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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
97/120

甘美な檻(おり)

 遥は夢の中にいた。

それは幸せで、ずっと夢見ていた世界だった。


母は家を出て行かず、遥は普通の女の子として育って行く。

冬夜とは高校で出会い、気づいたら恋に落ちていた。


人気者の冬夜が、振り向いてくれるはずもなく……遥はただ、遠くで冬夜を見ていた。

そんな遥と冬夜は、社会人になってから偶然、再会を果たす。

互いに切磋琢磨していくうちに、お互いにかけがえのない相手になっていた。


不器用でぶっきらぼうな冬夜が、自分にだけ見せてくれる優しさが嬉しかった。


『遥……』

自分の名前を呼び、差し出してくれる大きな手が愛おしかった。

『遥……愛してる。誰よりも……なによりも……』

自分を求め、触れる手の熱さも……唇も……全て自分だけのものだった。

朝目覚めると、隣で眠る愛しい人の髪に触れる。

『んっ……』

と、短い吐息が漏れ、ゆっくりと瞼が開いた。

『遥、おはよう』

優しい笑顔と、愛しそうに自分を見つめる瞳。

頬に触れる手の大きさ……。

キスを交わし、逞しい身体に包まれて抱き寄せられる。

互いにの素肌の温度が、まだ……少し気恥しい。

そんな遥に小さく笑い、冬夜がキスをしながらベッドに遥を沈める。


『まだ……離したくない』


囁かれる甘い言葉。

互いの体温があがる。

何度も何度も……求め、求められ……。

甘く掠れた冬夜の声。

幾度となく、繰り返された契り……。



『遥、先に出るな』

「うん、また会社で」

ベッドの遥にキスをすると、バタバタと仕事に行く冬夜を見送った。

遥はベッドに倒れるように横になると、指に輝くリングに触れた。

朝の光にキラキラと光る婚約指輪。


ずっと……ずっと……この幸せが続けば良いと願った。


遥は祈りに似た願いを込めて、左手を胸に抱えるように握り締めた。


その時、まるでテレビが電波障害を受けたかのように、世界にノイズが走る。


「……い。──はる……か……せ……い」


懐かしい声が聞こえて来る。

その瞬間、得体の知れない恐怖が襲う。


「誰? お願い……この幸せを壊さないで!」

必死に訴える。


「……遥先輩」


その声は、温かい陽だまりのように降り注いだ。

「幸太?」

唇がその名を呟いた瞬間

『遥、どうした?』

冬夜が背後から抱き締めて来た。


「冬夜、今……」

そう言いかけて、なんの話をしようとしたのか忘れてしまう。

『遥、俺だけを見て……』

目を細め、愛しそうに遥を見つめる愛しい人(冬夜)

唇が重なり、ゆっくりと身体を押し倒される。

「冬夜……待って。何か大切なことを……」

そう呟いた遥に

『それって……、俺より大切なこと?』

冬夜の言葉に、遥の胸に不安が走る。

何故か、深追いしてはいけない気がした。

『遥……俺だけを見て、俺だけを感じて……』

遥に触れる冬夜の熱に、遥はゆっくり堕ちて行く。



おはようございます。

今朝も読みに来て下さり、ありがとうございます。


いよいよ遥が鬼の手中に──

そして、甘美な夢の世界へと沈んでいきます。


この“楽園”から、遥は自分の力で抜け出せるのか?

それとも、夢が現実を飲み込んでしまうのか……。


続きは夜に。次回更新は 20時 になります。

またお会いできるのを、心より楽しみにしています。

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