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せっかくトリップしたのに

作者: 大林秋斗

わたしは国籍日本、○×市に生まれて育った、純ジャパーニーズな関西女子。


容姿も黒目黒髪、凹凸の少ないのっぺりな顔プラスボディ。


平安時代に生まれてれば美人ともてはやされてただろうけれど、


あいにくと平成の世では平々凡々。



ううん、いいのよ、これで。


平々凡々、素敵な言葉。



実はわたし、異世界、アーストランゼンうんちゃら(長いので以下略)


国の第一皇女クラディス・メイ・アーストうんちゃら(国名です、当然長いので略)


そこから地球、日本という国に異世界トリップしてきた、異世界人です、元は。


わたしの元いた世界は魔法ありの、ここでいうところのファンタジー世界。



もちろん、アースト(しつこいようだけど以下略)国では、


このジャパニーズです、っていう容姿ではなかった。


金髪に碧眼、日本でいうところの欧米人って感じだった。



ここ日本にトリップしちゃったのは転移魔法が失敗したみたいだから。


(転移魔法自体かけたつもりなかったんだけど。)


気が付いた時には、この日本という国に赤ん坊としてトリップしていた。


俗にいう、転生トリップというやつかな?


異世界の記憶も、しっかりわたしの中に残っていた。



その分、普通の子として振舞うのが大変だったけど、平々凡々の容姿って、目隠しになるみたい。


これまで注目されることなかったから、異性にも同性にも。




トリップしちゃった理由は、ねちっこい王子から逃れるため。


(たぶん、無意識の転移だったし。)



そいつは、大国(アーストなんちゃら国より長い名前なので覚えてない、しらん。略)の王子。


たしか側室の2番? 3番目だっけ?


ああ、思い出したくない。(思い出しちゃってるけど・・・。)



出会いはわたしが知らないうち。


国賓の歓迎会の宴で、わたしを見初めたとかなんとか、


その当時、わたしは6歳だったそうで、王子は18歳だったとか。


ロリ属性、確定。


ははは、そんなん知ったこっちゃないんやけど。



この王子さま。


国に帰った後、わざわざわたし宛に、花やら服やら下着やらを贈りつけてきた。


小さい時は贈り物、うれしかったのだけれど、フリフリのレースの付いた下着は引いた。


でも、大国の王子だから天然すぎて、女性の贈り物にズレた感覚持ってるのかなと思っていたけれど。



そのうち、王子の国で、国政の不正とか、王族謀殺の策略だとかが次々と発覚して、


王位継承に有力な王子たちは次々と廃されて、


いつのまにやらその下着王子が王太子になっていた。



そして国政の不正の黒幕はア国だと、ア国の言い分も聞かず開戦をちらつかせてきた。


あげくにそれを回避するために、妃候補という名の人質を差し出せと迫った。


その妃候補の名にあげたのがわたしだった。



わたしは父上、王の意向に従った。


わたしだって王女だし、自分の立場は分かっているつもり。


政略結婚する覚悟はそれなりにあった。



だから、ちゃんと受け入れたでしょ?


下着贈りつけてきた気持ち悪い王子と思いながらも。


粛々と婚礼に向けての準備に文句も言わずにしていたでしょ?



ぱっと見、王子の見た目は悪くないとは思う。


長身、茶髪、琥珀色の瞳。


やっぱり大国の王太子、エレガントに洗練された物腰。


でも、でも、わたしに向けたあの笑顔。


目だけ笑ってない。


うさんくさい。


あの顔で下着贈ってきたんだ。



わたしの不振がる態度に気が付いたのか、それとも気を抜いたのか。


この王子、これまでのできごとを掻い摘んで話だした。


有力な王子たちが廃されていったのは王子の策略。


「自分が黒幕です」と、あっさり白状しやがった。



理由は・・・、わたしを是が非でも娶りたかったから。


そのためにも、王太子に立って、発言力を強くしたかったからって。



その向上心、根性、策略練る頭脳、すごいね、ほれぼれするね。


わたしを妃として得るために、ここまでがんばれるなんて・・・、


わたし愛されてるわ(ハート)、


なんて思いません!




執着、執念通り越して怨念すら感じる。


どういう頭の中身してるんだろう。


どろどろどろどろ。


こわい、怖すぎる。



ああ、こいつがわたしの夫になるのね。


嫌、嫌、いや。


触れられたくない。


でも、でも。


ア国のため、民のため、がまんよ。


我慢、我慢・・・。



自分自身に言い聞かせてたけれど、いざ初夜を迎えると、


寝室にいたはずなのにみるみるうちに景色が歪んでいって。


気が付いたら、日本。


赤ん坊サイズに縮んでベッドの上にいた。


(産院のベッドに寝かされていた。)


どうも無意識に転移の魔法を自分にかけてしまっていたみたい。


城内だから結界の魔法も張り巡らされていたので、反発した魔法の作用だと思う、


転生トリップしちゃったのは。




それからは緑川奈々子(日本の父母が付けてくれた名前)としての生活。


もちろん、日本国民となった今のわたしに魔力はないし、当然魔法は使えない。


平々凡々、小市民Aの暮らし。


ドレスも宝石も宴も、身の回りのお世話をしてくれた侍女何もないけれど、


(身の回りのことは全部自分でしなきゃだけど)、とても居心地いい。


小さな幸せってこういうのをいうのね。



言葉遣いも気にしなくっていいし。


関西弁って、ええもんやで?


テレビにゲームに漫画。


畳の上でごろんとなってポテトをかじってても、何も言われない世界。


勉強は今のおかあさんも「しなさい。」って言われるけれど、


王女時代を思えば、全然問題ナッシング。


そして政略結婚しなくていいし、自由恋愛万歳。


(ただし、相手はまだ現れない。)



ア国の父上たちや民には申し訳ないと思うけれど、


ほんとここに来てよかったと、しみじみ思っていた。


なのに。


なのに・・・。





「・・・もう離しません。」


目の前でわたしの体をがっしり両腕で抱え込んでいるのは英語の教師。


わたしは英語教師の腕の中で足掻いてみるもののびくともしない。


授業のことで話したいことがあるからと準備室に呼び出されて来てみれば、


あっという間にこのありさま。


いったい、どうしてこうなったのか。



「・・・あなたはわたしの唯一の妃です、クラディス。」



なんと?!


わたしをア国での名前で呼ぶこいつは、まさか・・・!


背中がざわりと総毛立つ。



「もしかして二ールセン殿下? なんでここにおるねん!」


「転生トリップしたのはあなただけではありませんよ、クラディス。


・・・どんなにあなたを探したことか・・・。」



うわーーー、嘘やろう?


思い出したくもなかったのに現れちゃったのね、この下着王子。




わたしが転生トリップした後、このニールセン王子


(今は30すぎの独身英語教師、


そして彼もジャパニーズ特有、黒目黒髪、のっぺり平安朝瓜実の容貌)は、


わたしの後を追って自分に魔法をかけたとさ。



長ったらしい名前の大国での王族としての生活を捨てて、この日本に転生トリップする魔法を。



わたしがかかった魔法と違って行き当たりばったりではなく計画的。


わたしのいる時、世界と違えることのないように魔法の軌跡をたどり、


空間、時間軸を正確に図った上で(それだけに数十年かかったとか)


国政に憂いのないよう遠縁の親族を王位につけ


(王になった時は婚姻もせず側室も持たずだったそう)


魔法をかけたんだと。



わたしを抱く腕を緩めることなくこれまでの経緯を切々と語る英語教師。



うわー、すごいですね、それだけ思ってくれてありがとう、


ではありません! こわっ!


これぞ、異世界渡りの、the ストーカー。



「・・・震えていますね、大丈夫ですよ。わたしがずっといますから。」



ひいいいいい。


なーにが大丈夫やねん?


ずっとおるからあかんねん!


耳元で猫撫で声はやめてください!


わたしが嫌がってるのわかるやろう?



「・・・殿下、いや、先生。


わたし、あの時と違って、平々凡々、平安顔だし、


そんな追いかけられるほどの美人じゃないし、むしろその反対、残念顔でしょ?


ね、生まれ変わったんだから、お互い過去を忘れて、違う人生楽しもうよ?」


「何をおっしゃる、わたしの気持ちを知っているくせに。


ああ、照れてる、じらしプレイですね、かわいい人だ。


元のお顔もですが、今の平安顔もまたいいものですよ。


まさしくアジアン、クールビューティ大歓迎。


何よりも実年齢よりぐっと幼く感じますし・・・。そそる。」



もう、やめてくれええええええ。


背徳感もあってたまらない、って、


聞きたくない、その発言。


ああ、そうだった。


王子はストーカー、ロリ属性、変態だったんだっけ。


転生してもそれは変わらず・・・。


「それよりも・・・。」


王子、もとい先生が低い声で囁く。



「・・・続きをしましょう? お預けになってた新婚初夜の。優しくしますから。」



魔法で逃げられることはないですものね、この世界は魔法のない所ですし。



って、イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!



誰か夢だと言って・・・。



こんな転生トリップなぞいらん!


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― 新着の感想 ―
[一言] 今晩は。 面白くて笑っちゃいました。でもこれよく考えたら笑えない怖い話ですよね…笑っちゃってごめんなさいm(_ _)m
[一言] こんばんは、はじめまして。高遠忍と申します。 せっかくトリップしたのに!と嘆きたくなるのがしみじみとわかりました。 あ。でも変態元王子は今教師だから訴えれば逃げれるんじゃないでしょうか。…
[一言] はじめまして、ウタと申します。 最後まで読んで呟いたひと言は、 「ほ、ほんまや……」でした。 せっかくトリップしたのに!!(笑) 下着王子の粘り勝ちですね。 この後、クラディスはどうなっ…
2010/12/16 23:29 退会済み
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