三郎太、覚醒──託された想い
「そんなあなたに……ひとつ、お願いがあります」
そう言って、翡翠はゆっくりと幸太を真っ直ぐに見つめると
「この先、何があっても、彼を……冬夜さんを支えて上げて下さい」
と言って、深々と頭を下げた。
その姿は、見ていて痛々しい程だった。
(もしかしたら……これが鬼の手なのかもしれない。──でも、こんな覚悟を決めた目をした人を疑う人間にはなりたくない)
幸太はそう思った。
「分かりました、約束します」
そう言うと、翡翠は嬉しそうにふわりと笑った。
──その笑顔は、どこか懐かしい笑顔だった。
「これを……あなたに」
翡翠はたもとから短剣を取り出して、幸太に差し出した。
「これは……鬼神が鍛えた刀です。必ずあなたを護ってくれます」
そう言われて、幸太は短剣を手にした。
その短剣は鞘に入ってはいたが、幸太が手にした瞬間に『ヴーン』と低い音を立てた。
青白い光が短刀から仄かに発され、自分に呼応したのがわかった。
その刹那──
三郎太の記憶が幸太の中に流れ込んで来た。
ずっと見守るだけで、助けられなかった二人。
翠を、危うい状態で長い年月を一人残さなければならない悲しみ。
それらは幸太の中で一つの光の塊になって、やがて弾けた。
幸太は涙を流しながら
「ありがとう……三郎太」
ポツリと呟いた。
三郎太の魂は、長い間、翠の傍で、悪鬼に堕ちかける彼を必死に止めようとしていた。
そして今、幸太として、この輪廻の輪を断ち切る為に転生したのだと……。
ただ、幸太をこの運命に翻弄させたくなくて、前世の記憶を封印していたのだと知った。
そして弾ける寸前に
『どう生きるのかは、自分で決めて良い』
と、言葉を残した。
「クッソ! 前世の俺、カッコ良すぎかよ!」
そう呟いて、涙を拭った。
三郎太を吸収してから翡翠を見ると、不思議と一番心強い味方のような気がして来た。
「翡翠さん、一緒に鬼退治と行きますか!」
そう言って笑った幸太に、翡翠は笑顔で頷いた。
(待ってろよ、翠。もう、誰も悲しみの涙を流させないからな!)
幸太は預かった短剣を腰に差し、翡翠と頷き合った。




