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第二十六話:夏、夕闇の旅路

>>新太郎

 今年の梅雨明けは早い。

 というより、途切れなく雨が降り続ける例年とは違い、降ったと思ったらすぐ止むを繰り返し、合間に暴風雨を伴う台風やハリケーンが来襲するので、何処から梅雨に入ったかは判っても、何時になったら明けるのか、いやもう明けたのか定まらないと言った方が正しいか……。


 降りそうで降らない、そんな灰褐色に濁った厚い雲に覆われた薄暗い空の下、初奈島市から見て南西500km彼方にある京神地方の街、堺阪市から仕事の依頼を受けたので、俺は愛車、トランクリッドの上端にあったハイマウントストップランプを潰して高津仕様の制動灯と方向指示灯付きのリアウィングを取り付けた3.5LV6エンジンのW211、に乗って高速道路のランプに向かって初奈島中央バイパスを走っていた。


 有料の高速道路との境目にある料金所のETCゲートを抜け、ブレーキから足を離してアクセルの上に移し、全力で踏み込んで加速する。

 夕方の5時。まだまだ明るいが薄っすら紅く陰り始めた空の下を、俺は少し混雑始めた車の流れに沿って100km/hちょっとのスピードで左車線を巡航していた。80m先を走る紺色のKA8型レジェンドを追い掛けていると、右車線を青い初代プロフィアの10t箱車と渋い深緑色のメタリック塗装の200系ハイエースが鬼ごっこをするかのように互いを煽り合いながら追い抜いていく。


 まもなく六郷JCTの分岐手前1km地点。普段ならこの辺りで後続の流れを読みつつ追越車線へ車線変更して下り方向へ入るところだが、今日は今走行中の車線を維持して帝都方面へ俺は進む事にしていた。

 500m。そろそろ分岐路を広げる為に路側帯がグッと広くなり、車線を分ける路面の白い破線の太さが太くなる。さあ、ゼブラ地帯と縦に2つ並んだ黄色の点滅信号がリレーする分岐路の分かれ目が正面に見えてきた。左ウインカーを焚き、車を左に寄せる。


 大きく左へとカーブする急勾配を駆け上がり、右手に陸南道の本線を望みつつ加速車線へと進入する。本線へと車線を変更した瞬間、ピコーンとカーナビから電子音が鳴った。

『警告です。予定されていたルートを外れました。只今再検索を実行します。』

 遅いよ、と心の中でナビに声を掛ける。そう。乗り込んだ時目的地設定した当初の進路では、陸南道を下がって忍々ロード経由で中央道を行く行路を彼女は示していたのだ。


 地図上の道路を塗り潰していたピンク色の帯が消え、『検索中』という半透明の表示がナビのモニターの上部にパッと浮かび上がる。やがて、

『ルートを再設定しました。これより、音声案内を開始します。』

という女性の電子音声と共に、車の位置を示す三角の矢印の前の道が明るいピンク色に輝いた。


 さて、経由するために帝都へ向かって突き進む筈が、本線に入って2kmもいかぬ内にピコーンと再び電子音が鳴った。

『2km先、高速出口です。左車線へ移動して下さい。』

 見ると、一つ先のICで下りてそのままUターンするように、ピンクの誘導路がカーナビのモニターに映る地図上に示されている。どうやら、意地でも戸空バイパスを通過させたいらしい。無論、無視する。


『1km先、高速出口です。』

『まもなく、高速出口です。』

『ルートを外れました。只今再検索を実行します。』

『ルートを再設定しました。これより、音声案内を開始します。』

『……まもなく、高速出口です。』

『ルートを外れました。只今再検索を実行します。』

『ルートを再設定しました。これより、音声案内を開始します。』

『……まもなく、高速出口です。』

『ルートを外れました。只今再検索を実行します。』

『ルートを再設定しました。これより、音声案内を開始します……。』


 高速道路の出口を通り過ぎる度にカーナビの指示に耳を貸さないでいたらしょげてしまったのか、最終的に画面の中に『検索中』の警告表示を出すだけで、彼女はうんともすんとも言わなくなってしまった。


 陸南自動車道、お呼び帝都高速3号線の終点の手前、後数kmで料金所というところで、目の前を走るトレーラーがハザードを焚いたので、俺は反射的にミラーをチラ見して右車線を走る後続車との距離と相対速度差を概算し、いけると判断するや否やハンドルをちょっとだけ右へ傾け、すぐに真っ直ぐに戻す。

 車はゆっくりと右にずれるように車線変更を始め、前走のトラックのコンテナの右後ろの角を避けるように隣の追い越し車線へと割り込んでいく。そして舵輪を左に切って車体を道路と並行になるように調節すると、目の前の白いR31クーペに追従するようにハザードを点け、アクセルから足を離して緩やかに減速する。

 40km/hまでスピードは落とさざる得なくなり、流れに乗ってゆっくり走るが、殆ど止まってしまったといっても良い程徐行している走行車線の車列をごぼう抜きしていく。車線減少で3車線から2車線になっている上に、料金所の手前で下から合流、通過してすぐに下道へ分岐する出入口が各1箇所ある故に、左車線の方は混雑するのだ。だから、料金所をパスしてそのまま帝都高速をずっと通行する車は、そろそろ混みだすなというポイントの前で事前に右車線へ移っておくのである。その方が少しでも混み具合が緩和されるからだ。


 この頃になると、やっとカーナビの方も俺の意図を汲んだのか、帝都高速へ向けてピンク色のラインを伸ばしている。


 やがて、料金所手前500m地点に差し掛かった頃、とうとう此方の車線の流れも完全に止まった。俺はギアをNに入れてパーキングブレーキを掛けると、ハザードランプを切った。

 たまに何かの拍子に微動する車の流れに合わせ、Dレンジに入れてブレーキを踏みながら惰性走行し、また強く踏み込んでNレンジに入れる事を繰り返す。

 左側へ視線を移すと、微動な発進と長い停車を繰り返す車の列を掻い潜るように、紺色のSW20やワインレッドメタリックのCE1型アコード・ワゴンが右ウインカーをピカピカと規則正しく点滅させつつインターの合流口からそろりそろりと割り込みを図っているのが目に入る。ただでさえ渋滞している所に強引に入ろうとしている車がいる限り、まだまだこの混雑は続くようだった。

 だんだんと目の前に、料金所のたくさん並んだゲートの群れとその上の巨大な案内標識が大きく迫って来る。


 どのゲートもETC専用のそれなのだが、僕は5つ並んだ内の一番中央分離帯側に向かう列にさっと並んだ。

 目の前の白い初代ガーラの高速バスに続いてゲートに侵入する。我ながら面白い事に、一時停止して料金所のおじさんとお金や発券の遣り取りを交わす必要なんてないのに、車を思いきり右側に幅寄せしている事に気付いて失笑しそうになった。


 料金所を無事に通過し、左ウインカーを焚きながら後方に注意して車線変更し、本線の追い越し車線へと進入する。そして、ある程度車の列がバラけると、さらに左側にある走行車線へと車を移す。

 両側を高い防音壁に囲まれた、ただ只管真っ直ぐ伸びる片道2車線の道をゆっくりと、しかし忙しなく進んで行く。遥か遠く、されどもはっきりと正面に帝都の高層ビル群が見え、偶に思い出したように一般道や鉄道の線路の下の四角い穴のトンネルを潜り、再び高架の上へ駆け上がる。


 都市高速は何処もそうだろうが、かなりの頻度で右側からの分合流がある。此方が徐々にスピードを上げ、110km/h以上も加速した状態なのに、後ろを確認していないのか、右側の合流線から左ウインカーを点滅させてのっそりと割り込んでくる車がいるので、慣れた事とは云え吃驚する。

 それと、判り難い路線表示。まるで蜘蛛の巣のように放射状に縦横無尽に広がる道路を示す緑板の上の白い線は、俺みたいに道路網を頭に叩き込んでいるプロドライバーや地元民なら兎も角、果たしてあっという間に通り過ぎる短き間に正しく理解されているのかといつも疑問に思う。白いラインの所が抜かれていて、黒い色硝子が嵌めこまれたLED式の電光掲示板となっており、赤く輝いて渋滞の箇所を示している物もよく見るが、俺ですらまともにその全てを数瞬で把握できた事は一度としてない。タイムラグがある上に、その渋滞の発生しているらしい場所へ到達するまでの間に状況は刻一刻と変化するので、見るだけ無駄だと流し見ている所為もあろうが、あれを一度で理解するのは人智の及ぶところでは到底ない。

 それが証拠に、頭の上の方へ意識が集中しているのか、2km、1kmそして直前と3回も出口の前に路肩の標識で予告されているというのに、通り過ぎる直前に慌てたように合図無しで急ハンドルと急ブレーキで分流車線まで道路を横断する馬鹿バンが多い事。海の日の3連休の初日だからかもしれないが、危なっかしいサンデードライバーが今日は多い。

 都市高速なんて、高速道路を走り慣れている俺でも戸惑う位複雑怪奇な造りをしているのに、そうでない事実上の初心者風情が面白半分で入るところではない。どうしても走りたいのなら、せめて自分が走る予定のルートくらい頭の中に叩きこんでおけ!……そう思う。


 左車線で前を走るスカイブルーメタリックのアクアに追いついた黒いY31セドリック・セダンのクラシックで○相互マークのタクシーが、車線変更がしたいと右ウインカーを点滅させて右車線を追従していた俺のメルセデスに向かって合図をしている。俺はスピードを抑えると1発だけパッシングをし、快くセドリックを入れてあげた。

 素早く、けれど的確な操作でスッと右車線へ移ると、相互タクシーは3発ハザードを焚き、速やかに加速していく。お礼をされると何とも気持ちがいい。だからついつい譲って上げてしまう。


 その内、あれだけ離れていたと思っていた鬱蒼としたビルのジャングルの中へ、車は差し掛かる。

 CL1の外周をカバーし、4号線や5号線へ抜けていくバイパス路の第二環状道路(CL2)への分岐が見えてくる。このCL2号線は交差する道路の都心方向への出入口を持たないバイパス路なので、地方から都心をスルーして向こう側の別の地方へ抜ける車が居なくなる事はあっても、都心方向へ向かって流入してくる車は無いから相対的に3号都心方向の通行許容量に余裕が出来る。つまり渋滞が解消する傾向になるのである。大体、都心高速を利用する車の半分以上は、地方から地方を走る時にたまたま経由しているから通っているというだけの車である。

 しかしである。都内の地下を数十kmに渡って貫通する新しいバイパスがあるからと言って、そちらの方へ安易に行くのはプロとしてはまだまだである。プロドライバー、いや譚なる捻くれ者は敢えて旧道のCL1方向へ自車を進めるものだ。というより、8割以上が地下トンネル区間のCL2は渋滞しがちで空気も篭っているからあまり走りたくない。それに比べて、CL1は連続した急カーブさえ目を瞑れば、半分以上が高架とお堀区間である。

 尤も1号線の北向きへは出られても、CL2は3号線から先の円周の西半分しか完成していないので1号線南向きへは行けないから、結局CL1を走るしかないのだが……。


 そうこう言っている内に、帝都高速3号線の終点、そしてCL1への合流地点とCL1のどんよりとした暗い灰色の大きな高架がどーんと大層なスケールで目の前に近付いて来る。下り坂でスピードを乗せるようにアクセルを踏み込む。

 もうすぐ車線が減少し、右車線が消える。目の前の路面に左斜め前を指して早急な車線変更を警告する矢印が見えてきた。左隣並走していた黄色のヘッドをした10t箱車の初期型のザ・グレートを追い抜くと、俺は左ウインカーを点滅しながら左車線へ滑り込んだ。


 十分に減速してほぼ直角する急カーブを左へハンドルを切ると、立ち上がりから加速車線に進入しつつ車をキックバックさせる。ガードレールと高架のコンクリートの壁が切れ、ゼブラゾーンの向こうに、右方向に緩く曲がっていく4車線の1方通行の大きな道路と、そこへ合流する加速車線の先が見えてきた。

 本線を沢山の自動車が120km/h近くのスピードで攻めているのに、設計が古い所為で直前のカーブをギリギリ曲がれる速度で突っ走っても加速車線の長さがちょっとだけでなく足りない。

 仕方ないので、ぱぱっと周囲を確認し、スピードが乗り切らない状態で決死の覚悟をもって本線に飛び出し、合流してしまってからも急加速する。


 体がコーナーの外側へもっていかれそうな程Gの掛かる、高速道路という割にはRの短くて内側へ下がるバンクの斜度も急なカーブを、アクセルから足を少し離しただけで殆ど減速することなく命懸けで突っ込んでいく。少しでも怯んで大きくブレーキを踏み込めば、忽ち車間距離をギリギリまで詰めている後続車の衝突を食らってしまう。そういう意味では、間違いなくこの道は戦場だ。


 グニャグニャとスラロームする、まるでアメーバのように歪な形をした円周に沿って、交差する道路や線路を縫い、街の下を潜ったり上を跨いだりしてほぼ半周すると、帝都高速1号線への分岐が視界の奥に望む緩やかな右カーブの外側に見えてくる。俺は左ウインカーを点け、後方を確かめると路肩の方へ車を寄せて行った。しかし、すぐに帝都高速に入る分岐は、北方向と南方向の2つある事に思い当たると、そのまま環状道の本線を走り続ける事にした。仙谷方向へ北上するなら兎も角、今は南下しなければならないのだから、もう半周した所にあるもう一つの中央高速道路への分岐に入らないと……。

 どうせ環状線の輪を貫くように帝都高速1号線こと中央高速道路が走っているのだから、輪の北と南でそれぞれの方面の出入口だけを造らずに、北のJCTから南向きへ、さもなくば逆もできるようにすればいいと思うのだが、あくまで環状線の内側のエリアを走る1号線の区間は、道路施政としてはあくまで中央高速を南北に走り帝都を通過する車の専用バイパスに徹しさせる思惑があるらしい。実際、そんなイレギュラーな事をしようと思っても、一旦手前のランプで下りて下道を少し走ればどうとでもなる、と言えばそうなる。


 再び、ランプと共に幾つかのJCTの分岐や合流を抜けると、CL1が再び1号線と交わる地点に差し掛かった。左側に分岐の2車線路が見えてくる。今度は迷わずそこに車を進め、ややきつい左カーブに合わせてハンドルを切りながら斜度の急な下り坂を駆け抜ける。1m程の低いベージュ色のコンクリートの壁の上にある3m程の黒い網フェンスのむこう、粗いメッシュな布越しに景色を見るように灰色掛かった風景に、これから合流する片道3車線の自動車道が見て取れる。さあ、行こう。ステアリングコラムの左側にあるウインカーレバーを俺は上へ押し上げた。


 複数の主要な幹線自動車道が一つの環に合流するCL1等の帝都高速や国道の環状線と比較すれば、車がスムーズに流れているだけ大分ましであるものの、大陸を縦断する一番重要な道路なだけあって中央高速道路は相当に混雑し、片道3車線の道路は上下線共幅いっぱいに自動車が広がり、滞りつつも上に下へと擦れ違いと別れを絶え間なく繰り返している。

 走行する車の大部分を占めるのはやっぱり大小色とりどりのトラック達である。法人企業に属している物や、ギルドには所属しているものの個人経営の、運送会社や商店、商会、郵便等といった緑大板のナンバープレートをした事業用車が殆どだ。如何にも家族経営の店が使っているような4t未満等の小型トラックでもない限り、店や会社の看板を荷台や車体に掲げた車は十中八九事業用のナンバーを装着している。

 風に聞いた噂によれば、最近は白ナンバーの車というだけで、その車は何処の会社も取引どころか出入りを断られ、本来業者を守る筈の協会やギルドのような所にまで車両の登録を禁じられるのだという。おまけに、最近は個人の事業者でも規定の協会とギルドに所属している事を明示する為に、車体の目立つ所に協会名とギルド名、及びそれぞれの所属番号を大きく明記する事を強要するギルドが増えているらしい。道理でここ最近、目に見えてデコトラのような違法スレスレのド派手な改造トラックを見かけなくなった筈だ。滅茶苦茶な運転をする迷惑なトラックが居なくなるのは結構な事だが、風物詩と化していたトラック野郎どもを見られなくなったのは少し寂しい。


 左のみならず右側にも出現する下の道路からの合流路からも車が加わってくる。その中にはお仲間というか、頭に提灯を乗せたタクシーがチラホラと見える。まあ、恐らくその大半は客が指定した目的地に従って已む無く高速道路を使ったのだろう。俺のように今のところは空車という車は少数派なように感じられる。

 当然だ。夜勤明けなら兎も角、客を探すのに自動車専用道へ出たり、今まさに人の密集している大都会を離れたりするなんて愚行としか言い様がない。俺だって地方から予約さえ入らなければ、帝都の中心部を走っている内に下りて帰宅途上のサラリーマン相手に商いを始めているところだ。


 3車線の帝都高速の終点に着き、続けざまに料金所を2つ抜けて4車線か6車線の変則な道路が続く中央高速の都心郊外間の幹線区間をひた走る。下の国道を走っていた車も側道から沿線のICを経由して合流するから、先程までとは比べ物にもならないレベルで混み始める。

 真っ直ぐな景色が変わらない単調な道。道路のキャパシティーがいっぱいで速く走れず、漫然と進む車列。おまけにだんだんと雲間がオレンジ色に染まっていた空が陰って夜の闇が差し迫ってくる。……正直眠い。

 ふと瞼が重くなり、フッと視界が暗転する。その瞬間、まるで釣瓶落としをした井戸のバケツのように、俺の頭がガクッと前に倒れ落ちる。

 首に衝撃を受けた刹那、吃驚して思わず目が覚める。そうだ、俺は今車を運転中だったんじゃないか!しかも混雑した高速道路を……。ハッと目を見開いて前へ顔を向けた途端、フロントガラス越しに大型トレーラーのコンテナ部の暗い床下の剥き出された鉄骨とテールランプ部が視界いっぱいに飛び込んで来た!


 反射的に右足が動いてフルブレーキングしたお陰で、すんでのところで九死に一生を得た。気付くと、中央分離帯から数えて3本目の車線を巡航していた筈なのに、いつの間にやら右隣の車線へ移動していた。

 何とも悲しい哉。こんな目に遭っても眠気が吹っ飛んで気を引き締められるという訳にはいかない。何せほぼ毎日、下手すれば日中はもとより連日徹夜でハンドルを握らざるを得ないこの業界に身を置いていれば、こんな事位日常茶飯事だ。実際俺だって幸い大きな怪我をしてこなかったとはいえ、事故に巻き込まれた事は幾度もある。

 コンマ一秒でも目が醒めるのが遅ければ、猛スピードでトレーラーの後部に突っ込んであっけなく命を落としていたところだった。だからといってそれがトラウマになる事はない。嗚呼、危なかった……。それでおしまいである。いつ何時事故死してもおかしくない仕事をずっと続けていると、洒落にならない事に遭遇しても平静でいられる程度には心が病むようである。

「ふわぁ……。」

 視界がやや歪むと同時に大きく口が開き盛大に欠伸が漏れる。反射的にシフトノブに添えていた左手を、車内に自分しか居ないにも関わらず隠すために口元へと持ってくる。癖というのは実に面妖なものだと思う。


 欠伸をすると、改めて眠気が頭にもたげてくるのがはっきりと自覚できた。だから次のSAで休憩して少し仮眠を取ることにしよう。


 次に瞼が閉じてしまったら、本当にそれっきりかもしれない。

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