遥の不安
「翡翠……? 翠じゃなくて?」
ずっと黙っていた遥が、冬夜の言葉に反応して叫んだ。
「──いや、あれは翡翠だ」
冬夜は少し考えた後、遥を真っ直ぐに見て答えた。
「翡翠って、死んでるんだろう?」
その言葉に、幸太が勢いよく身を乗り出した。
「翡翠は……本当に死んだのかな?って……」
「何を言ってるんだよ!
翡翠が死んだから、翠が生まれたんだろう?」
幸太の言葉に反論する遥に
「だって、おかしいじゃないですか。
性別が変わるなんて」
と続けたのだ。
「は……?」
驚く遥に、幸太は考え込みながら
「しかも……おかしいんです」
そう言って、幸太は眉を寄せた。
「翡翠さんは刺されて血が出たのに、翠さんのときは一滴も流れていない」
と呟いた。
遥は呆れた顔をすると
「そりゃあ……鬼神だから、だろう?」
と答えた。
「それを言うなら、翡翠さんも鬼神ですよね?」
ブツブツと考え込む幸太に、遥は呆れた顔をして
「人間になった鬼神と、鬼神になった人間の違いじゃないのか?」
と呟いた。
しかし、その時には既に幸太は自分の世界に入っていて、遥の声は耳に届かなかった。
「幸太! ご飯はきちんと食べろ」
ブツブツ考え込んでいる幸太は、遥の声に頷いて食事を口に運び始めた。
冬夜が初めて見る幸太の様子に戸惑い、隣の遥へ視線を向けると
「集中すると、私の声以外に反応しなくなってしまうんだよ」
そう言って肩をすぼめて笑った。
「話をしたい時は、私が幸太に『話がある』と言うと、意識を向けてはくれるけどね」
ブツブツと思考を巡らせる幸太を見つめ、冬夜は小さく笑った。
「……さすが、オカルトオタクだな」
「それ、関係あるのか?」
遥と冬夜が顔を見合わせて笑うと、幸太がハッと顔を上げ、二人を見た。
「冬夜さん……ちょっと僕が集中している間に、遥先輩を取らないで下さいよ!」
目を据わらせて幸太はそう言うと
「あ! せっかくまとまりかけたのに……」
と叫ぶと、再びブツブツと何かを考え始めていった。
「あれだけの集中力があるから、この間の動画を短時間につくっちまうんだろうな」
感心したように笑う冬夜の横顔を、遥は複雑な思いで見つめていた。
冬夜へのこの感情が、晶のものなのか。
それとも──自分自身のものなのか。
そしてこの想いが、やがて醜い執着へと変わることを……
遥は、どこかで怖れていた。
おはようございます。
今日もお読み下さり、ありがとうございます。
少し余談になりますが──今日は、父の命日です。
父が亡くなってからもう20年。
あまりに早い月日の流れに、今朝ふと胸がきゅっとなりました。
週末ですね。どうか皆さま、穏やかで楽しい週末をお過ごしください。
次回更新は 20時30分 になります。




