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薬毒師  作者: 猫又


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20/21

若返りに効く薬毒 2

「ようこそいらっしゃった。薬師様」

 村の入り口では村長自らハヤテを迎えた。

「休ませたい連れがいる」

 とハヤテは背に負うハナを示した。

「おお、これはこれは。ささ、どうぞ」

 と村長はハヤテを村で一番大きな藁葺き屋根の家へと案内した。

「薬師様がいらしてるでなぁ」

 と村長の家の前には村人が数人待ち構えていた。

「薬師様、おらんくに薬をくだせえ。このままじゃ、村が途絶えてしまうでな」

「おらもだ」

「うちもじゃ」

 と村人がハヤテを見て切なそうな声で叫んだ。

「こらこら、薬師様はお疲れじゃ。こんな遠い村まで来てくださっての。休んでいただくのが先じゃ」

 村長はハヤテを家の中に招き入れ、ハナを休ませる為に囲炉裏の側に布団を敷いた。

「これはこれは可愛らしい娘ごじゃな。この山道は大変だったでなぁ」

 と村長はハヤテとハナに白湯を差し出した。

 ハナはゆっくりと布団に身を倒した。

 ハヤテが湯飲みの白湯をハナに飲ませて、ハナはほうっと息をついた。

「薬師様、幼子を連れての旅は面倒だろうね」

 村長の連れ合いだろう太った女がハヤテに握り飯を二つ差し出しながら無遠慮に言った。

 ハヤテはそれには答えず、斜めがけにしていた鞄から薬箱を取り出しながら、

「長、今回は何の薬が必要だ?」

 と言った。

「薬師様、それはもう、若返りの薬が。どの家でもそれがいるんでだよ。もう若い者が全然おらん。子を孕める年まで返って子作りせねば、村が途絶えてしまう」 

 と村長が言った。

 それを横で聞いていた連れ合いの女も頬を紅潮させてうんうんとうなずきながら、

「それに精がたんとたんと出る薬をおっとうに飲ませてくださいなぁ」

 と言ってから下品にひゃひゃひゃと笑った。

 ハヤテは薬箱を開き、鼠色の薬包を取り出した。

「一包み飲めば十年はもつ。一包百円だ」

 村長はありがたそうに両手で薬包を受け取った。

「ありがてえ、ありがてえ。これで村も安泰だぁ。薬師様、今夜は祭りじゃ、薬師様もたんと楽しんで行ってくだせ。ほら、薬師様にお勘定を」

「あいよ」

 村長の連れ合いが風呂敷包みをずずっとハヤテの前に差し出した。

 村長は風呂敷を広げ、

「この村にはもう十四世帯しかないんで、それぞれに十もらいてえ。薬師様が次に来なさるまでは保たせたいでな、全部で百と四十包みは欲しいでねぇ」

 と言いながら小銭や札をじゃらじゃらとハヤテの前に差し出した。

「百四十か」

 とハヤテが言い、すっと村長の前に自分の手の平を差し出した。

 ぱっとその手の平が下向きになった瞬間、パサパサパサとこぼれ出る薬包。

何もなかったはずの手の平から溢れ出、山になる若返りの薬包。

 村長と連れ合いは顔をほころばせ、その薬包を両手でかき寄せた。


「村の者も喜ぶでなぁ、早速、配るとするか。薬師様、夜には祭りじゃ、それまでゆっくりとしてくだせえな」

 村長と連れ合いはかき集めた薬包を抱えて、嬉しそうに部屋を出て行った。

 

「じいさんばあさんが若返ってどうするの?」

 布団の中でじっと成り行きを見ていたハナが聞いた。

「子をたくさん産むのさ。村人を増やして村が絶えるのを防ぐ。そのガキらがまたじいさんばあさんになって、また子を作る。この村はそうやって長らえてきた」

「ふーん……」

「自然に恵まれた村と言えば聞こえはいいが、何もない。交通の便も悪い。村はいつまでも発展しない。むしろ他人を村には入れたくないから衰退の一途を辿るだけだ。時折、自ら若返って、人口を調節する」

「へえ……」

 ハナはハヤテの前に無造作に積みあげられた札束を見た。

「そんな事より、少し眠れ」

「うん……おやすみ」

 ハヤテの言葉を待たずにハナは目を閉じた。


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