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僕という魔王

作者: 雪国T

 不思議な事に、僕に近づく人は皆死んでしまうらしい。

 それに気が付いたのは小学生の頃。まだ僕が純粋無垢だった、まるで今とは正反対な時代だ。

 僕の周りにいる友達が、ただ椅子に座って話していただけで急にもがき苦しみだしたのだ。

 その子は『酸欠』だった。運動も何もしていないのに、ただ僕が近くにいただけだったのに。そんな事が毎日のように起こった。

 その症状が出るのは何も他人に限られた事ではなかった。僕の周りにいる、たとえば親、ペット、植物。僕がそういったモノに近づくと酸素が必要なそれらすべてに影響が出るのだ。

 ある時気付いた。『これは僕のせいなんだ』と。

 悲しかったけれども、それでも周りはそんな僕に気付く事が出来ないし、何よりこんな僕を周りの人間に打ち明ける勇気など、無いに等しかった。

 僕は、周りの酸素をすべて吸収してしまう体質なのだと分かった。だから、僕の周りは酸素が殆どない状態になり、その結果―――――――――――。

 しかも恐ろしい事に、その酸素が消える範囲が年を取るごとに大きくなっているのだ。

 小学生の頃は僕の手の届く範囲まで。

 中学生の頃は教室全体。

 高校生の頃には学校の全て。

 そして大学生の今は―――――――――――――。

 世界を呑み込んでしまう程、世界を犯してしまう程、酷く、広く。

 僕の家族は死んでしまった。僕の友達は死んでしまった。ペットはいつの間にか骨になっていた。見ず知らずの他人は僕の為に誰かに泣かれた。

 皆次々と息絶えて、その度に誰かが泣いている。

 僕はもう、泣けないほどにまで、疲れ切ってしまった。

 いったい僕はなんのために生きているのだろう。

 僕の為に誰かは死んで、僕の為に誰かは泣いた。これじゃ、まるで僕は魔王じゃないか。

 世界を滅ぼす、魔王じゃないか。

 ならいっその事、魔王は魔王らしく人が泣いている様を見て笑えばいいのに、僕にはそれが出来ないから僕はまだ人間なんだって、そう思える自分が何よりも憎々しい。

 どうしてこんな事になってしまったんだろう。ただ、生きたかっただけなのに。

 僕はマンションの屋上へと入った。今日は風が生ぬるく、とてもいい演出をしていると思った。

 ゆっくりと屋上の端まで歩く。これまでの人生を一歩一歩踏みしめながら、後悔しながら歩く。そして、地上を見渡せる見晴らしの良いところまで僕は来た。

 大きく息を吸い込む。そして、目をつぶる。今までの思い出を走馬灯のように思い出す。

 最初から、こうすればよかったんだと、どうして気が付かなかったんだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 独特の雰囲気、世界観がぐっと引き込んできます。 結末も、あえて明確に描写しないことで、より切なくなるような、そんないい演出だと思います。 [一言] SFであり、モダンホラーのようであり・・…
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