断ち切る思い
冬夜の頬を、知らぬ間に涙が伝っていた。
翠の感情が流れ込む。悲しみ、憎しみ、絶望、そして千年の孤独。
───千年の時は、翠を壊すには充分な時間だった。
「そこで三人に、お願いがあります」
村長はそういうと
「どうか、この呪いにも似た悪循環を断ち切って欲しいのです」
と告げたのだ。
「もし……今回、冬夜様が翠に喰われたら……世界は破滅します」
村長の言葉に、遥と幸太が息を飲んだ。
「今、翠は悪鬼として完成しつつあります。
世界を襲う災害は、全て翠によるものです。
どうか……どうか……、翠を眠らせてあげて下さい」
床に頭をつけて頼む村長に、幸太がそっと手を取った。
「大丈夫です。
……だって、今回は僕が居ますから!」
胸を叩く幸太に、何故か冬夜が救われた気持ちになった。
すると幸太は冬夜を見ると
「……という事ですから、冬夜さん。
僕に感謝して下さいね」
と、いつもの軽口を言って笑った。
──本音を言えば、幸太も不安だった。
でも……千年だ。
千年も翠を待たせたのは、三郎太の生まれ変わりである自分にも責任があるように思えた。
そして一つ、疑問も浮かんだ。
何故、三郎太は千年も友頼の魂の傍に生まれなかったのか?
もし、自分なら、早く生まれ変わって翠を探したのではないか?
何故、自分はこんなにも翠のことを思い出せないのか?
幸太には分からないことだらけだった。
又、遥の傍に生まれ変わった意味も考えていた。
『夫婦は共にいないとな……』
ふと、翠の言葉が脳裏を過った。
まだ何か、パーツが足りない。
この不幸の連鎖を断ち切るには、まだ……何かが足りない。
漠然とだが、幸太はそんな風に考えていた。
その時だった。
『コトリ』
──何かが置かれる音がして、村長がハッと我に返った。
「……おっと、いけません。
歳を取ると、つい話が長くなってしまう。」
そう言って、村長は静かに襖を開いた。
村長の話を聞いているうちに、外はすっかり昼の光に満ちていた。
襖の外には、湯気を立てる味噌汁の匂いと、焼き魚の香ばしい香りが漂っている。
三人はそれぞれ、用意された膳を運び入れ、静かに箸を取った。
幸太は食事をしながら、ふと
「……そう言えば、この食事って誰が用意して下さっているんですか?」
と、疑問を口にした。
すると村長の顔が強ばり、少しの間の後に
「ワシの孫娘が……」
と呟いたが、ここには三人以外は年寄りしかいない。
……ふと、幸太は冬夜に
「冬夜さん、ここに来てから誰かに会いませんでしたか?」
と質問すると
「あ……?」
冬夜は箸を止め、しばらく考え込んだ。
……そしてゆっくりと顔を上げると
「会ったな。……翡翠に」
と呟いた。
5つの連載を同時に抱えているため、こちらのあとがきがなかなか書けず申し訳ありません。
ひとつ連載が完結しましたので、「水鏡」も少しずつ、あとがきを添えながら更新していければと思っています(ˊᵕˋ)
次回更新は 明日の朝8時30分 の予定です。
また読みに来て頂けたら嬉しいです。




