裏切りましたわね!
コタツを復活させるみたいな約束をしてしまった菜緒。
期待するゲネス。
半分死んでるティーネ。
何を裏切ったかは、想像に難くないですね。
コタツを戻す。
それで解放されたからには、戻さないとダメよねと菜緒はティーネから離れると、ベッドの縁に腰を掛け、ゲネスと正面から向き合った。
いつもの穏やかな笑みと違い、何かを期待しているワクワクとした笑顔。
ゲネスに、悪魔らしく傲慢だが大人びた気配を感じていた菜緒は思わず吹き出す。
むろん、正面切って笑われたゲネスは眉根を寄せ渋い顔をするが、口元はいまだにニャンコチックな笑みを浮かべている。
「早くしてくださいまし」
「はいはい」
ベッドで反動をつけ一気に立ち上がると、この部屋唯一のクローゼットへ向い戸を開けた。
「……あら?」
「早くしてくださいまし」
「はーいはい」
再度の催促に生返事を返して、もう一度クローゼットの中を確認する菜緒。
ポールに吊るされた服数点、5段の衣装ケース、小さなダンボールが4つ。あとは上の棚にさらに小さいダンボールが5つほどあるだけだ。
部屋に視線を戻すが、本棚、元コタツのテーブル、ベッド。大きく目立つものはそれくらいしかない。
「コタツ布団がないいわ」
「……どういうことですの?」
問われた菜緒は目を閉じ顎に手を当て、んー……と少しの間黙し、口を開いた。
「クリーニングに出したのかな。ゴメン、ちょっと無理かも」
菜緒がそう告げると、ゲネスはその場で菜緒に背を向けるよう横になり、ラグマットを指でぐりぐりと。触角もへんにょりと床に着いてしまっている。
「ふひー、ざまーみろだよー」
いつの間にか枕を抱きしめながら毛布にまでくるまっているティーネが、そんな様子のゲネスをいい気味だと言わんばかりに笑う。
枕に引き続き、毛布まで独占しているティーネをキッと睨み付けた菜緒だったが、ある事にふと気がつく。
そして毛布に手をかけた。
「あっ、せーの!」
「ほにょぉ!?」
毛布を引っ張りあげられ、ゴロゴロ回転。ドスンと壁に当たって停止するティーネ。
コタツの天板をよけ、はぎ取った毛布をなるべく均等になるようにかけると、天板を戻した。
ふさっとした毛布の感触に、横になっていたゲネスが顔を上げる。
「ちょっと短いけど、これでもいけるわよね」
人の部屋の毛布を使い、勝手にコタツを復活させる。この行為はどうなのだろう。
だがそんな事、悪魔に関係ない。
あと菜緒にも。相手が透だと、全然遠慮しないのだ。
形だけでも復活したコタツにゲネスは嬉々として起き上がる――が、すぐに首を傾げる。
「何やらじんわりとしたものがないですわよ?」
「……ゴメン、コードが見つからないからあんま意味なかった」
再びゲネスはふて腐れ、横になったとさ。
まだまだ透君の部屋での会議は続きます。
話し合いが進んでいませんけど。