筆頭様の筆頭様たちには手を出すな(side Yuna)
新人魔術師による、筆頭様の筆頭様殺害未遂事件は、目撃者多数であっという間に広がっていった。筆頭魔術師リヒトールの強さと怖さは国内外に改めて鳴り響いたし、また彼の最愛の妻に手を出すとこうなるという、いい例となった。
現行犯で取り押さえられた四級魔術師クオン・タイラーは、秘密裏に極刑になった。
表向きは国の式典を乱し、王族貴族民衆すべてを害そうとしたということだったが、まぁあの人が許さなかったのだろうな、とあの場にいた誰もが口には出さなかったがそう思った。どのような刑罰になったのかは明らかにならなかったが、極刑に処されたと発表されたのだから、その通りなのだろう。
彼の実家であるタイラー伯爵家は取りつぶしではなく男爵への降爵のみで許された。タイラー家は重罪人を出したが、男爵家では彼以外の者が関与していなかったと調査ではっきりしたため首の皮一枚で残されたのだ。科された罰金刑もさほど重くはなかったが、税金や社交界での立場の変動など、かの家がその罰を感じていくのはこれからだ。
また、式典で犯人であるクオンと同じ警備を担当していた次男は、自ら責任を感じて騎士を辞め、辺境で兵士を始めたそうだ。こちらはリヒトール・ハイレンの後見人である領主が引き取ったと聞く。
一方で彼のたくらみに乗りかかってしまった縁戚のサルバドール侯爵家には、表立っての処罰はなかった。当主である侯爵に内密なまま夫人が調査等で手を貸していたようだが、まだあきらかな被害が出る前だったのが功を奏したと言える。軽い罰金刑で終わったようだが、ただ浅慮さが浮き彫りになってしまった夫人は、社交界における今までの地位を一気に失った。
大きな事件ではあったが、結果的に犯人であるクオン・タイラー以外には命にかかわるようなひどい結果にはならなかった。これらはひとえに〝筆頭様〟の口添えがあったからだと、もっぱらの噂である。
◇
あの日から魔術塔にこもりっきりのユーナの耳には、一連の出来事は端的にしか入ってこない。情報統制されているのだとわかっているので、彼女は必要以上に罰を与えないようお願いするしかできなかった。それが叶えられたかをリヒトールに訊いたとしても、彼は興味のない出来事にはものすごく淡白なので、何の情報も出てこないだろう。
落ち着いた頃にジェシカに確認したところ、犯人以外はひどい目には遭っていないと聞いて胸をなでおろした。
そんなリヒトールは、現在ユーナと、ユーナのお腹の中にいる新しい命に夢中だ。
「君は生まれる前から親孝行で、優秀な子だねぇ。ユーナに似たんだねぇ」
「なぜわたし似になるのよ。あれだけの魔術を生まれる前から使えるなら、どう考えたってリヒト似でしょう」
「ユーナの命を守って、且つ俺の暴走を止めてくれるなんて、親孝行だと思わない? 早く会いたいなぁ。あとどれくらいで会えるだろう。あ、でも無理に成長して出てきちゃ駄目だからね。ちゃんと成長過程を踏んでから出てきてね」
時を操る可能性のある子どもである。お腹の中で無理に成長してもらっては困ると、リヒトールは慌てて言葉を重ねた。生まれたら全力で愛そう。自分の中での最優先はユーナだけれど、それと同じくらいに大切な存在になるはずだ。
筆頭様の筆頭様が増えるのは、あともう少しだ。事件から半年以上経った現在、ユーナのお腹は見た目でそうだとわかるほどに膨らんでいる。たまにお腹の中でくるくるとまるで泳ぐかのように回る我が子は、生まれる前だというのにすでに愛おしい。
ユーナが襲われたあの魔術式典がきっかけで、リヒトール以外の魔術師も家族と住むことが許された。リヒトールに対しての特別扱いが原因とされたせいで、塔主ターレンが動いたのだ。
魔術塔には、塔を覆う結界のせいで登録できる魔力がない人間は入れない。だから魔術師の結婚相手は魔術師であることが多かったのだが、彼らの仕事は魔術の研究だ。だから別々の部屋で住むことが定められていたが、まずそれをとりやめた。子どものいない夫婦は続き間に改装した部屋を研究室として与え、子どもがいる夫婦は塔の隣に新しく建てた建物へ移り住んだ。
魔術師と魔術師の間に生まれた子でも、魔力がないことは多々ある。また、魔力がある子どもでも、小さなときは契約に耐えるほど魔力量がないことも多い。だから今までは魔術師に子どもが生まれた時、子どもだけが王都に別邸を構えてそこで住むことになっていた。
けれど、新しく建てた建物は魔力なしでも入れるようにしたため、別々に住むことを余儀なくされていた家族たちは喜んだ。家族寮と呼ばれるこの建物には、魔力の登録が必要な結界ではなく、リヒトールが得意とする防衛術が幾重にも重ねられている。悪意の有無によって発動するそれは、なかなかえげつない効果があるのだとユーナはジェシカから聞いていた。
現在、リヒトールとユーナはこの家族寮に移っている。研究はどこでもできると思っているリヒトールは、できたら特別扱いは避けたいというユーナの希望を叶え、第一陣として家族寮に入った。他の男性魔術師が側にいる家族寮は気に食わないが、防衛術に防衛術を重ねた我が家なら大丈夫だと言うユーナに説得されたとも言う。リヒトールにとっても、ずっと部屋に軟禁していたユーナに、故郷の家族と会わせてあげられるというメリットは大きかった。なにせ、ものすごくユーナが喜んだので。
「名前はなんにしようね」
「時魔術師になるのならば、やっぱりカイロスかなぁ」
「女の子だったら?」
「うーん、ティリスとか」
伝説の魔術師から離れられないリヒトールだったが、かの魔術師の名前を知らないユーナはどちらもいい名だと思った。
「リヒトに似て生まれるんだよ~」
「性格は絶対ユーナがいい」
「まぁ……それはそうかも」
その数か月後に生まれた男の子──カイロス・ハイレンは、中身も外見もリヒトールそっくりとなるのだが、そのときのユーナとリヒトールは知る由もない。
その後の人生で、ユーナはリヒトールとの間に三男二女を産むが、時魔術を持って生まれなかった他の子たちも、それぞれ魔術の才能を持っていた。
時魔術と風魔術の長男カイロスはもとより、雷魔術が得意な次男、水魔術と治癒魔術の長女、炎魔術の三男、氷魔術と土魔術の次女。リヒトールの持つ魔力の特徴を仲良く分けたような子どもたちは、長じると皆魔術塔所属の魔術師となった。
基本的に他者への興味に欠けたリヒトールだったが、〝筆頭様の筆頭様〟と呼ばれた妻ユーナだけでなく、生まれた我が子にも重く激しい溺愛を見せたため、今では家族寮や魔術塔ではこんなルールがこっそり決められていた。
『筆頭様の筆頭様たちには手を出すな』
筆頭魔術師の筆頭様、連載版はこれにて完結です。お付き合いくださった方に感謝いたします。
リヒトールがこんなにヤンデレになるとは思っていなかったけれど、開いてみると短編では空気だったフェイン先輩がものすごいやばい人になってびっくりしました。
あの代は危険だ。
ちなみにリヒトールの代の次席はゼイン、三席がジェシカ、四席がフェインでした。




