甘い飴が苦い
夏目漱石を読んだ 国語の授業が終わる
教科書を机の横の鞄にしまい
ほっと息をつくわたしは 座ったまんま
ブレザーのポケットから あまいひとつの飴を取りだす
お気に入りの飴をほっぺのなかにくゆらせながら
黒板の上の時計をみれば あと十分
休憩時間はあと十分 と騒々しい教室内で
にんまりゆっくり 飴を舌でころがしていたら
唐突にガタッ と隣の席から音がした
平穏なわたしの休息に水をさす邪魔者はだれかと
横を睨みつければ あぁ、と嘆息する
席替えをしたばかりで忘れていたが そういえば
わたしのとなりはくらすめいとでなかったのだ
そう思い出した直後 もう一度ガタリ、と
人為的な音がする
教室内の排除者は 倒された椅子の向こう側
床に打ちつけられているようで
蹴った男子のあざけりが クスクスと薄く広がる忍び笑いが
クラスメイトでないその人を じわじわと殺しているらしい
どろりとしたその空気に 顔を背けると
足元にカツンとなにかが当たる
なんだろうと数瞬ののち そのシャープペンシルが
わたしのクラスメイトでない者のものであると気づき
甘い飴を苦くしながら
拾わないわたしに目をそらした




