気付いてはいけない。
犬猿の仲のはずだろお前ら、そう思わなくもないが、共通の目的があればこその停戦協定です。
でもやはり1人は、この2人にとって敵でしかないのかも。
低いうなり声をあげ、菜緒を睨み付けるティーネ。そのアホ毛と目はマジそのものである。
さすがに苛めすぎたかと感じたのか、手を合わせ「ごめんなさい」と菜緒が謝る。
だがティーネの機嫌は戻らす、ぷいっと横を向き――横目でやらしー本を見続けているのであった。
「なぜそこまで真剣に読んでいらっしゃるのですか?」
写真しかないのに、次のページをめくるまでがやたら長い。それにゲネスは疑問を感じたのだ。
じろりとゲネスの顔を睨み付け、視線を胸へと落とす。そして眼鏡をいじりながら鏡で確認している菜緒の胸にも視線を向ける。
最後に自分の胸を見て――溜め息。
どういう繋がりがあるのか読めないゲネスは、首を捻るばかりである。
ティーネはペラペラとページを戻し、全裸の女性の胸を指さす。
「これも」
ページをめくって次の女性に。ここでも胸を指さす。
「これも」
まためくって、別の女性の胸を。
「この人も」
まだ読み進めていないページを一気にめくり、女性を一通り確認してから大きな大きな、それこそ吸い込んだ息を全て吐き出すほどの溜め息をついたティーネ。
アホ毛はしおれ、歯ぎしりでもするかのように口をすぼめる。
「みーんな、ちゃんとそれなりでも胸がある……透は胸のある人の方が好きなんだねーと」
「ええと……きっとその類の本ならば、ほとんどの方がそういう体型なのではないのでしょうかね。別に胸のあるなしで選んだ本ではないのでは」
「そうなのかなぁ!?」
必死にすがりつかれ「たぶん」などと適当な事をもらしつつ、苦笑いを浮かべるゲネスは横目でやらしー本を見ていた。
(人間としては標準的と言いますか、やや痩せ型ですわね。胸の大きさはまちまちで、格別大きいのが好きというわけでもなさそうですわね)
大きさのイニシアチブがないのかと、ほんの少しだけ肩を落とす――と、突然がばっとティーネの手からもぎ取って本を食い入るように見る。
「ほにゃ!?」
本を取られた事よりもゲネスのその不審な行動に驚いたティーネだが、ゲネスの肩に顎を乗せ、絵的に本を仲良く見るのであった。見ている本が女性の見るモノではないのは置いといて。
「どしたのー?」
「……今気づきましたわ」
ペラリとめくると、顔に指を置き、眼鏡、そして髪の毛を示すと、次々にページをめくる。
「よく見たらこの方々、顔だちは違いますけど共通点がありますわよ」
「ふにー?」
「御覧なさい」
眼鏡を示す。全員眼鏡をつけている。
髪を示す。全員黒髪で、セミロングやミディアムロング、そんなあたりばかりだ。
そして目の前には、眼鏡をかけ、黒髪でミディアムロングの人物が鏡で表情を確認している。
「……」
「これは気づかなかった事に致しましょう」
パタンと、静かに本を閉じるゲネスであった――
透君、やはり眼鏡っ娘好きなのかもしれない。