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第二十話:雪道を行く!

>>新太郎

 障子を透いて差しこむ日が瞼の裏を赤く染める。その余りの眩しさに俺はそっと目を開いた。

 布団の中は人肌で心地よく温かいが、薄暗い所為か、それとも時節柄か、部屋の中はとても寒々としているように俺には思われた。


 さて、起きようか……。そう思って体をもぞもぞと動かした途端、俺の腕が何か柔らかい物にむにゅうっと触れた。どうやら同じ布団に一緒に包まっている玉緒の大きくて柔らかい胸を思いっ切り揉んでしまったようだ。

 どっかの安っぽい恋愛物なら、ラッキーハプニングとしてちょっとした大騒動へと発展するかもしれないが、常日頃夫婦一緒に1つのベッドで添い寝している身の上では、もはやお互いどうこうも感じない。精々浴衣の襟から顔を覗かせる乳房の谷間が色っぽいなと思う程度か……。


 そういえば、隣に玉緒が潜り込んでもドギマギしなくなったのは何時の頃からだったろうか……。最初の頃こそ緊張したが、余裕が出てくるとどういう訳かムラムラとした激しい感情を捉え辛くなってしまっていた。元々異性に淡白なところが無かった訳ではないと思うけれども、単に食傷気味になっているというだけだろう。


 触れる事で玉緒の体を揺すって起こさないように気を付けながら布団の中から畳の上へと這い出し、予想以上の寒さで全身に鳥肌が立つ中、慌てて立ち上がる。

 浴衣を脱いで持って来ていた替えのワイシャツとチノパンに着替えると、俺は窓の方へ歩み、障子の下に設置された据え置き型の白い大きな型落ちした手動式のエアコンのスイッチを入れ、暖房のパワーを最大にした。


 氷点下かと錯覚する程に凍てついていた部屋の中が心地良く温まった頃、やっと玉緒も目を覚ました。普段は俺よりもずっと早く起床し、朝の家事に勤しむ彼女にしては珍しい事である。家事をしなくて良いという開放感から、ついつい気が緩んでしまったのだろう。

 玉緒も浴衣から茶色いミニスカートと淡い水色のセーターと云った格好になり、俺達は荷物を纏めて部屋を立つ準備を始めた。


 これでもかと盛られた無駄に豪華な朝食を終え、荷物を持って宿賃の精算を済ますと、俺と玉緒は係の中居に見送られる形で揃って旅館の外に出た。

 門口を出てガレージの方に曲がろうとした時、何やら聞き覚えのある数人の男女が会話する声が聞こえてくる。そのまま気にせず左の方へ曲がると、此方側にお尻を向け、大きなハッチバック式のトランクリッドを天高く跳ね上げた白いフォード・エクスプローラーの前で、昨晩風呂の前で玉緒を引っ掛けようとした金髪とその一行がSUVに荷物を詰め込んでいる所に出会した。

 エクスプローラーの巨体の奥に隠れて見えないが、その隣には俺のインスパイアが駐車している。


 彼らが立ち去るまでやり過ごそうか、とも考えた。だが彼方も当分車を動かす様子が見られなかったし、此方も出てしまった手前ぼうっと立ち尽くして変人扱いされても困るので、なるべく意識しないように心掛けながら彼らの前を通り過ぎる。

 鍵に付いたボタンを押して車のトランクを覆う蓋を解錠して跳ね上げると、下部に空いた隙間に指を挿し込んでそのまま上に押して全開にし、スーツケースを入れてからバタンとトランクリッドを閉めて施錠した。

 お隣さんの方はまだ荷物の積み込みに手間取っているようで、まだ乗り込む気配は見せない。だからお先に失礼させて貰う事にする。

「お前は此処で待っていてくれ。」

と、エクスプローラーと反対側の柱の影に玉緒を立たせると、俺は運転席のドアを開けて車に乗り込んだ。


 シートベルトを締め、屈んでエンジンを掛けようとして何気なく左側のAピラーの方へ視線を投げかけると、俺のセダンとSUVの30cm程間空いた隙間を金髪が此方側へ来るのが目に入った。

 ああ、あちらさんもいよいよ車を出すのか、だったら先に行って貰った方がいいな。そんな事を考えつつ鍵をスロットに挿し込んだまま起き上がると、左隣のエクスプローラーがバックで発進するのを待つ事にした。

 金髪野郎がRV車のドアノブに手を掛け、そのまま勢い良くドアを開け……。いや、ちょっと待て!いくら柱があるから横方向のスペースに余裕があるとはいえ、そんな乱暴な開け方をしたら……。そう俺が動揺するまでもなく、奴はエクスプローラーの運転席側のドアを俺のインスパイアの助手席側のドアにゴツンッと盛大に当てやがった。

 勿論ムッとしたが、そこは所詮ドアとドアの接触、そういう事で付いた傷の修理などたかが知れている。精々5千Gといったところだ。その程度で相手に対して厳しく賠償を求める程切羽詰まっても狭小な人間でもある心算はない。頭を下げれば黙認してやろう、そんな風に俺は寛大に構えていた。

 しかし奴は、しまった!とでも云うように目を見開き、はっと口を半開きにしたと思った次の瞬間、その場から逃げ出すように慌て、そそくさと自分の車に乗り込んだ。

 グオオオオオ――――ン……。

 エクスプローラーからエンジン音が低く轟く。前言撤回、逃げるように、ではなくこいつ完全に逃亡する気だ。そうはさせるか!


 パ――――――――――――ン!

 俺はホーンボタンを掌で力強く押し、ブレーキに右足を掛けてキーを摘み、スロットを捻ってエンジンを作動させると同時にブレーキを踏み込んでRレンジにギアを入れ、車を急発進させた。ハンドルを左に切って4輪駆動車が出庫出来ないように妨害しようとした。

 だが、そんな見え透いた行動は当然相手も察していたのだろう、相手も車を勢い良くバックさせた。

 先にも書いたと思うが、この旅館の駐車スペースの前の道は、すぐ傍に小川が流れている関係上路肩が斜度のきついちょっとした崖になっている。だから道幅6m弱以上後輪を下げると、4駆は兎も角FFの俺のホンダ車はそのまま脱輪して立ち往生してしまう。

 相手のフォード車と僅差も無く並走している所為でステアリングを切る切っ掛けを失った俺は、諦めて後輪が崖の淵で接触するギリギリの所で車を止めた。

 そんな俺を見たからだろうか、ふと左後ろを振り向いた俺の目に、勝ち誇ったような顔をし、右腕でガッツポーズを作って挑発するように俺へ見せつける金髪男と、そのまま男を乗せて後部を下にしてゆっくりと崖を転げ落ちて行く白いエクスプローラーの姿がセンターピラーと硝子越しに映った。


 ガタンッ……ボトンッ……ドカンッ…………バッタ――――ン!

 大昔、両親に連れて行って貰った遊園地で、円形の自動車のような筐体が前回りをするように円を描いて回転し続ける遊具を見た事があるが、まさにあんな感じに床から尻、そして屋根から鼻先へと縦方向に斜面を転がり落ちたエクスプローラーは、川面の上でリアウインドウが付いたラゲッジゲートを下にし、真っ黒なお腹を此方に向けて見事直立すると、力尽きたかのように向かって左方向、運転席の方を川の水に沈ませるように横転して停止した。


 運転席の窓を全開し、半身乗り出して後ろを振り向き、ざまあねえな、とせせら笑いつつ一部始終を見守っていた俺は、飽きたので顔を前に向け、川面に横になったRV車を呆気に取られたように見つめる玉緒に、

「もう行こう。乗って!」

と声を掛けた。

「え、でも……。」

 彼女は渋った。別に自分で勝手にポカをやらかして事故ったのだから放っておけば良いと思うのだが、あまりそういう気分にはなれない様だ。

「ん?どう見ても自損事故だろう。俺達がどうこうする必要もないさ。……行こう!」

 それでも乗り気でない玉緒を促し、少し強引に助手席に乗せ、Dレンジに入れて車体前半分をガレージに突っ込んだ。

 次にギアをリバースへ切り替え、ハンドルを右に目一杯回しながら後退して左後輪を路肩に横付け、Dにシフトチェンジしてステアリングを左へ切り返す。

 そのまま前進する為にブレーキを緩めようとした刹那、金髪男の連れていた女達、金髪ポニーテール、肩まで有りそうなロングを纏めたツインテール、ボブカットのヤマンバギャル3名が、俺の車の前に立ちはだかった。

 はっきり言って邪魔もいいところなので、俺は運転席の窓から顔を出して彼女等を睨みつけると、掌を思い切りハンドルのクラクションスイッチへ叩きつけた。


 パ――――――――――ン!パパパパ――――ン!

「ちょっと、そこ!危ないからもっと離れて!」

 クラクションを連打して怒鳴りつけたが、逆に俺は彼女等に詰め寄られた。

「どけ!……じゃないわよ!なんて事してくれたのよ!」

「そうよ!どうしてくれるのよ!」

「タケルにもしもの事があったらどうするの?って感じ。」

 言い掛かりにも程がある。確かに仕掛けたのは俺だが、それにまんまと乗って一人勝手に事故って逝ったのは、他ならぬ君等の連れの男だろう。

 話し合うのも気怠くなり吐息すると、傍で見ていた中居が応援として呼んだのか、丁度いい具合で番頭がやって来た。

 俺が停車措置をしてエンジンを切り、シートベルトを外して一旦下車すると、番頭は何故かその場にいた女性陣ではなく、横転した車中に取り残された金髪男を除いて唯一その場にいた男である俺に話し掛けた。

「お客さん!何があったんです?」

「何がって……、御覧の通りですよ?」

 咳き込みながら駆け込んで来た番頭に、俺は顎を小さく振り、川の中で無様に横たわるエクスプローラーの方を指し示した。SUVの方では、漸く脱出の算段を着けたのか、助手席のドアが空に向かって高く跳ね上げられ、乗降用サイドステップに手を掛けた金髪野郎が上半身を這い上げ、此方へ向かって眼をとばしていた。

「これは……。」

 呆然とその場に立ち尽くした番頭さんに向かって、俺は静かに声を掛ける。

「どうします?クレーンでも呼びますか?」

「どうでしょう?来てくれますかねえ……。消防団に連絡して牽引車を呼び寄せた方が早いかも……。」

「取り敢えず、ウチは関係ないから立ち去らせて頂きますよ。自損事故である事は一見して解る以上、私達が証人として立ち会う義理もないでしょう。ただ、何か不都合が起きた時は何時でも御連絡下さい。これ、私の名刺です。」

 ジャケットのポケットから名刺入れを取り出し、営業所兼自宅の住所と電話番号も併記された名刺を手渡すと、

「はあ……。」

と言って、番頭さんは俺達を通してくれた。

 俺は再び車に乗り込んでシートベルトを締め、エンジンを掛けて発車措置をすると、小刻みに何度も切り返した後に坂の下へ向かって出立した。


 ギアを2速に入れて悠々と山道を国道の方へ下りていると、突然玉緒が静かに声を発した。

「良かったのかしら?」

「別にいいだろう。そもそも逃げようとしないで形だけでも此方に謝っておけば、あんな馬鹿な事故を起こさずに済んだのだからさ。自業自得だよ。」

「でも、あなたが訴えられたりしないかしら?」

「切っ掛けは俺だとしても、今回は足捌きを誤った車が崖を転げ落ちて川の中に横転した、という自損事故だから問題ないだろうよ。仮に訴えた所で不起訴処分だろうし、それで保険屋同士の過失割合交渉がおっ始める訳でもなかろうさ。」

「楽観的ですのね……。」

 玉緒には呆れられたが、実際、俺は事態を楽観視していたので何も答えなかった。なに、たとえ何か起こったとしても、その時はその時だ。どんと構えていればいい。気に病むだけ損だという物だ。


 昨日恐怖に慄きつつ走った矢木ICまでの道程を、今度は谷側に沿う形で走破する。何度か対向車と出会したが、八雲地区へ向かう車以外は新しく開通した高速道へ流れているのか、頻度がグッと下がった分往路と違って怖さは然程感じない。


 矢木ICに到着して1つしか無いETCゲートを通過すると、前日までは赤いパイロンや黄色と黒の縞の太いゲートバー等で塞がれて通行止めとされていた分岐ルートのゲートが撤去され、自由に通行できるようになっていた。勿論、まだ黒々とした真新しいアスファルトの輝きが眩しい、新規開通ルートを進んで行く。


 比較的傾斜も内半径も緩やかな上り坂の左カーブをグイグイと上って行く。そして右側に道路が見え、目の前にある合流地点と合流誘導通行帯40km/h制限速度速度解除を示す標識を通過した瞬間、俺はアクセルを限界まで踏み込み、右後方の車の流れに注意しながらウインカーレバーを下げた。

 グオオオオオオオオン……カッチカッチカッチカッチカッチカッチカッチ……パチン…………ポチッカッチカッチパチン!

 目の前の白い9代目ハゼットのトラックが、安全地帯が途切れるか否かという、えらく手前の方でゆっくりと本線に入ったので、俺はそのまま全開で加速したまま加速車線を走行して軽トラを追い抜き、合流帯が終わるギリギリの所で本線へ合流し、

『強引に追い越してごめんね。そして割り込ませてくれてありがとう。』

という意味を込めてハザードを2発焚いた。


 本線車道は片道1車線の暫定2車線対面通行。矢木IC以南のそれと同じような道路が、所々大きく、時に細かくうねうねとうなりつつ山稜に沿って走っている。法定速度も相変わらず80km/hだ。

 山奥のど田舎の自動車道とは云え、主要都市圏と地方を結ぶ基幹高速道路同士を結ぶ第3セクター道路だからだろう。昨日までと比べれば上下線共に車の通行量が程々に多いようで、トラックやバスや普通乗用車等の対向車と数分に1台から数台程度の割合で擦れ違う。

 山脈と山脈の間に掛かった遥か高みにある高架の橋脚や、山肌を大きく切り抜いた真新しいトンネルは、将来完全4車線化する事を見据えてか、右側に既にほぼ完成、または造りかけの骨組みが既に建造され、至る所で粛々と工事が行われている。平野部と違って人が少なく、運営が所有している土地ばかりなので、建設地取得や手続きが比較的楽だから率先して作業が進められているのだろう。何だかなあ、と思う。


 30kmばかし走ると、橙の平行線の中に白い実線と緑色のポールが立っているだけの中央線が大きく広がり、ゼブラが見えたと思った直後にコンクリートの土台を備えた高鉄製の灰色のガードレールが路上に出現し、道路が片道2車線のごく一般的な高速道路になってしまった。

 だが、走り易くなったと思ったのも一瞬だけで、すぐに眼前に料金所が見えたので、前を走行する紺色のE24キャラバンコーチの後期型に続いてブレーキを踏んで減速した。


『幻想郷八岐草薙自動車道・一般自動車専用道共用無料区間幻想郷白銀スカイライン』

 料金所を通過した途端、路肩にこんな事が書かれた青色の大きな標識が立っていた。一般道との重複区間というのも珍奇だが、○○スカイラインと銘打たれている名前の通り、橙色の実線のセンターラインが1本だけ引かれた片道1車線の山岳路がグネグネと続いているのを目撃して俺は少し驚いた。が、一般道や簡易有料自動車道と連結させる事なんてよくある事だ。


 ただでさえ相当高い所まで登って来たのに、R=60~200という急カーブのうねりが続くワインディングロードを駆け抜けて更に高度を上げていく。

 道路の直ぐ左側は絶壁の崖で地面が見えず、ただあるのは群青色に輝く一面の高い空と、その下に広がる緑多い谷間の景色と、白銀の雪を頂いた勇壮な一望千里の山稜の連なりだけである。特に180度旋回する際にぱあっと広がる雄大な景色は、素晴らしい、この一言に尽きる物だったので、俺はステアリングを切る度に深く嘆息した。


 高速道路に挟まれている為か、スカイラインと謳いつつもその通行する車両の殆どはトラックやバスである。だが、その合間に走り屋らしい改造が随所に施されたスポーツカーやセダンとも擦れ違う。ヘアピンに差し掛かる度に、対向するヘッドライトやフォグランプを点けたトラックや乗用車とハザードランプを出し合って擦れ違うので、普段より一層運転をしていると云う事が実感できて、俺は思わず心が高ぶって仕方がなかった。

 山肌や木の上には、周辺の山岳と同様に真っ白な雪が厚く積り、鈍い灰色な輝きを放っているが、交通量が多くて車の排熱が溜まっているのか道路の方は黒々と湿り、実に好対照である。夏タイヤのままでも大丈夫そうだ。


 峠道の頂上部、上り坂から下り高へと転じる左カーブの頂点の外側、崖に向かって少し空間が広がった所に展望台が設けられているのに目がついたので、左ウインカーを点滅させて減速し、俺達は休憩がてらそこへ少し立ち寄ってみる事にした。

 崖の傍に転落防止と手すりを兼ねた丸太を四角く組んだ柵を並べ、20台程度の駐車スペースを仕切る白いラインを真ん中辺りに引いて並べただけの、展望台と呼ぶには酷く簡素なものである。普通の駐車場のように道路に沿ってそのまま設えてある所為か、出入りが面倒なのだろう、大方の車は素通りして閑古鳥が鳴いている。


 太陽の日差しを浴び、透明な氷の結晶となって濃紺の如く黒いアスファルトの上面を薄っすら覆う雪を靴で踏みつけると、凍てつくような空気が俺と玉緒の肌を撫ぜる。愚妻が何を考えているか定かではないが、少なくとも俺は、寒いというよりチクチクと痛いという感覚が先行し、些か不快だった。下界よりも空気が薄いように感じたので、余計にだったのかもしれないけれども、居心地の良いとは決して言えない。

 しかしながら、相も変わらず日柄は良く、素晴らしい、息を呑む光景が眼前に広がっている。濡れた路面を踏みしめて崖を囲む柵の上に両の掌を置き、じっと前を見下ろせば、眼下に壮大な自然が、じっと鋭く俺と玉緒を見つめている。

 この白く眩しい風景に単純に興奮を覚えているだけなのか、それとも自然という神の畏敬に平伏したい衝動に駆られているだけなのか、俺は足がガクガクと震え、背筋がゾクゾクとさざ波を立てているにも関わらず、どこかワクワクとした高揚感を禁じ得なかった。


「あら?」

 突然、玉緒が声を上げて空を見上げた。釣られて顔を上げて彼女が指さす方角を見つめると、成る程、どんよりと灰色掛かった分厚い黒々とした雲の集団が、風に流されつつどんぶらこっこと此方に向かって流れて来るのが目に入った。

 あれよあれよと云う間に、雲達は辺り一面の空を尽く鈍い灰色で塗り潰し、周囲は途端に薄暗くなった。それだけではない、よく見るとチラチラと白く凍えた六角柱の水の小さな結晶が寄り集まった柔らかい粒が、徐々にその勢いを増しながら天から降って来る。

 やばいな、と直感した俺は、玉緒を促すとすぐに車に乗り込み、急いで発進させた。


 嫌な予感的中。まるで白い画用紙を一面に、とまではいかぬまでも、50m程先からは雪と霧によって完全に視界が遮られた白く暗い世界を、前後のフォグランプと最大限に動かしたワイパーとプロとしての勘を駆使し、俺は山道を下界に向かってひた走っていた。本当はヘッドライトを点けた方が被視認性の見地から宜しいのだろうが、前照灯を点灯するとフロントガラスへ真正面から激しく叩きつける雪にライトの強い光が乱反射して却って視界の確保が困難になるので、この手の悪天候の時は消灯しておいた方が良かったりする。

 普段から手元の辺りを広く明るく照らす霧灯なだけあって、梨の礫や暖簾に腕押し程度の物であっても、視界が確保出来るのはありがたい。前を走るトラックのリアフォグも目印としてとして役だっているから、きっと俺の車のそれもそうだろう。フォグランプ、ありがたみ解る雪の道、という奴である。


 黒々とした道路も、あっという間に白く変色し、前の車が踏んだ轍の何組かの平行線の筋だけが、黒いアスファルトを雪の下から外界へ露出させている。その轍をタイヤで辿るように車をゆっくりと走らせているものの、磨り減りの目立つ夏タイヤで何処まで耐え切れるものなのか……。不安にかられつつ俺はステアリングホイールを握りしめた。


 スカイラインの終わり、幻想郷ICの入り口手前まで来た所で、もう駄目だ、と見切りを着けた俺は路肩に厚く積もった雪の上へ車を突っ込んで停止し、ハザードを焚いて停車措置をした。

 雪を被って凍えながら手首の機械のアイテム一覧の中から園芸用の小さなスコップを取り出し、フルエアロのサイドカーテンの下、フロントフェンダーとタイヤのすぐ後ろの辺り、及びリアフェンダーとタイヤのすぐ前、都合左右4ヶ所の雪を掻き出してアスファルトを露出させると、同じく一覧からスコップと入れ違いに取り出した4個の油圧式小型ジャッキを指定部分に取り付けると、えいや!とバーを押し下げて車体を宙へ持ち上げた。

 アイテム一覧からスパナーのアクセサリに付け替えた大型電動ドリルと、一揃いしか持っていない18インチアルミホイールのスタッドレスタイヤのセットを取り出し、俺はドリルを慣れた手つきで操作してホイールのハブに付けられた固定用のボルトのナットを外し、夏タイヤをアイテム入れに収納すると、冬タイヤを装着し、それぞれ5個あるナットを、五芒星を描くように対角線にそって締め付けた。


 ジャッキダウンしてジャッキを取り外し、片付けた後車を試しに前後に動かしてみてもタイヤの脱落等のトラブルが見られなかったので、俺はハザードを切ってそのまま車を発進させ、ETCゲートをパスし、高速自動車道へと入った。この先からはますます深く積雪し、チェーンの装着が奨励されているが、まあ大丈夫だろう。


 ゴキュゴキュゴキュゴキュ……。スノータイヤの太くて深いスポンジゴムの溝が、雪をしっかりと抱きかかえてグリップを保とうとする擦れた音が車内にも微かに漏れ聞こえてくる。しかっりとスタッドレスタイヤがその役目を果たしているという安心感を得られると共に、この音が聞こえなくなる即ちグリップの消失後スリップという、命綱としての緊張感も強いられる、そんな音だ。

 もう道路のアスファルトは降り積もった雪によって完全に見えなくなり、もう正直前の車が残していった轍と、赤と白の縞模様の降雪時路肩標識棒が無ければ、何処から何処までが道路なのかさえ判別出来ない。この状況で、いくら安定性の良いFF車でスタッドレスを履いているからと云って、80km/hを少し超える速度でぶっ飛ばしているのだから、我ながら馬鹿としか言い様がない。


 左右を望めば、相も変わらず雪に染まりきった連々とした大きな白峰があるが、先程とは打って変わって、幻想郷八岐草薙自動車道の無料部分から北側は、中央分離帯や複数の高架道路で上下線を明確に分けられた片道2車線道路として整備されていた。道路工事が大変で、長期計画では体力的に持たないと判断して一気に決着させたのか……。そんな事情を想像させる。

 吹雪の勢いが強くなり、ますます目の前が白くなる。恐らく数十mの高さはある山と山の間に並ぶ橋脚の上に鎮座する高架道路を走っているのか、強い横風に舞い散った雪の粒が容赦なく車に襲い掛かり、右に左にハンドルを取られそうになる。それでいて見える物といえば、高架道路の両脇のコンクリートのガードレールの上に何個も等間隔に並べられた赤や青の閃光を煌めかせる濃霧標識灯と、赤いリアフォグの光で辛うじてそれと判別出来る、ぼんやりとした大きな灰色の塊のようにしか見えない、前を走るトラックや乗用車の影が灰色の凍った空気の壁の向こうに朧気に見えるだけである。

 そうして山を突っ切るように貫通する明るいトンネルへ入る度にホッと一息を吐くのだ。トンネルの中だって濡れているからスタッドレスだと夏タイヤ以上にスリップし易いので、本当は全然安心など出来ないが、それでも見通しが良好な分悪天候の中を走り続けるよりは100倍マシだ。


 それでも、一番高い所はスカイラインを通過した時点でとうに越えた。後は一向下るだけだ。麓に降りて草薙市へ入り、そのまま接続する仁和横断自動車道を西へ向かい、中央高速を帝都方面へ入れれば何とかなる。

 そう思っていた時期が俺にもあった。突然現れた片道2車線が暫定2車線道に戻り、山を下りて田園地帯や市街地が続く盆地に入っても、天候は回復するどころかどんどん様相が悪くなって行く。

 たまに猛烈な勢いでブリザードの中を特攻して追い越して行くトラックが巻き上げた雪煙をモロに被り、フロントウインドウに叩きつけられて一面に広がる雪の結晶の大きな塊に心臓が止まりそうに成る程縮み上がりながら、何とか草薙JCTから仁和横断道へ入り、中央高速と接続する仁和JCTへ向かって走らせた。

 そんなこんなで、また目の前に立ちはだかる青白い山々を越える為に少しずつ高度が上がるのを微かに感じつつ、自分でもはっきりと自覚する程顔の筋肉を強張らせ、ステアリングホイールを握り直した。


 どの位走っただろう。

 山奥の高速道路お約束の、白く染め抜かれた吹雪の森が覆う山中に囲まれたとても緩やかな急カーブが九十九折に続く片道2車線の高速道路の走行車線を直走っていると、突然はるか前を走っていた箱車の大型トラックらしい自動車がハザードを焚いてブレーキランプを灯し、それに呼応するようにそれと俺のインスパイアの間を走行していた2~3台の車も同じように減速し始めた。

 俺は何が何やら状況を上手く把握出来なかったが、前の連中に倣ってハザードランプのスイッチに左手を伸ばすと、徐々に負荷を掛けていくようにじっくりとブレーキを踏み込んでいく。そして、後ろから来たビッグサムの最終型後期の10t車が右側に、2代目パジェロが後ろで完全に停車するまで、態と前に止まった初代ガーラⅡの高速バスと20m以上離れた所へ停車した。その後、スリップした後続車が此方へ突っ込んで来ない事を確認してからギアを1速に入れ、少しアクセルを煽りつつ徐々に前車との差を詰めて行った。


 ハザードを出して停車してから30分近く経とうとしていた。全く動きだす気配がない。ただ、しんしんと容赦なく降り続ける雪に車体が埋もれて行くのを待つだけである。

 さっきまでどの車も盛んにクラクションを鳴らして騒いでいたが、俺と同じように諦めモードに入ったのか、長い渋滞に巻き込まれた全ての車がライトを点けた状態で静かに停止している。

 ガソリンを節約するためにエンジンを切っていると、激しく往復するワイパーやハザードランプのリレー音、風に乗って吹き荒む雪の車に当たる音、そうした様々な音色が意外と五月蝿く感じるのを初めて知った。

 雪の重みでワイパーが折れて壊れたり屋根が凹んだりする恐れがある為、死にそうになりつつも、俺は車外へ出て小さなスコップで雪を掻き落とし、また車内へと戻る事を繰り返す。一体何が原因で渋滞をしているのか定かではないが、時折路肩を黄色い大型トラックにショベルを付けた除雪車やパトカーが通り過ぎて行く。

 車内は気密性が高いので外程寒くはないが、それでも冷え切ったレザーシートは容赦なく俺達の尻や腰から熱を奪っていた。一応さっき外に出た時トランクを開けて中のスーツケースから俺と玉緒のコートを出し、今はそれを羽織ってしのいでいるが何時までもつだろうか……。

「ねえ、あなた……。」

と、隣にいる玉緒が俺に声を掛けた。両手で股間の辺りを押さえて縮こまり、何処かそわそわしている。何が言いたいのか言わずしても容易に想像された。俺も尿意を感じていたからだ。出発してから3時間。こんな目に遭うのなら途中のSAかPAでトイレ休憩を取るべきだった。不覚である。

 しかも俺は携帯トイレなんて持ってなかった。後、スノータイヤは持っていたが雪用ワイパーやタイヤチェーンも持ってない。もう12月も後半だというのにも関わらずである。


 その時、突然後ろの方でガヤガヤと騒ぐ音と共に車が動き出し始めた。

 Uターンして高速を逆走している?エンジンを掛けて窓を全開にし、顔を出して後ろを振り向くと、何時の間にやら左後方の路肩に止まっていたパトライトを明滅させた白黒の170系ロイヤルサルーンのパトカーの助手席から保安官が下車し、俺の車と右隣りの高速バスの方へ雪を掻き分けて近付いて来た。

「どうしたんですか?」

と、俺はその青年に声を掛けた。

「すみません。今、この先で大型トラックによるスリップ事故があって、それを片付けたのですが、この大雪の為にこの辺り一帯の高速道を通行止めにする事になりまして。我々の方で誘導しますので、このまま転回して芝ヶ峰SAへ向かって、そこで待機して下さい。」

「え?」

「すみません。御協力下さい。」

 口答えした俺に向かってそっけなくそう言うと、彼は俺に背を向けて大型バスの乗降扉をトントンと叩き、顔を出したバスドライバーに向かって同じ事を復唱した。


 何か解らないが、ここから5km程手前にある大きなサービスエリアへ向かえ、と云う事なので、ここでじっとしているよりは何倍かマシだと思った俺は警察の指示に素直に従う事にした。

「……だとさ。5分位掛かると思うが、我慢できるか?」

「ええ、何とか……。」

「そうか……。じゃあ、行くか!」

 そう掛け声を上げると、俺はギアをリバースに入れ、勘を頼りに車をゆっくりとバックさせる。雪が既に数cm以上も降り積もり、リアウインドウは真っ白な壁で見事に目張りされていた。エンジンを切っていたからリアウインドウに仕掛けられた熱線やオートエアコンのディフューザーが機能していなかったからだ。普段運転する時には何の為にあるのだろうと少し疑問に思うリアウインドウにワイパーのある車の利便性を少し理解する事が出来た。


 ハザードを点けた状態でゆっくりと逆走したままSAの中に入ると、建物の前の歩道のすぐ傍に整備された横列駐車場の1つに偶然空きを見つけたので、俺はそこにバックで車を入れ、停止措置をしてエンジンを切った。


 相変わらずの吹雪の中、短い距離とは云え自分のコートの裾の中で家内を包むように護りながらダッシュでサービスエリアの建物の中に飛び込むと、食券式の食堂らしい暖房が良く効いた暖かなそこは、既に大勢の人人人で埋め尽くされていた。

 何はともあれ手洗いに行こうと、一旦そこを後にして建物に隣接するトイレに玉緒と共に向かうと、女子トイレどころか男子トイレにも長い行列が出来ていた。皆、考える事は同じなのだ。


 何とかギリギリセーフで用を済ませ、先程の食堂や売店のある建物に入ったすぐの所で玉緒を待っていると、食堂のスペースと売店のそれの間に設けられたただっ広い待合スペースの一角に黒山の人だかりが出来ている事に気が付いた。というより、老若男女の怒号や悲鳴といった阿鼻叫喚が響いているから、嫌でも目に付く。

 その殆どは作業着やカジュアルな服装をした若い男衆だが、中年の男や女、夫婦者らしき姿も見られる。ただ一つ共通しているのは、どいつもこいつも明らかに焦燥と悲嘆からきた疲れた表情をしている事位である。そして、その理由も大方容易に想像出来た。

「すみません!今道路が雪で通行止めになってしまって……、どうしても荷物が……。はい!……はい!それは承知しているのですが……。」

「どうしても行けないんですか?今夜中に阪京の方へ抜けなきゃ行けないんです!」

「そっち方面に通れる道ね……。ええ……。ああ……。う~~ん…………。」

 どうやら、彼らはトラックを使って荷物や商品を運ぶ途中の運送屋さんや行商人達のようである。相場とか荷受人の都合で限られた時間以内に運搬しなければならない身にとって、今の事態は最悪以外の何物でもないだろう。下手を打つと今後の仕事や生活の糧を丸々失いかねない。


 お気の毒様、と思いながらその群衆の様子を見守っていると、突如何やら新しい動きが始まった。

「え?そう!ホント?!」

 電話で何処かと遣り取りしながら、ホワイトボードにマグネットで貼り付けた大きな道路地図に赤ペンで色々書き込んでいた、『全国トラック協会』の藍色の刺繍のロゴが入った灰掛かったベージュ色の野球帽を被っていたリーダー格の壮年の大柄な男が唐突に素っ頓狂な声を上げた。

 そして大声で電話の相手に相槌を打ちつつ地図の上を赤ペンで殴り書き始めた。


 どうやら、電話の相手だったらしいトラック協会の職員が、多くの道路が雪の為に封鎖や通行困難で閉ざされる中、何とか通れそうな道を死ぬ気で見つけてきたらしい。

「行けるぞ!」

と野球帽の男が皆に向かって叫ぶと、周りのトラック野郎達からワッと盛大な歓声が上がった。そして、俺も含めてそれを耳にした周りのドライバーも注視する。

 悪天候の中で一番頼りになるのは、実は大型車を操る彼らのようなプロドライバーである。まして今は大雪。車重の重い積荷を満載したトラックや乗客を乗せたバスが進めるのなら、俺のような普通乗用車でも走破出来る可能性が十二分にある。


 そんなこんなで玉緒も戻って来たので、この場で昼食は摂らずに売店で適当に食料品と、次に立ち往生する可能性も考慮して携帯トイレや使い捨てカイロと云った物資を売店で調達する事にした。


 売店スペースで商品を物色し、必要そうな物を選んでいると、売店でカー用品を売っていたパンチパーマで小太りのおばさんに声を掛けられた。

「道具屋のおばさんだよ。ドライバーに便利な道具を売ってくれる凄いおばさんだよ!という訳でそこの兄さん、買って行きな。」

 うわ、何か面倒臭そうなのに絡まれたな、とも思ったがそのおばさんの前にある商品に使い捨ての雪用ワイパーカバーとか金属チェーン等が見えたので、序でに寄ってみる事にした。

 取り敢えず雪用ワイパーカバーを手に取った。ワイパーのゴムの上から取り付けるタイプの間に合わせ品のようである。その割に2つ一組が税込で399Gは高いような気もしないでないが、ワイパーがぶっ壊れて多額の修理代に泣く事を思えば安いのかなあ……。

「おばさん。これ、ホンダのセダンにも使える?」

「ああ、それ。クリップで簡単に留めるタイプだから車種関係なく使えるよ。」

「そう、じゃあこれ頂戴。」

 やっぱり高くないか?と思いつつもこれしか無かったので俺は購入した。


 さて金属チェーンを買うかどうかである。ぶっちゃけスタッドレスなんて溝が大きなだけの発泡ゴムの柔らかいタイヤでしかないので、雪道での走破性では圧倒的にチェーンに劣る。チェーンはスタッドレスと併用する為に持っていた方がいい。

 純粋に雪に対する走破性で言えば、梯子型の金属チェーンが良いと思うのだが、乗り心地は今一つになるし、凍結路や普通のアスファルトの上では使えないし、そもそもタイヤの外径や幅に見合った物を使わないといけないので、どうしても躊躇してしまう。第一インスパイアの前輪のタイヤのサイズなんか一々覚えていない。

「普通車用の柔らかいゴムで出来た亀甲型のネットチェーンもあるよ。そっちにするかい?」

 成る程、ネットチェーンなら金属と比べると多少性能は落ちるが、乗り心地も悪くならないし、雪がなくても使えない事もない。タイヤのサイズに関係なく装着できるタイプならそれに越した事はない。俺はおばさんが薦めてきた非金属チェーンを購入する事にした。


 1時間近く掛けて前輪にチェーンを填め、

「こんなに時間が掛かるのでしたらそこで昼食も頂けばよかったですわ。」

と玉緒に責められつつスタンドで給油をし、俺達は傍にいた10tトラックの後に追随するように出発した。

 SAの中に造られたスマートICから一般道の山道に出て、そこを近くのR279号線に向けて一路走り続けた。

 途中の枝道から合流しようとする車や対向車に、高速が不通である事を教えつつ南下し、R279をそそまま下って行き、途中の集落でR177という街道に右折し、中央高速に向かった。


 結局、中央高速へのICがある美禰市という街の市街地へ差し掛かるまで雪は降り続けた。

 俺は国道沿いのガソリンスタンドに入って洗車機の中に車を突っ込み、チェーンやスタッドレスタイヤを履いたままのインスパイアを水洗いした。途中、道路に思い切り融雪剤を撒いている現場に遭遇したからだ。あれが噴霧された雪道を走った後はすぐに洗車しないと、車体の鉄が錆びたり、タイヤのゴムが劣化してボロボロになったりして大変な事になってしまう。

 洗車後、チェーンを外し、スタッドレスを夏タイヤに交換してアイテム欄へ仕舞う際に、そのスタンドの店員さんの好意に甘え、外したワイパーカバーを処分して貰った。ありがたい事である。


 その後中央高速から首都高1号線とC1、3号線経由で陸南高速へと順調に道程を終え、途中で源さんの所に寄って車体に付いた傷を修復した後、夕方遅くにやっと俺と玉緒は自宅に戻った。

 幸い、アパートの周りは雪も降らなければ、そういう気配さえない。2種類のタイヤを季節によって使い分けなくてもいい暮らし。そのありがたみを、俺は少し実感した。

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