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そこは地獄の底

「……おろろ?」


 さきほどまで死の瀬戸際をさまよっていたローブの男は。

暗く暗く、まるで目をつむっている様に周りは何も見えない謎の空間にポツリと立っていた。


 今、ここに立ってしっかりと自分が生きている事も分かる。


「ここどこ? ……あれ? 私は誰って僕は誰だ?」


 ぶつぶつと訳の分からない事を呟きながら首を傾げて男は辺りを見回していた。

 見回した所で何も見えないが、それでも見回してしまう。


 ぼけっと突っ立っていると、誰かがこちらへ石畳を歩いて来るような音が聞こえて来た。


「やっ、おはよう、やっと起きた?」


暗闇なのでそれが誰だかは分からないが、近くで誰かにそう言葉を掛けられた。


 恐る恐る返事をしてみようとすると、突然薄暗く辺りに明かりが灯った。


足元を見下ろすと、レンガ……とは断定できない不思議な模様の石畳で出来た床の上に自分は立っていた様だ。

明かりが灯ってもその範囲は狭く、見える範囲以外はいまだ暗いので、少し離れるとそこは何があるのかも分からない。周囲が僅かに見える様になっただけなのだ。


しかし目の前には1人の髪の長い黒服の青年が先頭に立ち、武装した傭兵の様な男達が後ろで数十人立っている状況だという事だけは分かる。

先頭のさわやかな顔した青年以外は目付きが悪くごつい顔した不細工な連中だった。口には出さないが心の底からそう思う。


「……えーっと」


だがそんな連中を見て、ローブの男は今の状況が飲み込めずにただただポカンとしている。人をバカにできない様な間抜け面だ。

そんな姿を見て、目の前の青年はニコやかにこう言った。


「ほら、おはよう、やっと起きた?」


「はあ……え? こ、ここはどこですか!」


ようやく目を覚ました様に、突拍子も無くそうローブの男は叫んだ。

青年もあまりに突然で驚いたのか、少し間を空けてこう言った。


「うーん、地獄……かな」


「じ、地獄ですか!!」


その思い掛けない返答に、あんまり状況も把握できていないくせにただ漠然とそう言い返した。


「おっと、勘違いはちょっと早いぜ!」


(勘違いも何も、アンタが言った言葉を繰り返しただけだ僕は)


青年は偉そうに指を立てて説明を始めた。


「ここは地獄より更に下、通称『グロリアン・ワールド』と呼ばれている……いや、勝手に俺達が読呼んでいると言った方が良いだろうか」


そんな事言われても、さっぱり意味が分からない。


「……それは裏の裏が表で天国という事ですか?」


「なにをバカな、地獄の更に下はもっと悪い地獄だよ、地獄に来る行いをした者、それよりも更に悪い行いをした者が来る場所さ!」


しかしそんな事を言われても、やっぱり状況が呑み込める訳が無かった。


「あの、実は僕、死んだという事は覚えているのですが、いかんせん自分の名前すら覚えていない、記憶喪失と言う事は覚えているんですはい、地獄に来る理由が分からない……こんなにか弱いのに……僕」


さっきまで偉そうな事を言っていた男が、目を潤ませて弱よわしく僕と言い出したのはそういう理由だったのだ。


「当然さ、グロリアン・ワールドに来る者に記憶なんて必要は無い、つまり君は生物学及び医学上で言う記憶喪失と同じ状態になったのさ!」


色々と考えてみた、何も覚えてはいないが、自分が人だと言う事も分かれば計算だって出来る、つまり知恵はあるのだ。だが言われた通り記憶は無いのは自分でも分かる。


即ち地獄と言う場所がとても辛い場所だと言う事も分かる。 それが理解出来る分だけタチが悪い。

記憶が無い、だから恐怖なのだ。


少し前のクールなダーク・ローブ・マンは記憶が無いのだからそこにるのはダーク・ローブ・マンでは無い。

そこにいるのは小柄で可愛らしい顔をした黒いローブを着た、ただの青年なのだ。

そして状況を整理して、ようやく頭で理解出来た青年は狂った様に錯乱した。


「いやいやいやいやいやいや!! いやだあああああ!! バカあああああ!」


「いやいやいやいやいやいや!! 諦めなって、心頭滅却すれば火もまた涼し、住めば都なうえにウェルカム地獄、あ、俺ファングっていうんだ、この世界でこれから君の担当だから宜しくね、このバカ」


「うるさいこのバカ! な、何をしたって言うんだこの僕があ!! このバカあ、バカファング!!」


「……こいつ本当にダーク・ローブ・マンなの?」


あまりの狂いっぷりに、ファングだって少し呆れたのか、後ろの傭兵に尋ねた。

その偉そうな口振りから見ると、兵達の先頭に立っている事も有り、やはりファングは発言力を持つ立場なのだろう。


「はっ!! 間違いありません、これが資料です!!」


後ろの男が差し出した1枚の紙をファングは受け取った。

そして嫌がらせの様に錯乱するローブの青年に読み上げる。


「君は黒いローブを羽織っている事からダーク・ローブ・マンと呼ばれていた、世界中をたった剣一本で恐怖のどん底に陥らせた人類のクズ、恐ろしい殺人鬼さ、被害者は215人、被害総額は金貨1253枚に昇る、うん、ここまで来ると鮮やかだ」


「僕がやったの?」


「よっ、ダーク・ローブ・マン」


「……僕のバカあああ!!」


黒いローブの男は目一杯床に頭を打ち付けて、パッタリ倒れた。

本当にバカみたいな行動であった。


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