今日はありがとうございました!」


 返答も聞かずに私はダッシュで逃げた。

 いろいろあったが、なぜか心はすっきりしていた。


 だけど、この時の私はまだ知らなかった。

 この場面を誰かに見られていたことなんて。



桐島先輩が可哀想に思えてくる。

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