入学式
初めての投稿です。生ぬるい目で見てやって下さい。
高校の入学式。
一際大きい桜の木の下で桃色の髪が揺れる。風になびく腰まである長い髪を片手で抑えつけながら、少女は桜の木を見上げた。
高揚した頬は薄いピンク色に染まり、制服から覗く肌は白い。庇護よくをそそる美しさ。
私はその可憐な少女を見た瞬間に思い出してしまった。
ここが、乙女ゲームの世界だった、ということを。
私の前世は乙女ゲームが好きだったようで、よくしていたみたいだ。ハマってやっていた乙女ゲームの中に、このゲームもあった。
名前は『桜咲之学園』
この乙女ゲームは、よくある学園を舞台にした作品だ。しかし、何を思ったのか、制作者はただの学園物ではつまらないと考え、出来たのがこの作品。
この作品の特徴は、エンディングが沢山あることだ。ハッピーエンドにノーマルエンドにバッドエンドは普通だ。それに付け加えられ、ツインエンド、トゥルーエンドらが存在する。
ツインエンドは攻略対象キャラ同士の二人を同時に好感度を上げていくとエンドを迎える。このエンドは攻略方法が難しすぎて何度もやり直した記憶があったりする。なにせ、同時に同じように好感度を上げていく必要があるだ。常に二人の好感度は同じにしとかなければならない。
次にトゥルーエンドだ。トゥルーエンドは、物語の真の結末やら本来の終わり方やらのことだ。この作品のトゥルーエンドは攻略キャラの真の姿の本来の終わり方だ。
攻略キャラの誰かは忘れたが、ある人物はゲームヒロインが好きすぎて「俺だけを見ろ」で監禁に陵辱やらを繰り返す鬼畜エンドだ。
ん?バッドエンド?違います。トゥルーエンドです。
あとは、キャラ同士の奪い合いもなかなかな作品だ。
そんな感じな乙女ゲームの世界に私は転生したらしいです。思い出したのは今さっき。
ついでに、桜の木の下に居たのはゲームヒロインの姫野 愛莉だ。
入学式で彼女が新入生で入ってきてからゲームが開始する。
そう、もう物語が始まっているのだ。知らず知らずの内に私はゲームの中に巻き込まれていた。
因みに私は、東堂 海砂と言う。ゲームの中には出てきてなかったので脇役の脇役なのだろう。
脇役は脇役らしく、見た目がいいヒロインと攻略キャラの恋愛でも楽しく楽しませて貰おうか!
ついでに言うが、前世が乙女ゲーム好きだったみたいだが、今世でも私は乙女ゲームが大好きなのだ!可愛いヒロインが格好いい攻略キャラとイチャイチャするのは、私の栄養分なのですよ。
ここが乙女ゲームの世界ならば、十分に私を楽しませてくれるはず!
私は内心でガッツポーズをして、入学式が行われる講堂に入った。
本当は、ヒロインが入学式の前に出逢う攻略キャラの一人とのイベントを見たかったが、私は出来るだけ目立ちたくない。入学式に遅れるとか絶対に無理だ。
自分の席に座り、私は今か今かと入学式を待ち望んだ。
新入生も集まり、入学式が始まった。
私のクラスのところに一つだけ空いている椅子がある。きっとそこがヒロインの席なのだろう。
というより、同じクラスか!?
結構、近くでイチャラブが見れるのか!?
同じクラスとは都合がいい。同じクラスでもヒロインに近付かなかったら、近すぎず遠すぎない。傍観するにはいい距離だ。
嬉しさで小さくガッツポーズをしていたら、周りがざわざわと騒ぎ立てた。
え、ガッツポーズ見られた?
いいえ、そんな訳ないですね。あれですよね!生徒会長のターンですよね!
下げていた顔をバッと上げると、壇上に青みがかった黒髪に見たものを魅力してしまうほどの綺麗な紫色の瞳を持つイケメンが居た。
新入生の女子の大半が、というより全員が見とれてため息を零す。
周りの反応を楽しみながら、私は生徒会長を観察し続ける。
いやはや、まじでイケメン。美人さんなヒロイン、愛莉ちゃんと心の中では呼ばせて貰おう。その愛莉ちゃんと会長様のイチャラブ!
ヤバい、想像しただけでよだれが…ごっほん。ん、ちょっとよこしまな考えで穢してはいけないな。
にやにやする顔を周りが会長様に釘付けになっている時に軽めに叩き、自分を保つことだけを考えた。
「ようこそ、新入生の皆さん」
くはっぁぁぁぁああ!!ただのイケボですね!
いやはや、流石の生徒会長様だ。その声で「好きだ、愛莉」なんてなっ!うっは!
ごっほん。少々羽目を外しすぎたみたいだ。
いや、でも心の中ではこうでも外側の方は無表情だから大丈夫のはず。皆にバレてないよ。
付け加えて言うならば、私は攻略キャラの中で一番好きなキャラがこの生徒会長様だ。
名は、碓氷 悠真。三年、生徒会長だ。因みに、腹黒みたいなものだ。
この声で囁かれると、もうっ!ってぐらい好きなんですよ。
てか、そろそろ愛莉ちゃんが遅れてくるんじゃないんですかね?
確か、愛莉ちゃんが遅れて入ってきて会長様が…えっと
「そこの女子生徒、早く自分の席に付きなさい」
そうそう、そんな感じで注意したりするんだよねぇー。って、え!愛莉ちゃんだー。
慌てて愛莉ちゃんは自分の席に座り、姿勢を正す。会長様はチラッと愛莉ちゃんを見てから、話を続けた。
何だかんだで入学式は無事終わりを向かえて、今はクラス。
今日は先生の話で終わりだ。
教卓の前に居る先生は、暗めの茶色の髪に同じく茶色の瞳。そして、イケメンである。そのイケメンは絶賛自己紹介中。
「柳葉 伊吹だ。これから、一年間よろしく」
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、そう彼も攻略キャラなのです!
生徒と教師のバレてはいけない禁断の関係。惹かれたらいけないのに、惹かれてしまう運命。いいねぇ。
クラスの女子生徒は会長様に引き続き、心をどこかに持っていかれそうだ。大丈夫ですかー、おーい。
ハッと思い、愛莉ちゃんの方を見る。愛莉ちゃんは頬を軽く染めているが、にっこりとして心は持っていかれてないみたいだ。安心した。
「おいおい、お前達反応うすいなー」
反応が薄いのは先生が格好良すぎて、女の子達が見とれてたからだ。男子生徒は「ちっ、またイケメンかよ」ってみたいな顔してますけど。
先生の声で戻ってきた女の子達は「せんせー、彼女いますか?」やら「好きなタイプは何ですか?」やらで先生が大変そうだ。
まぁ、ひとまずは入学式は終わったので、今日は特に何もないだろう。あるとすれば明日からだ。
愛莉ちゃんを見ながら、愛莉ちゃんは誰を選ぶんだろう?と考えていた。